想像と創造
私は物書き。詳しく言えば、小説の中でも短いと言われるもの──つまりは短編やショートショート、掌編と呼ばれるジャンル──を主に書いている、そんな人間だ。といっても現在、それらをどこかの出版社で売り出しているわけでも無いから、アマチュアもいいところではあるが。
今日も書斎に篭って、スタンドライトの暖色の光に包まれながら、万年筆とインクという武器を手にして、原稿用紙と呼ばれる白い魔物に己の世界を作り上げていく……と格好をつけたいところだが、残念ながら我が家には書斎がない。ましてや、原稿用紙も万年筆もないのだ。
そもそも私の執筆場所は不定である。家で書くこともあれば、外で書くこともよくある。今の時代、執筆するのに紙すらいらない。ポケットに入れた携帯電話に文を打ち込むだけで簡単に作品を記録できてしまうのだから。
けれど文章を記録する媒体とは別に、私には物語を作るためには欠かせない要素がある。
それは、私の古くからの友人の助言だ。ただし、そいつはかなり口うるさくて面倒くさくて、何より気まぐれなヤツで、私はいつも、彼に振り回されっぱなしである。
例えば私がスーパーに出かけている時。そいつは不意に、私にこう告げた。
「スーパーにはリサイクルボックスってあるよな。けど、リサイクルするのがペットボトルだけって誰が決めたんだ?もっと、他の物だったらどうなるかな?」
私は何の気なしに買い物をしにきただけなのに、疑問ばかり投げかけてくる、困ったヤツである。
彼は神出鬼没だ。別の日では、人が風呂に入っている時に突然やってきて、こう質問をしてきた。
「おい、ラクダって何で砂漠にいるんだ?砂漠ならどこでも好きなのか?なら、都会にいてもおかしくないんじゃないか。『東京砂漠』なんて誰か言ってたこともあるし。どうだ、都会にラクダがいてもいいだろう?」
こんな理に適っていないロジックを、ヤツは平然と突きつけ、私にさあ書け、書くのだと急かす。そのくせ、言われたとおりに私が書き始め、途中何かしらで行き詰まったとして、じゃあここからどうしようかと相談しようにも、彼はなかなか現れないのだ。
だが、これほど無責任で傍迷惑な存在なのに、彼を憎む気持ちは不思議に、これっぽちも出てこない。なぜなら、私も彼の意見に賛同してしまうのだ。「なるほど、そう考えるのもありだな」とか、「確かに、言われてみれば不思議だ」と納得して、そのことを書き出したくなってしまう。私は私の物語という箱庭で、それらの状況が一体どんな化学反応を起こすのかを、堪らず眺めたくなってしまうのだ。
だから今日も私は、私の頭に棲みつく"アイデア"という名の悪友と共に、物語を綴る。現実では起こり得ないような、だけど、もしかしたらどこかで起こっているかも知れない奇妙な想像を、私という媒体を介して、創造していくのである。
想像で創造するショートショート 遠藤世作 @yuttari-nottari-mattari
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