エピローグ
――――不思議な世界の話だ。
僕は繰り返された転生の中で、魔法だの精霊だのと、記憶にある前世にある限り、もっともファンタジーな世界で、今を生きている。
長い長い孤独がようやく終わって、僕は魔法使いである、前世からの実父や婚約者候補や、知らない間に決まった第三の婚約者候補、闇の精霊たちに、囲まれて笑顔でスイーツを食べている。
まったりとした時間が過ぎていた。
宿敵とも言えるモルベルトやヘレナとは、もう会うことはない。
結局、皇帝時代の僕の振る舞いが、モルベルトの執念となり(やっぱりヘレナは巻き込まれ転生のようだったけれど)ストーカーの如く、転生を繰り返していた。
いや、モルベルトの執念が、自分の生きる世界に僕たちを引き入れていたんだ。
そう考えると、モルベルトはいったい何者なのだろうと思わされる。
そしてヘレナは永遠にモルベルトと共に冥界に閉じ込められ、少し気の毒に思えた。
フレデリック王太子殿下のその後だけど、東洋の国の王女と結婚が決まった。
王女の国は王国としては小規模ながら、穀物が豊富に採れる島国だそうだ。
――――なんとなく、僕が知っている国によく似ている。
「鎖が切れた、感じがする」
ぽつりと言うと、ルートヴィッヒが心配そうにこちらを見た。
「気が抜けたということか?」
「ううん、そうじゃなくて、やっと自由だなって思っているの」
僕の言葉に、彼はやや渋い表情を見せる。
「今の君は自由――――かな?」
精霊王となった僕を、気遣ってくれているのだろう。
額にはまった魔導石や、やたらキラキラしている宝石のような青い瞳は、元にもどることはないとモーレックの森の守護者が調べてくれた。(そして魔力をとられた)
「自由ですよ、長い長い因縁の鎖が、やっと切れたっていう実感があります」
左指で鋏の形を作り、ちょきんと切る真似をすると、ルートヴィッヒに手を握られた。
「んん?」
「指輪、渡せてなかったからね。ゴタゴタ続きで」
にーっこりと彼は笑って、エメラルドの指輪を左手の薬指にはめる。
すごい装飾だ。エメラルドの周りにはダイヤがちりばめられていて……さすが公爵令息である。
「というか、こんなに豪華な指輪、貰えません!」
「というか、ケンジット公にはまだ指輪の件、聞いていないんだろ」
「あー……はい」
すっかり忘れていました。
「貰っておきなさい、アリス。おまえのために作ったものを突き返すのは“粋”じゃないぞ」
――――父よ、粋って。
「……はい、お父様」
「ルートヴィッヒ! 抜け駆けだぞ!」
東洋の王国の飲み物、ニホンシュをしこたま飲んで、ふらふらの酔っ払いになっているアルバートが移動魔法で飛んでくる。
「我は、宝石を降らせることができるぞ!」
闇の精霊、プルートーが色とりどりの宝石を、精霊魔法を使って雨のように降らせてきた。
「……これは、本物でしょうか」
「本物だな。いやぁ、うちは金に困りそうにないな」
ハッハッハッと父は笑い、アリスは結婚相手を選ぶのに困りそうだなぁだとか、独り言のように言っている。
候補を選んだのは、あなたですよね?
まさか三人目が精霊に変わろうとは思いもしなかったけれど、僕は明日から、いや、今日からは幸せな日々しかやってこないんじゃないかと思えて、生まれて初めて心の底から笑った。
これからやることは、多そうだったけれども――――。
異世界転生したら、公爵令嬢だった!?婚約者候補三人もいるって本当ですか?僕、男の子ですけど こねこまる @konekomaru700
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