第15話 最終話 Rainbow・yatsu

 今回建築した橋は斜張橋(しゃちょうきょう)と言われ橋の形式で塔から斜めに張ったケーブルを橋桁に直接つなぎ支える構造のものだ。

 別名ハープ橋とも言われ、いくつものワイヤーが張り巡らさせた感じが楽器のハープに似ている。日本では首都高速中央環状線の四つ木一丁目付近に架かっている。完成した橋の中央には大きな鉄塔が立っている。片側三十本ずつの六十本のワイヤー延び美しく芸術的な橋であった。

 鉄塔にはLED電球が埋め込まれたライトから、ラオスとベトナム国旗が浮かび上がる洒落た仕組みだ。町の人々は感動した。こんな美しい橋は見た事がないと。橋にプレートが取り付けられた。Rainbow・yatsu(レインボーヤツ)と名付けられた。

 裕輔が亡くなった翌日、橋に虹が掛かったから虹を入れた。そのプレートの下に名前を付けた由来が書かれている。

『この橋に情熱を掛けた一人の日本人が橋を守る為に命を落とした。我々は彼の勇気と情熱を永遠に忘れてはならない。谷津裕輔という名を』

 祝典には谷津祐輔を称える空砲が国境警備隊によって国境の町に鳴り響いた。

 ラオス政府はそんな日本人を称え二〇〇七年一月一日より観光目的で十五日間までの滞在なら日本人はビザ無しで入国できる事になった。

 これは谷津祐輔の貢献に因るものなのかは分からないが。谷津祐輔の名は永遠に刻まれる事になった。


 その式典が終わった後、平井監督からビオランに手渡された物があった。

 祐輔の荷物の中から、ビオラン宛に書いた封筒があったという。封筒を開けると手紙の他に写真が数枚入っていた。祐輔が故郷で撮ったのだろう両親と一緒に撮った写真とビオランと祐輔が一緒に映った写真があった。

『俺に万が一の事が起きたらビオランに保険金の一部を受け取って欲しい。その金で私の生まれ育った日本を訪ねて欲しい。そして四万十川と両親に逢って欲しい。これは俺が選んだ最愛の女性(ひと)だから』

 ビオランは読み終えて平井監督に抱きついて嗚咽を漏らした。

 まさか祐輔は死を覚悟していた訳ではないだろうが、やはり危険と背中合わせの仕事だから常に用意していたのだろうか。平井監督も涙ぐんだ。ビオランはそれ程までに私の事を愛していてくれたのだとまた泣いた。


 それから三ヶ月後、四万十川を見つめるビオランの姿があった。

その隣には祐輔の両親が立っていた。もちろんビオランのお腹の中に赤ちゃんがいる事も知っている。ビオランにいま出来る事は落胆している祐輔の両親に日本で子供も産み孫を見せることだ。祐輔の母が入った。

「どうビオランさん四万十川は祐輔が愛した川よ」

「素晴らしいわ。ユウスケが自慢していたシマント川なのね」

 ラオスやベトナムでは決して見られない清流四万十川。川の底まで透き通っている。濁った川しか見た事がないビオランは余りの美しさに絶句した。そしてビオランは生まれて初めて川の水をすくって飲んだ。そして絶叫した。

「スイアップ(おいしい)そしてンガーム(綺麗)」

 透き通るような聖なる河、橋とこの川をこよなく愛した祐輔が自慢していた川だ。祐輔が生まれ育った母なる川……。

「ユウスケ貴方の故郷は美しいわ。貴方の心のように清んでいて本当なら貴方と私は此処で一緒に暮らせたのに……ユウスケ天国で見ている? 私の愛したユウスケ、私は貴方の両親の元で赤ちゃんを産むわ。それから先は貴方の両親と相談して決めるわ」


 了


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国境の橋 西山鷹志 @xacu1822

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