第43話 ウエディングと結婚式②
翌朝
「キョーン!起きろー!手伝ってくれー!」
日が昇り始めた頃、美佳の大声で起こされた。
「どうしたんだ?こんな朝早くから。俺は今日休みなんだけど、、、」
「昼までにお姉のウエディングケーキ作るぞ!キョンはクリームをホイップして泡立ててくれ!」
「今日結婚式やるのか?」
「何言ってんだよ!キョンも招待されているだろ?・・・あれ?アタイ言ってなかったっけ?悪い悪い。そういうことだから。
今日の予定はケーキ作って、結婚式に参加ってことでヨロシク!」
また、急だなオイ。
確かに何でもするとは言ったが、翌日からケーキ作りの手伝いとは人使いが荒いな。
しかも、先生と旦那さんのウエディングケーキとは、、、
「失恋したからって、砂糖の代わりに唐辛子とか入れるんじゃないぞ!」
「しねーよ!」
「「はははっ」」
何だろう。美佳といると、肩ひじ張らずにフラットな俺でいられる。
クリームを泡立てながら、美佳に言った。
「あのさぁ、美佳。まだ誰にも言ってなかったんだけど、俺、警察官になろうかと思っているんだ。もし無理なら何か人の役に立つことをしたいと思っている。どうかな?」
「いいじゃないか!応援するよ。アタイに一番に言ってくれたんだね。ありがとう」
自分の未来の事なんか考えたことなかったけど、ここ最近はよく考えていた。自分はどうありたいか。自分はどうなりたいか。自分は誰と未来を歩みたいか。
そう考えさせてくれたのは越野家の人たちとサバイブのメンバー。衝突やすれ違いもあったけど、この関係を大切にしてこれからも日々成長していきたい。
「美佳。このクリームの味見してくれよ」
「ああいいよ」
俺の手が滑って美佳の鼻にクリームを付けてしまった。
「あっ!キョン!今わざとアタイの鼻に付けただろ?!」
「ごめんごめん。わざとじゃないって!」
「お返しだ!それっ!」
「おいっ!やめろ美佳!髪に付いちまった!」
「それっ!倍返しだ!クリームの扱いはアタイの方が上なんだよ!」
「やめろって!あっはっはっ!」
「それそれっ!あっはっはっ!」
大きくて綺麗でおいしそうなウエディングケーキは完成したが、美佳と無益な戦いをしていたせいで、時間がギリギリになってしまった。
俺と美佳は急いで支度をした。といっても、俺の場合はまだ一着しかないいつものビジネススーツを着ただけで、すぐに準備ができた。
ウエディングケーキが積まれた配達用の車の助手席で待っていると、美佳がドレスアップして現れた。
淡いピンクのワンピースにネックレスやイヤリングのアクセサリーを身に付けて、さっきまで一緒にじゃれ合っていた女の子が、急に大人な一面を見せてきた。
俺はそのギャップに驚きながら、なぜかこれ以上彼女を見ていたらいけないと思い、ゆっくりと目線を外した。
美佳が運転する車で、結婚式会場へ向かった。
「まずい、渋滞だな。遅れるぞ。キョンが子供みたいにはしゃぐから悪いんだぞ!」
「おいおい、人のこと言えないだろ?しゃーねーなっ」
俺は持っていたノートパソコンを起動して、とあるサイトへ接続した。
「え?!キョン!すごい!信号機が全部青になっている!今までこんなことなかったよ。これなら間に合いそうだ!」
「警察の交通管理システムをハッキングして、目の前の信号機を全て青に強制変更してやったよ」
「そんなことしてもいいの?また捕まっちゃうよ!」
「過去のいくつかの事件解決と飛行機発見で信用されて、警察のシステム運用に関するアドバイザーとして、全体の脆弱性テストを頼まれることになったんだ。
これはその一環。決して私利私欲によるものではない。後でシステム課に穴があったことを伝えておくから問題ない」
「すごいよキョン!パソコンとケーキを食べる能力だけは尊敬するよ。あははっ」
「だけってなんだよ!警察をハッキングしたついでに、さっきクリームを付けられたお返しで、美佳に犯罪歴付けておいてやるよ」
「おい!待て!冗談だろ?やめろキョン!」
「やだねー。あははっ」
結婚式会場 ホテル・ニューワガ
何とか間に合った。式場となるガーデン会場には弦楽カルテットがウェルカムミュージックを演奏していた。
「おーい!津部!こっちだ!」
振り向くと角嶋さんがいた。横には荒木戸さんと原課長もいて、みんなフォーマルな服装でオシャレをしていた。
「我々サバイブのメンバーも恵梨香さんに招待していただき、参上いたしました。
それにしても生きて帰られた旦那様が、まだしていなかった結婚式をすぐに挙げるだなんてなんとも感激ですね。う”っ、う”っ」
おいおい、原課長泣いてないか?そういえば先生の事を狙っていたんだっけ。共に立ち直ろうぞ、同士課長よ。
それにしても荒木戸さんと角嶋さんの二人、、、
「同じネイビー色の服を着て似合ってるよ」
「え?そうか?津部。メイタンがこれが良いって言うもんだからさ」
「もー、タッタンが先にこれ可愛いねって言ってくれたんじゃない」
おいおい、熱々だな。あまり見せつけてくれるなよ。
「え”ー?!お二人はそういう仲だったのですか?もー、突然でビックリしちゃったじゃないですか。ねー津部君」
「ん?知ってたよ。原課長」
「も、もしかして知らなかったのは僕だけ?ちょっとー!僕は課長ですよ~言っといてくださいよ~」
「「「あははは」」」
「津部。ここ最近元気なかったけど、今日は機嫌よさそうだな」
「そうか?」
なぜだろう。確かに角嶋さんが言うように、今日の俺は気分が晴れている。ほんとここ最近、いや今朝からか?なぜだかは自分でもよくわかっていない。
