(四)-2(了)

 俺は急いでその建物に向かった。エレベーターで五階まで上がり、フロアに出ると、案内板が右を指し示していた。そして513、515、516号室を通り過ぎ、母がいるという517号室のドアの前に立った。廊下の一番奥の部屋だった。

 ドアの脇の、四人部屋の表札には母の名前の書かれたプレートしか刺さっていなかった。

 四人部屋なのに一人しかいない……。人口が少ないから病室も埋まらないということなのか。それとも、他の患者とは別に寝かさなければならないような状態なのか……。

 母は高齢だ。本来であれば兄よりも先に旅立ってもおかしくない。そんな母が急に倒れて救急搬送されたというのであれば、当然そうなってもおかしくはない。

 俺は深呼吸した。一度、二度。そして俺は覚悟を決めてそのドアを開けた。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母と実家 筑紫榛名@12/1文学フリマ東京え-36 @HarunaTsukushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