第116話秋本
某高校
私は、授業中にも関わらず、魔力を練って自己鍛錬に励んでいた。
学校での生活はまるで楽しくない。
「―――」
先生が何か話してるけど、授業がまったく耳に入ってこないせいで、何言ってるか分からない。
まあ、ここは琴音が行くような学校だから、板書された内容さえ覚えていれば、テストで七十点は確実に取れる。
まあ、この高校に来てからテストで七十点代を取ったことなんて一回しかないけど。
「神科さん、神科さん」
「ん?」
先生の声を右から左へ聞き流していると、隣の席の人が話しかけてきた。
確か……そうそう、西川さんだ。
琴音以外の女には興味ないから、名前忘れてた。
「どうしたの?授業のことなら私に聞かれても分かんないよ?」
「分かってるよ。みんな、神科さんが真面目に授業受けてないの知ってるから」
それもそうね。
いつもボーッとしてるもん。
そのくせ、テストでは毎回学年一桁に入ってるんだけどね。
「私が聞きたいのは、ほんとに彼女と喧嘩したの?って話。ネットで騒がれてるよ?」
「彼女……琴音の事?」
「そうそう。で、喧嘩したの?」
…喧嘩?
喧嘩なんてした覚えないんだけど……あれか?
「喧嘩はしてないよ?ちょっとふざけてただけ」
「そうなんだ。で!彼女とはどこまでいったの?」
もう完全に彼女認定されてるのね…
「別に彼女じゃないよ。ただ仲がいいだけ」
「またまた〜、そんな事言って、最後までイッちゃってたりぃ?」
……視線集まってるんだけど?
声小さくしてるつもりかも知れないけど、普通に教室全体に聞こえるような声だからね?
しかも、気になってる人が多そうな話だから、先生まで聞き耳立ててるし…
「はぁ……だから彼女じゃないって。確かに、知人や友人に比べれば遥かに大切な人だけどさ…」
「大切な人……やっぱりできて「違う」……じゃあ、どうして同棲してるの?」
どうして?
なかなか誤魔化すのが難しい質問ね。
う〜ん……
「…琴音は、家事が苦手だから」
「ふ〜ん?でも、お母さんも一緒に住んでるんじゃないの?」
「…あの人は、放ったらかしてるとすぐに酒とタバコに手を出す。琴音がそれに釣られないように見張ってるんだよ」
間違ったことは言ってない。
お義母さんは、目を離すとすぐに酒やタバコに手を出す。
琴音がそれを見て、こっそり酒を飲むかも知れないと考えると……
「健康のためにも、そんな事はさせない」
…実際は、私を差し置いて勝手に飲むのが気に入らないだけなんだけど。
まあ、こういった方が、相手の健康を気遣う良いお嫁さんに見えるは……ず?
「なんか…神科さんの対応がお嫁さんのそれなんだけど…」
「……そんな事ないよ。いくら体が強いとはいえ、酒やタバコが健康を害す事は明白だからね。いつまでも健康で居てほしいの」
…何故か西川さんはニヤニヤし始めた。
別に変なことは言ってないはずだけど?
「夫の健康を守ろうとする妻そのものだね。いっそ付き合っちゃったら?」
もう付き合ってるんだけどね?
…なんなら、結婚も視野に入れてるし。
「…確かに、さっきの説明だとそう聞こえなくもないね……でも、私が琴音を気にかける理由は違うよ?」
「じゃあ何?」
……剣で唯一互角に戦える存在だから……かな?
「ほら、私『剣聖』って呼ばれてるでしょ?」
「そりゃあね。剣術だけなら、日本最強何でしょ?後は実力と経験を積めば新世代の『勇者』は確定。なんなら宝剣も持ってるでしょ?神科さんは間違いなく日本最強になるよ」
日本最強か……あの化け物が表舞台で本気を出さないなら、その称号は私のものだね。
でも、別に目指したいとは思わないかな〜
「まあ、そうだね。私なら日本最強になれるかもね。でもね、自分と同じくらいの人が居ないって、寂しいよ?」
「え?」
西川さんは、私の言っていることが理解できなかったのか、首を傾げる。
「ほら、自分と同じくらいの才能を持ってる人と話す方が楽しくない?」
「まあ…確かに天才やバカとは話が合わない事が多いけど……それがどうしたの?」
「え?」
「えっ?」
えーっと……そこまで来て理解できないの?
もう答え出てるのに…なぜ?
