第5話 お小遣いの行方

「やっと暑さから解放されましたね」

そう勇樹は母さんに言う。


「そうねぇ、クーラー使わなくてもいいもんね」

と微笑みながら言う母。


「貧乏だからな!俺んち!というか!

 なんで国家公務員が貧乏なんだよ!」

とアイスクリームを食べながら勇樹は言う。


「そりゃ、委託だからよ」とアイスを食べながら

母は言う。


「まじか・・・。初めて知ったよ。

 夜勤とかもあったから普通に正社員、いや

 国家公務員と思ったよ」と勇樹。


貧乏と言っても普通に暮らせてるじゃない。

何か問題でもあるの?母はそう言うと


「いいかい?母さん。」


食について貪欲すぎるんだ、俺達。

エンゲル係数が多分収入の8割を超えている。

俺の給料がすべて食料に

消えている・・・。


「ありえない」と勇樹は言うと

机に一切れの紙を置く。


これはな!俺が考えた節約方法だ!と

ちょっと自慢気に言ってしまう勇樹。


母はそれに目を通すと

「勇樹さんや、ちょっといいかな?」

「はい、なんでしょう、母さんや」


私の食生活だけが書かれているのですが?

そもそも、エンゲル係数とか

何かのお菓子の名前みたいなこと言われても

わかりませんよ!


そもそも!勇樹さんのお小遣いが問題です!

食費以外で月3万円はダメと思うんです!


「待ってください、母さんや」


私は付き合いがあるんですよ!


それは私だってですよ!

私なんて月のお小遣いは3千円ですよ!


「大の大人が良くそれで持ちますね」

と少し神妙な顔で言う勇樹。


「勇樹さんが3万円使うからでしょう!」

と少し涙目の母。


わ、私だって、カラオケで歌いたい・・・。

でも、我慢しているの・・・。


「母さんや、それ嘘だ」と勇樹。

いつも「おごってもらっちゃった」とか

言ってるじゃねえか!


「勇樹さんや、ちょっといいかな、それはね、

 努力なのよ」と母は言う。


「私はね、アイス以外お金を使った事はないわ!」

と言いきる母。


その時チャイムが鳴り

「ヤッホー希望さん、これ頼まれていた同人誌ね。

 はいお釣り」と美香は言う。


「・・・お茶でも入れましょうか」と

席を立つ母。

「ちょっと待て、母。エンゲル係数以前の

 問題じゃねえか!」と勇樹。


「はい、勇樹にコレ。唯さんが渡してって

 言ってたわ。」と美香さん。


机の上に小包がおかれる。

「男の子ってなんでそんなモノ

 欲しがるんだろうね」と美香さん。


「勇樹さんや、それはなぁに?」


「これはですね。男のロマンです。」

下を向き言う勇樹。


「何かの有名な拳銃のモデルガンよ」

と勝手に冷蔵庫を開けて

アイスを食べる美香さん。


「それで200グラムの豚バラが

 どれくらい買えるのかな?」

と母さんは言うと、


「多分、100個ほどです・・・。」と

勇樹は言う。


その日、神原家では月にひとり

1万円のお小遣いと決まった。




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土曜日の神原家 ~「紫の国」閑話~ erst-vodka @east_vodka

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