怖くもなんともない話

仁志隆生

第1話

 やたら暑いある日の夜の事だった。

 家に帰って壁に掛けてる温度計を見ると32℃、こりゃ流石にエアコン入れねーと死ぬわと思った時だった。


「うらめしや~、って恨めしくないねー」


 なんかギャルっぽい娘が浮いてるし体透けてる。

 ああ、久々に幽霊見たな。


「あのー、前にお姉ちゃんがお世話になりましたー」

 そのギャル幽霊が頭を下げて言う、って

「は、お姉さんって誰?」

「何年か前におにーさんが会った幽霊だよー」

「ああ……てかあの人、女性だったんだ」

 顔ゲッソリしてやせ細ってたんでパッと見じゃ分からんかった。

「生きてた時にね、悪い男に騙されて捨てられたショックで拒食症になって弱ってた時に肺炎になっちゃって、だったんだ……」

「そうだったのか。だから怖がらせようとしてたんだ」

「うん。そんでそいつはお姉ちゃんが怖がらせた後はしばらく引きこもってたんだけどさ、今度は何を思ったかちっちゃい子狙うようになったんだー」

「ほう、そいつ今どこにいる?」

「いやね、奴がちっちゃい子襲おうとしたらさ、どっからか飛んできた黒の使者Gが顔に張り付いてさー、それでびっくりして転んで頭打ってそのまま地獄へ行ったよー」

「……それ、お姉さんがやったんじゃないの?」

「お姉ちゃんはG嫌いだから絶対しないよー」

「そうか。まあ因果応報だな」

「うん、すっとしたよー」

「よかった。ところで君も若いみたいだけど?」

「あー、あたしは元から体弱くて殆ど入院しててさー、今年十八歳で死んじゃったんだー」

「……そうなんだ。ご両親はさぞ」

「でもこれでさ、お父さんもお母さんも楽になれるかなーって」

「そうかもだけど、やはり悲しいだろね」

「分かってるよ……だからこんなカッコして夢枕に立ったらせいせいするかもって」

「だからか。まあある意味安心するかもね」



「で、どうしてうちに来たの?」

「うん、生きてた時にお姉ちゃんが夢枕に立って言ってたんだー。怖い話聞かせてくれてお世話になった人がいたって。けどたぶん全部話してないだろなって」

「いや全部話したぞ。……


「だからその話してない事聞かせてよー。天国でお姉ちゃんに教えてあげたいしー」

「無理だ」

「なんでよー?」

「それを言おうとするとな、背筋がゾクッとするんだよ。紙に書いても同じで……言いふらすなって事だろな」

「うーん、それじゃあさ、あたしが乗り移って勝手に記憶見るってのはー?」

「……どうなるか分からんが、今はゾクッとしてないからそれはアリなのかも?」

「うん。じゃあちょっとお邪魔しまーす」

 ギャル幽霊はそう言って俺の中に入ってきた。




「ギャアー!」

 ものの一分もしないうちに悲鳴あげて顔面真っ青になって出てきた。

「やっぱ無理だった?」

「う、うん。なんか不気味な声がして『引き返せ~』って。おにーさん、なんかに憑かれてない?」

「さあなあ。たまに金縛りになるが」

「うう、せっかくお姉ちゃんに怖いか不思議な話しようと思ったのに」


「あのさ、自分が直接体験したものじゃなくてもいいなら、まだいくつか知ってるぞ」

「え? それなら話せるの?」

「まあな」

「うん、この際それで」


「じゃあまず……これはどこにでもあるだろうけど、トイレの花子さんの話だ」

「知ってる。なんか色々バージョンあるよねー」

「ああ。それは俺が小学生の時だったが、ある時トイレの花子さんが流行ってさ、トイレのドアノックしたら本当に声が聞こえたとかで大騒ぎになって、終いには全校集会で校長先生が『そんなものは居ない』って言うほどになったよ」


「うわー、相当だったんだねー」

「うん。俺も当時ビビってた」

「えー、あんだけ不思議体験しといてー?」

「どんだけしようが怖いもんは怖いんじゃ」

「そっかー。それで次はー?」


「えーと、これは俺の母方の祖父さんが体験した話だが、狐に化かされたらしい」

「どんなふうにー?」

「たしか仕事で夜遅くなった時らしいが、川辺を歩いてたら向こうから若い女の人が歩いてきたとか。こんな時間にと思ってすれ違いざま、なんか妙な気配がしたんだと。それで振り返ってみると、そこにはもう誰もいなかった」

「えー、それだけじゃ狐ってわかんないでしょー? 幽霊だったかもじゃん」

「俺も祖父さんが亡くなった後、かなり経ってからそう思ったが……偶然知ったが祖父さんが歩いてた辺りの近くって狐にまつわる話がいくつもあったんだ。祖父さんはおそらくそれ知ってて、それでだろなって」

「へー……でも今頃知るって、なんだろねー?」

「さあな。さて後は……」


 その後、いくつかの話をして

「ありがとー。お姉ちゃんも喜ぶよー」

「いえいえ。さ、君も成仏しなさい」

「……いつかまた会おうね」

「ああ。いつか俺がそっち行った時にな」

「うん。じゃあねー」

 彼女は消えていった。




「……なんであんないい姉妹が早死しなきゃいけないんだよ、神様仏様」


「……いや、それは今生きてる俺達が、だよな」


 終





※ この話は花子さんと狐、そして言おうとするとゾクッとする話がある事は本当。

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怖くもなんともない話 仁志隆生 @ryuseienbu

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