第115話駄菓子屋での日常

駄菓子屋二階


宝剣を手に入れてからおよそ一週間。

私は二階でゴロゴロしながらテレビを見ていた。


『おお!それがかの宝剣!“夜桜”なんですね!?』

『ええ。コレが“夜桜”です。美しいでしょう?』

『ええ、とって――』


千夜が宝剣の取材を受けているのを見ていると、横からリモコンを取られ、テレビを消されてしまった。


「え?消しちゃうの?」

「あんな恥ずかしい事言ってるの、見てられないよ。私の黒歴史だよ、黒歴史!」


テレビを消したのは、千夜だ。

恥ずかしい事を言っている自覚があるなら、最初から言わなきゃいいのに。

それか、テレビで聞くことになったとしても恥ずかしくない事を言えばいいのに。

そんな事を考えながらゴロゴロしていると、千夜が何処か呆れたように話しかけてきた。


「で?いつまでお昼休憩するの?」


……流石にそろそろ戻らないと不味いか。

いつもの休憩時間よりも二十分も長く休憩してるんだもん。

もしお母さんが居たら、本気でキレてるね。

店に戻るか……ん?

店に戻ろうと起き上がると、コーンがカゴから出てきて、目をキラキラさせながら見上げてきた。


「どうしたの?あなたもお店に行きたいの?」

「ブゥ!」

「分かったよ。ほらおいで」


珍しい。

コーンは基本、散歩以外で二階から降りることがないのに。

お婆ちゃんのお店を見たいのかな?

それか、駄菓子を狙ってるのか。

まあ、理由はどうあれ、コーンが行きたいって言うなら連れて行ってあげるけど。

私は、コーンを抱き上げると、そのまま店に戻る。

後ろから溜息が聞こえたけど……まあ、気にしないでおこう。


「コーン、お店には駄菓子がいっぱいあるけど、アレは売り物だから食べちゃだめよ?」

「ブゥ!」

「ふふっ、いい子ね。それと、私から見える場所にいてね?何かあった時にすぐに気付けるようにするためにね」 

「ブゥ!」


コーンはとっても賢いから、私達の言っていることを理解できる。

だから、駄菓子を勝手に食べたりしない。

……そう思ってたんだけど――


「コーンちゃん、これ食べたいの?」

「ブゥ!」

「そう!じゃあお姉さんが買ってあげるわね!」

「コーンちゃん、これも美味しいよ?」

「コーンちゃん!コーンちゃん!ポップコーンって食べたことある?私が買ってあげるよ!」


コーンは何度も駄菓子を食べたそうに私に視線を送ってきた。

でも、何度やっても『ダメ』と言われて拗ねてしまった。

しかし、駄菓子を食べることを諦めきれなかったコーンは、通行人を捕まえて駄菓子を買わせるという暴挙に乗り出した。


「あの、お客様……コーンには後でオヤツをあげるので…」


お店としては儲かるんだけど、他人に自分のペットのオヤツを買わせるなんて非常識な事はしたくない。

しかし…


「別に良いじゃない。私達が好きでやってるんだから」

「そうそう。別に駄菓子を一つや二つ買ったところで、懐には影響がないんですから。いいでしょ?」

「それに、私達が駄菓子を買ったらお店の収入になるでしょ?別に止めることないわよ」

「ですが……」

「「「良いでしょ?」」」

「……はい」


コーンの可愛さに魅了されたお客様に押され、駄菓子を買わせてしまった。

どうしよう…お母さんにバレたら怒られる……

でも、こういう時に限ってお母さんが帰ってくるんだよね。

漫画みたいな展開だけど、実際に起こるんだよね……私の直感なら。


「ただいま〜」


ほら、帰ってきた。

嫌な予感がする時は、大体的中するんだよね。

予感は予感のまま終わって欲しいのに、


「…ん?あの、どうしてコーンに駄菓子をあげてるのでしょうか?」


終わった……

お母さんにバレる。


「コーンちゃんが駄菓子を食べたそうにこっちに来たからですよ。コーンちゃん、本当にかわいいですね。たまたま通りかかっただけなんですが、上手に私のことを捕まえて、駄菓子を買ってって視線で訴えてきたんですよ?」

「そ、そうですか……」


一瞬、お母さんがこっちをチラ見した気がするけど……気のせいであってほしい。


「可愛いなぁ……」

「抱っこしてみます?コーンは人懐っこいので、抱っこされても暴れませんよ?」

「本当ですか!?じゃ、じゃあ……」


お母さん……そんな事したら、コーンの可愛さに魅了された人が、コーン目当てに駄菓子屋にやって来そうなんだけど…

…まさか、そういう人に駄菓子を買わせる気じゃないよね?

