5(終)

「だって憧れの作家さんに一歩近づけた感じがするから……。なんか僕、テンション高くなっちゃって、ごめんね?」

「い……や、まあ、別にいいけど……」

 そんな捨てられた子犬みたいな顔をするな!!!! やり辛いだろ!!!! 全く……。

「……俺ばかりがずっと」

「……え?」

「お前に、憧れてると、思ってた」

 皮を剥いて、食べやすいサイズにカットして、近くの皿に並べていく。案外すんなりと出てきた言葉に、俺は自分で驚いてしまっていた。

 憧れている。

 憧れていたのか、俺は。

 そんな……烏滸がましい。

「……何言ってるの」

 すると彼は、優しく、柔らかく、微笑む。

「そもそも僕は、貴方の小説を読んで、小説を書こうと思ったんだから」

「……え?」

「貴方の最初の作品、『君は黄昏に会いに行く』、僕はあれが、大好きなんだ」

「……それって……」

 彼の挙げた題名、それは、俺の本当に初期の作品だった。今思えば、あんな恥ずかしい作品……よく意気揚々と挙げられたものだと思う。正直、あれは黒歴史だ。ページから消したし、宣伝の呟きも全て消した。記憶からは消せなかったが。

 あれを、知っているのか。

 そんなに前から、俺のことを。

「……お前って……」

「ん?」

「……俺のこと、だいぶ好きだな……涼さん」

 俺の言葉に、彼は小さく笑う。

「今知った?」

 ……ああ、知らなかったよ。

 何だか全て、どうでも良くなってしまった。コイツの才能とか、俺の方が下で底辺な存在とか、そういうの、どうでも。

 だって、俺とコイツはここにいて、お互いがお互いのファンで。

 何かもう、それでいい。

 俺のしたことは消せないけれど。

 コイツが好きだという、俺の小説で……まあ、一生でも何でも、償っていくとしよう。


 ──


「クロード、何読んでるんだ?」

 私はその声に顔を上げた。そこには同僚の姿。私は手に持つ本に目を戻し、呟く。

「本だ」

「それは見ればわかるよ。内容を聞いてんだよ俺は」

「……そうだな……」

 私はこの本の作者に思いを馳せる。「あの作家が自分のことをどう思っているのか知りたい」。そんな私からしたら下らない、そんな強い願いを持った者を。

「……底辺作家が天才作家を殺そうとし、だが実は両方お互いを尊敬しあっていてハッピーエンド、って話だ」

「え、ほんとかよ?」

「ああ、嘘だ」

「何だよーーーー!!!!」

 うるさい、コイツは優秀なのだが、うるさいのが玉にキズだ。

 私は彼に構わず、ページを捲る。願いの代償に、と頂いた、この本を。

 何だ、帳瑛士……いや、佐藤雄二。他人を蹴落とそうとせずとも、面白いじゃないか。お前の小説。


 ──


「おい涼!!」

「ん、どうしたの? 雄二」

「お前っ……また大賞取りやがって……! お前は何だ!? 小説界の大賞全て総ざらいしてく気か!? 小説家泣かせのヤマダタロウなのか!?」

「はは、雄二はいつも元気だね」

「馬鹿にしてんのか!? ……いや、してないんだよな……知ってるよ……何だかんだ長い付き合いだからな……」

「雄二、よくわかんないけど、落ち込まないで?」

「誰のせいだ!? ……くっそ、いつか絶対、お前を倒してやる!!」

「僕はラスボスなのかな? ……でもいいよ、憧れの作家にそう言われるなんて光栄。……負けないからね」

「……こっちのセリフだ!」


 こうしちゃいれない。一刻も早く、コイツの上を行く小説を書かないと!

 ああ、いつか、なんて悠長なことを言ってる場合じゃない。

 今すぐ!!


 小説家を殺しに行こう!!



【終】

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小説家を殺しに行こう!! 秋野凛花 @rin_kariN2

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