俺は会場の指定された席に座っていると、遠くから俺と同じくらいの背格好の男性が近寄ってきた。
「あなたが津部さんですね。初めまして。私は恵梨香の夫の雅則と申します。このたびは助け出していただいてありがとうございました。
今まで我が家に住まわれていたようで、これもなにかのご縁でしょう。今後ともよろしくお願いいたします」
「あ、ああ」
しっかりしている。先生が惚れたのもわかるような気がした。俺には無いものをたくさん持っているのだろう。
いつか俺もこの人のように、先生みたいな女性に惚れられるような男になりたい。
神父様が渋滞にはまって遅れているのだとかで、なかなか式が始まらない。
俺はトイレを探しに建物の中へ入った。
廊下を歩いていると扉が半開きになっている部屋があった。
何気なくその隙間を覗いてみると、純白のウエディングドレスに身を包んだ先生の後ろ姿が見えた。
その時、鏡越しに先生と目が合ってしまった。
「入ってきて」
ここ最近は冷たくされ、まともに会話をしていなかった先生に呼び止めれて部屋の中へ入った。
鏡の前で椅子に座った花嫁。背中が大きく空いたドレス姿を見て息を飲んだ。
収まりかけていた俺の思いが、再燃してしまいそうなほど美しい。
「まだお礼言えてなかったわね。家族を見つけ出してくれてありがとう杏太郎君。
それと、、、夫が帰ってきて喜んでいる私の姿をあなたに見せたら傷つけると思って冷たくしていたのを謝るわ」
「やめてくれ。
そのままでいい。
じゃないと俺、、、また好きになっちまう。
おめでとう、先生。
ありがとう、先生」
先生が目を潤ませている?!
「泣いたら化粧が崩れるから行ってちょうだい」
「ああ、それじゃあ」
俺はそのまま部屋を出た。
あの涙は何だったのか?真相は分からずじまいだったが、今後先生の事は尊敬する恩師として接していこうと決めた。
その後、神父様が到着して式が行われ、その場で披露宴パーティーが始まった。
弦楽カルテットの生演奏をバックに、みんなが笑顔で二人を祝福している。
「美佳姉ちゃんの作ったケーキおいしかった。もっと食べたい~」
全員で食べ終えてしまったのに、くるみが駄々をこねはじめた。
「あれは結婚式にしか食べられないケーキなんだよ。また今度な」
美佳があしらうと、くるみが言い返した。
「もっとウェディングケーキ食べたいから、くるみはキョン兄ちゃんと結婚する~」
「「「はははっ」」」
くるみはやっぱりかわいく癒される。みんなのアイドルだ。
たった数カ月のうちに多くの人と出会った。それも皆いい人ばかり。
人と人とのつながりがこれほどまでに尊く、豊かな人生とするためには必要不可欠であるのだと思い知った。
人だけじゃない。俺が成長していく時、常に近くにはケーキがあった。
笑ったとき、泣いたとき、怒ったとき、どんな時もそのケーキと共に成長できた。
そしてそのどれもが美佳が作ってくれていた。
やはり神か。いや、彼女も人だ。彼女と向き合おう。向き合いたい。
そうすることで、信頼できる仲間と共に、俺にも先生のような素敵な家族を作れるのではないのだろうか。
俺が出会ってきた人たちのような人生の名演奏者達が、俺の琴線に触れて共鳴し合うことで、この世界により良いメロディーが流れる。
俺がひかれたのはケーキと刑期以外に、琴線もだったようだ。
第一部 完
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人物紹介(主人公目線)
俺
自分でいうのもなんだが、だいぶ成長した
更生プログラムの途中
将来の夢は警察官(サイバー局)
相変わらず好物はケーキ
先生(法務省職員 少年院指導員)
厳しく優しく美しい
人生の道しるべ
恋心と口づけの思い出は封印した
越野
神(パティシエ)
先生の妹
とにかく接しやすい
ケーキ作っているのに細身
栄養は全部胸に行ってる?
越野くるみ 8歳
天使(小学2年生)
先生の娘
いつでも元気なおかっぱ頭
越野
ジパングエア機長
先生の夫
奇跡の機長としてテレビに引っ張りだこ
体格は同じだが中身は俺と違ってしっかり者
越野
元パティシエ
先生の父親
寒天に第二の人生を捧ぐ
甘味処『南国寒天』の店主
越野
元パティシエ
先生の母親
オシドリ夫婦の主
元気印
サバイブ課長(サイバー局捜査5課)
頼りになる兄貴的存在
俺を絶望の淵から救ってくれた
恋はからっきし
サバイブ係長
洞察力が鋭すぎで気が抜けない
男のセンスは理解できない
サバイブのライバル
正義感が強く曲がったことが大嫌い
プログラミングは俺のやや下?
サイバー局捜査1課長
反面教師 負のお手本
こいつのおかげでヘマできない
別名ズンダ
テロリスト
一歩間違えたら俺もこうなってた
昔は相棒 今は監房
少年院時代の同居人
大人気覆面ラッパー『ダイフク』
昔は同棲 共に更生YA!
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ニュース速報
【囚人を移送中の車両が事故で横転し、寸田紋太受刑者が逃亡したとの一報】
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サバイブ 団田図 @dandenzu
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