ますますコーンが太っちゃうよ…

私の心配をよそに、お母さんはコーンを抱き上げて、お客様の一人に渡す。


「か、かわいい…」


…また一人コーンに魅了された。

コーンは抱っこした人を見上げる癖があるから、余計に可愛く見えるんだよね…

しかも、飼い慣らされた犬以上に人懐っこいから、ベタベタ触ってもまるで嫌がらないし。

千夜が触ろうとすると一瞬警戒するけど。


「いいなぁ…私も抱っこさせて!」

「良いですよ。コーンをこちらの方に持たせてあげてください」

「…はい」


…名残惜しそうだね。

そりゃあ、離したくないよね。

こんなに可愛いんだもん。

でも、譲り合いの精神は大切だし、そもそもコーンは私のペットだからね?

好き勝手されると困るんだけどなぁ…


「わっ!なんだか赤ちゃんを抱っこしてるみたい!」

「最近は食べ過ぎと運動不足でちょっと太ってるんですが…重くないですか?」

「全然!ちょうど良いくらいの重さですよ!」


それは、どういう風にちょうど良いのかな?

流石に千夜じゃないんだから、食に適すとかじゃないはず。

…千夜が抱っこしたら、本当に食に適すとか言いそうで怖い――あっ


「ねえ琴音。今私の悪口考えてなかった?」

「さ、さぁ?ナンノコトヤラ〜」 


一応、バレバレの嘘をついて、誤魔化そうとする。

どうせ千夜は気付いてるんだから、嘘は適当でいい。


「また剣の特訓する?私もちょうど相手が欲しかったんだけど…」

「わ、私は無理かなぁ〜。ここに居ないといけないし…」

「それは残念。琴音をいじめ――琴音と一緒に強くなりたかったんだけど…忙しいなら仕方ないよね?」

「そ、そうそう!仕方ない仕方ない!」 


一瞬、『いじめ』って単語が出てきたけど、追及すると何されるか分かんないから聞かなかった事にしよう。

…まあ、追及しなくても何されるか分かんないけど。


「…で、あれは?」

「コーンファンクラブ?」

「ふ〜ん?……あのまま引き取ってもらう?」

「ダメ!」


やっぱり千夜はそういう事しか言わないよね。

だから、あの人懐っこいコーンに警戒されるんだよ。 


「千夜、いい加減大人になろうよ。コーンはただのペットなんだから、嫉妬しても意味ないでしょ?」

「…琴音の愛は私にだけ向いてればいい。お義母さんにも、コーンにも愛を向けないで」

「千夜…」


相変わらずの凄い独占欲。

でも、この独占欲こそが千夜の魅力なんだよね。

襲われる危険はあるけど、絶対浮気しないし、自分だけに愛を向けてくれる。

更に、嫌われたくないからよく甘やかしてくれて、少しずつ毒す事で千夜無しでは生きられない体にしてしまうほどの用意周到ぶり。

とっても素晴らしいお嫁さんじゃない?

…ん?なんか、千夜がニコニコしてる。


「どうしたの?」

「どうしたって…琴音が私の事褒めてくれたから?」

「満更でもなさそうな顔してるね。そんなに嬉しかった?」

「うん」


…それに、こうやって褒めると嬉しそうにニコニコしてくれる。

私はなんて運がいいんだろう?

生涯を共にする人が、こんなに素晴らしい人だなんて……前世でどれだけ徳を積めば、こんな事になるんだろうね?


「抱きしめていい?」

「いいよ」

「ギュー」


目に見えてご機嫌な千夜は、人の目があるのに私の事を抱きしめてきた。

まあ、『いいよ』って言ったの私だけど。

あー…通行人に見られてるね。

これ絶対誰か写真撮るんじゃないかな?

そしたら、週刊誌とかに乗るかもね〜


『剣聖の熱愛!』


とか大々的に書かれたりして。

……榊が握り潰してくれるか。

そもそも、あんまり話題にならなかったりして。

二年間で、もっと際どい写真とか動画が出回った事があったけど、『距離感が近い』で回避してきた。

だから、今回のコレも『距離感が近い』で納得されるのかもね。

…一部の変人が妄想でおかしな事を言い出しそうだけど…まあ、それは少数意見だし、その人達の妄想だし、話題にはならないでしょ?


「…?琴音、なんか変な魔導具持ってない?」

「どうしたの?急に」


突然、千夜がよくわからない事を言い出した。

変な魔導具?別に変なものを拾った覚えはないけど……なんだろう?


「『夜桜』の力が弾かれるんだよね。…宝剣の力を弾くって相当だよ?何か心当たりない?」

「う〜ん……無い、かなぁ?」

「そっか…」


心当たりねぇ……ありまくりだね。

宝剣の力を弾く事ができる魔導具なんて多分ない。

なら同じ宝剣でしか宝剣の力は弾けない。『夜桜』と対を成すの能力を持つ『雪音』なら―――


「何か異変があったらすぐに言ってね?『生命』が通用しないって事は、強力な『死』の能力を持った何かが琴音の中にいるかも知れないから」

「『死』……分かった、何かあったらすぐに言うね」


一応、やり過ごせた……かな?

