第25話

「ぜぇ、ぜぇ・・・やってやった、ぞ」


 盗賊頭を最後の力を振り絞って殴り飛ばし、それと同時に全身から力が抜けるのを感じる。意識を失うことはなかったが、力が抜けた足では体重を支える事も出来ず重力に任せるがままに地面へと倒れ伏してしまう。

 母なる大地は大手を広げて俺を迎え入れてくれるが、その実はただの固い地面。受け身も取らずに倒れた結果これまたひどい痛みが全身を襲う。しかし恩恵の効果が切れてしまった以上俺にはなす術などない、痛みに耐えながら顔だけを騎士様の方へと向ける。


「騎士様や、あの女の子が心配なんだろ?」


 急に声を掛けられた騎士様はびくりと身体を震わせ、なんとも言えない表情で倒れ伏す俺を見つめる。


「そ、それは・・・そうだが」


 その表情の意味は理解している。この騎士の主人であろう人が変な女に攫われ、その上それらを追う一部の盗賊がいたのだ。主人の身を案じて不安に思っているのだろう。

 本当はすぐさまそれらを追いたいが、目の前には身元不明とはいえ動けなくなった悪人ではないであろう人物が地面に伏しているのだ、普通の人間なら放っておけない状況だろう。


 ・・・・はぁ、そんな状態でいられてもかえって落ち着かない。ただただ放って置いていいと言ったところで聞かないのだろうし、少し強引だがヨルムルらの元へ行くよう仕向けるか。


「おいおい騎士様よ、俺みたいな悪党の心配なんてしていていいのか?俺の目的は金品及び食料の強奪、たまたまお前たちを奴らから救う形になったみたいだが、俺の体力が回復したら次の狙いはお前らだぞ?」


「くっ!やはり賊は賊か、少しでも心配した僕が馬鹿だったよ!」


 そのままくたばってしまえ!。

 という捨て台詞を吐いて騎士様はヨルムルたちが走り去っていった方へと走り出した。わざわざ止めを刺さないというのは、時間が惜しいというよりかは偶然とはいえ命を救われたことに対しての騎士の情けという奴だろう。


 忠義心が高い上にお人好しな奴だ。悪い人間に騙されるタイプだなあの女は。走り去っていった美形な騎士様のことを嘲笑しつつ、体力の回復を待つことにする。恐らく一時間もすれば何事もなく体を動かせるほどには回復するだろう。


「・・・・その前にこいつら目を覚ましたりしないよな?」


 そこら中に転がっている盗賊たちは別に息の根を止めたわけでは無いのだ。ただ強烈な一撃で意識を奪っただけで、正直いつ気絶から覚めてもおかしくはない。もし今この状態で盗賊たちが目を覚ませば確実に殺される、あの騎士をこの場から離れさせたのは間違いだったかもしれない。

 しかし後悔してももう遅い、騎士は走り去った上にあんなことを言ってしまった以上もうこちらの味方をしてくれるとも考えられない。つまり気絶している盗賊たちが目を覚ます前に体力を回復させこの場から離脱しなくてはならないということだ。


「・・・・もうやだぁ」


 俺は不運な状況に動かない身体でみっともなく涙を流したのだった。

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拾った財布から2万盗んだ男、ナイフを舐める 森THE森AG @morithemori

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