「……あっ!そっか!」
「わかった?」
「うん!完全に理解したよ!!神科さん、友達が少ないから、同じくらいの才能を持ってる彼女さんを大切にしてるんだね!!」
……久しぶりだわ、自分の事でこんなに不快な気分になったのは。
しかも、事実ってのが更に不快感を加速させてる。
「ちょっと違うけど…まあ、この国で唯一剣で互角に戦える人だから、いつまでも健康で居てほしいの。じゃないと、私の相手をしてくれる人がいなくなるから」
「え?『勇者タカヒロ』は?今弟子入りしてるんじゃなかったの?」
あぁ、あの爺さんか……
「あの人に教わってるのは剣術じゃなくて、魔力の使い方と基礎体力の事だよ。剣術だと私のほうが上だから」
「そうなんだ…じゃあ、剣術だけなら現段階で『勇者』レベルなんだね!」
『勇者』レベルじゃなくて、『勇者』以上なんだけどね。
そもそも、あの人はアタッカー兼タンクで、私は技術特化アタッカー。
戦いのスタイルが違う。
…弟子入りしてるからと言って、あの筋肉爺さんと一緒にされるのはなんだか複雑。
なんとも言えない気分になり、反応に困っていると、急に先生が話に入ってきた。
「そう言えば、『秋の勇者』が帰国したらしいな」
…あー、琴音とお義母さんがそんな話してね。
「俺も今日朝のテレビで見たぜ?きっと、神科さんに会いに帰ってきたんじゃね?」
「『秋の勇者』ってさ、凄いイケオジだよね!?」
「そうそう!絶対同年代の人にファン多いでしょ!!」
「ねえ神科さん。『秋の勇者』と出会うことがあったら、サイン貰ってきてくれない?」
「私も私も!」
「あ、うん…本人が良いって言ってくれたらね」
そんなに人気なのかな?
『秋の勇者』
秋の四季宝刀、『秋水』の持ち主にして、日本最強の探索者である『勇者』の称号を持つ男性。
顔写真は出回っているし、声や性格も調べれば分かる。
ただし、出身と名前が謎であり、未だに彼が何者なのかは知られていない。
(出身と名前が不明……当然、家族構成とかも知られてないし、知人すら見つかっていない。それどころか、まったく触れられていない。…何かしらの圧力が掛かってるのか)
国か、富豪か、はたまた権力者か……世間的に知られたくない家族構成となると…不倫とか、あんまり公にしたくない理由で生まれたって事になるよね。
公にしたくない理由……もしかして、榊の血縁者か?
それなら『勇者』へと至ることのできる才能も納得がいく。
もし、彼が榊の血縁者なら……
「是非とも会ってみたいわね」
「おっ?珍しく神科さんが乗り気だぞ?」
「ホントだ、いつもは興味なさげに聞き流してるのに」
流石にここで『彼は私の親戚かも知れない』なんて言ったら、大騒ぎどころの話じゃない。
『理由は教えてくれないけど、何か気になってるらしい』程度に留めて、適当にあしらうか。
私は、その後も何度か質問されたけど、適当に答えて『もうこの話には興味ないですよ』アピールを続けた。
放課後
いつもの通学路を通って駄菓子屋へ帰っていると、一台の車がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
「……」
車は他にも走っているのに、その車にだけ視線が行く。
…何か、強い力を持った誰かが乗っているからね。
おそらく、私に用があるんだろうけど、…まさか、中途半端に強いチンピラに騙されて、私の事を誘拐しようとしてる訳じゃないよね?
流石に私に手を出すようなバカは居ない……とも限らないのか。
たまーに頭のおかしいバカが、非常識な事言って偉そうな態度取ってることがあるね。
まあ、威圧して追い払ったあと、権力をフル活用して始末(社会的に)してるけど。
で?あの車は……ん〜?
「…そういう雰囲気ではなさそうね。単に私に用があるだけか」
中に乗っている人に興味がいって気付かなかったけど、あの車、組合の車だ。
という事は組合か探索者……そして、私が知らない人でこれほどの力を感じるという事は…
「他国の探索者か…『秋の勇者』か…そのどっちかだね」
すると、車は減速し、指示器を出して道端に停まる。
停車して数秒立ってから、ようやく後部座席のドアが開いた。
ようやく中に乗っている人とのご対面か。
まあ、思考を加速させてるから長く感じてるだけなんだけど…
まあ、そんな事はどうでも良い。
さて、鬼が出るか蛇が出るか…
私は、車から人が降りてくるのを待つ。
しかし……
「……あれ?」
待てども車から誰かが降りてくる気配がない。
むしろ、待っているまである。
という事は、私に乗れって言ってるのか……確かに、組合の車の中なら、あんまり世間に知られたくないような事も話せる……妥当といえば妥当なのかも知れないね。
「はぁ……乗るか」
このまま待っていても埒が明かない。
私から行くしかないよね……
私は、溜息をついたあと、組合の車に乗る。
中には案の定一人の男性が座っていて、顔を隠すためにマスクとサングラスをかけていた。
ドアを閉め、シートベルトを着けると、車は動き出した。
「…で?私に何のようですか?」
どうせ、こっちから話しかけないとなかなか口を開かないだろうから、私から話しかける。
すると、男性はマスクを外し、空間収納へ雑に放り込んだ。
その素顔は噂通りの美形で、少し日焼けしているのか肌がうっすら茶色くなっている。
髪は染めているのか日本人らしくない明るい茶色で、一昔前に人気だったイケメンという雰囲気がある。
…まあ、今は歳の影響で若者受けはしなそうだけど、確かに同年代の女性に人気そうだった。
「はじめましてだな、『剣聖』」
…敬語は?
このおっさんは、いい歳して敬語も使えないのか?
それとも、本人が私の事を見下してるのか。
まあ、別に害があるわけでもないし、我慢するか。
「そうですね。はじめまして『秋の勇者』さん」
こんな、初対面の相手に敬語を使わないような非常識な人間に、普通に接するのもバカバカしい話だけど……だからといって、敬語を使わないと私もその程度の人間になってしまう。
そんなの私のプライドが許さない。
多少不愉快でも、受け入れるとしよう。
そんな事を考えていると、『秋の勇者』は気楽そうに口を開いた。
「秋本と呼んでくれ。もちろん偽名だがな」
「…どうして偽名を?」
「ん?特に深い意味は無いな。ただ、俺の名前を知られたくないだけだ」
名前を知られたくないって……やっぱり、この人は榊の血縁者じゃないのか?
血縁者なら私の事を知ってると思うんだけど……この職員に気付かれないように聞いてみるか。
「…分かりました、秋本さんと呼ばせてもらいます。…まあ、貴方が木の神について知っているのなら、すぐに本名を調べられそうですがね?」
「……」
私がそう言うと、秋本さんは意味深な表情で私を見つめてきた。
う〜ん?この反応は……どっちだ?
『俺が榊の血縁者だって気付いたか…』なのか、『木の神?何いってんだコイツ』なのか…
どっちとも取れるよく分からない反応に、何と言うべきか困っていると、秋本さんの方から口を開いた。
「…まあ、調べたきゃ調べればいいさ。俺は別にお前の信じる宗教を否定したりはしない」
「そ、そうですか………違うのか…」
「ん?何か言ったか?」
「秋本さんには関係のない話です。気にしないで下さい」
コレは……多分血縁者じゃないな。
普通に、天然物の天才なんだろう。
……なら、名前と出生を隠す理由が分からない。
一応、後で当主のところに行って、聞いてみるか。
秋本さんの正体について考えていると、私は珍しいものを見るような目で見られていることに気付いた。
「しかし、意外だな」
「…?」
意外?この若さで『勇者』レベルの強さを持ってることかな?
それとも、実際の私は、イメージしていた人物と違ったとか?
「何が意外だったのですか?」
思いきって質問してみる。
秋本さんは、珍しいものを見る目を変えずに、
「いや、噂の『剣聖』が妙な宗教を信じてるとは思わなかったからな…ってきり、無神論者だと思ってたから…ちょっと意外だったんだよ」
「あー…」
うん、これは確定だね。
秋本さんは榊の血縁者じゃない。
そして、変な勘違いされてる。
噂になる前に、勘違いを正しておかないと。
「別に、私は変な宗教を信じている訳でも、無神論者でもないですよ。まあ、無宗教ではありますけど」
「そうなのか?じゃあさっきの質問は何だったんだ?」
「まあ…少し、調べたい事があったんですよ。詳しくは言えませんがね」
「俺の謎についてか?悪い事は言わない、謎は謎のままの方が面白いぞ?だからあまり詮索するな」
謎は謎のまま……なら、この人が何者か調べるのは止めておこう。
別に、知らなくていい事は世の中沢山あるんだから。
「そうですね。謎は謎のままにしておきましょう。なので、秋本さんも、あまり私の事を調べようとしないで下さいね?知らない方がいい事は沢山ありますから」
私がそう言うと、秋本さんは盛大に笑い始めた。
「ハッハッハッ!そうかそうか!確かに、女性の真実は知らない方がいだろうな!わざわざ危険を冒してまでスカートの中を覗いても、中身が望んでいたモノと違ったら、損をするだけだからな!!」
「…まあ、そういう事です。女性のプライベートには関わらない方が良いですよ」
「心配しなくて良いぞ?一般常識はしっかりと身に着けてるからな!ハッハッハッ!」
なんか…この人、普通に一般人なんじゃない?
榊とか、富豪とか、権力者の子供じゃなくて、普通に育ってきた普通の一般人。
ただ、『勇者』になれる事は普通じゃないけど……私達みたいな特別な生まれって訳でもないんじゃない?
それなら、名前や出生があまりにも普通だから面白くない。
それをなんとかして面白くするために、ずっと隠してるとか?
……これ以上考えるのは止めよう。面白みが無くなる。
私は、謎を謎のままにして、深く考察しないことにした。
――――――――――――――――――――
ここまで読んで下さった皆さん、ありがとうございます。
最近、モチベーションがヤバイのでなかなか執筆が進みません。
多分、更新頻度が落ちると思いますが、一応書き続けているので、どうか見捨てないで下さい。
モチベーションが回復しましたら、毎日投稿を再開したいと思います。
追記
スプラ3楽しすぎ
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