まだ千夜に宝剣の事を気取られる訳にはいかない。

誕生日のプレゼントとして、あげたかったアレの為にも、まだ『雪音』は隠さないと…

でも、千夜相手に宝剣を隠し続けるなんて至難の業どころの話じゃない。

 

「ん?なんか呼吸が乱れてない?」


ほらね?


「…そりゃあ、私の中に宝剣の力に匹敵するほどの『死』の力を持った何かがいるかも知れないんでしょ?そんなの、平然を装うだけで精一杯だよ」


よしよし…何とか上手く言い訳できた。

…まあ、この後どうするかは考えてないけど。


「そう…だよね……辛くなったらいつでも言って。多少強引な手段を使ってでも琴音を守るから」

「多少強引って?」

「無理矢理『夜桜』の力を送り込む」


それ、安全面は大丈夫なんだろうね?

暴走して、奇形になったりしないよね?


「なんか怖いから、それは本当に最終手段にしてね…」

「分かってるよ。でも、例え琴音がどんな姿になっても、私は見捨てたりしないよ?」

「……」


……何その不意打ち。

恥ずかしさと罪悪感で押し潰されて、心が悲鳴を上げてるんだけど?

…でも、やっぱり嬉しい。

千夜は私だけを愛してくれるんだって、確信が持てる。

もちろん、万が一…億が一……兆が一………いや、無限の可能性の中で一つだけ千夜が私を見捨てる事があったとしても、私は絶対に千夜を離したりはしない。

そんな事になるくらいなら、千夜を殺す。

この手で、私の手によって。


「その言葉…信じるからね?」


私は、しっかりと千夜の目を見てそう問いかける。


「どうしたの?急に真剣な表情になって。…私に見捨てられる妄想でもした?」


千夜は、どうして急に私が真剣になったのかすぐに言い当てた。

流石は千夜。私の事をよく分かってくれてるね。

だからこそ、本当の事を言って、嫌われる心配をしなくて済むんだよね。


「したよ。まあ、そんな事は無いだろうって、無限分の一の確率で考えたけど」


私がそう言うと、千夜は一瞬『は?』って表情になったあと、破顔して冗談を言い始めた。


「なにそれ?ちょっと私の事買いかぶり過ぎじゃない?」


買いかぶり過ぎ?

それってつまり……


「…千夜は私の事見捨てる可能性がもっと高いって思ってるの?」


そうだとしたら悲しいなぁ。

千夜は、絶対に私の事を見捨てたりはしないって信じてるのに…

しかし、千夜は何食わぬ顔で聞きたくなかった事を言った。


「そりゃあ思ってるよ。私だって人間だし、自我と感情があるんだもん。愛が冷めてしまう事は無い!なんて言い切れないよ」

「……」


…………………


「そんな顔しないでよ。あくまで確率論じゃん!数字なんて気にしてたら、いつまで経っても一歩踏み越える事ができないよ?もっとバカにならないと」


………バカ、ねぇ?


「自分よりも賢い人に、『バカになれ』って言われるの腹立つんだけど?」


はいはい、私はバカですよー。

千夜と比べたら、私なんて全然バカなんですよー。

私が心の中で開き直っていると、急に千夜がニヤニヤし始めた。

そして…


「……や〜い!琴音のバーーカ!」


急にそんな事を言ってきた。

――――ブチッ


「あぁ!?毒針で穴だらけにしてやろうか?この剣術バカ!!」

「やれるものならやってみなよ。おバカさん?」

「またバカって言ったな?火に油を注いでそんなに楽しいか!?」

「火遊び楽しいよ?発火温度が低いヤツほどよく燃えるからねぇ」

「なんの話しして……よし!そこ動くな。まずはその目障りな脂肪の塊に針をぶっ刺してやる」

「酷いなぁ。自分に無いからって他人のモノを壊そうとするなんて」

「うるさいね!自分が登るより、相手を降ろす方が楽なんだよ」


千夜にバカにされて、プッツンした私は、なんとかして目に物見せてやろうと針を刺そうとする。

…まあ、私も本気で怒ってる訳じゃないし、千夜も本気で私の事貶してる訳じゃないから、傍から見たら二人の女性がワー!ワー!騒いでるだけにしか見えないだろうけど。


「なんで私にはソレが無いんだよ!お母さんは高身長のボン・キュッ・ボンなのに!!」

「知らないよ。琴音が突然変異しただけじゃないの?…ほぼ退化だけど」

「うるさいね!私結構気にしてるんだからね!?何やってもお母さんの劣化版みたいだから!」

「いや、琴音はいろんな武器を扱えるっていう才能があるでしょ?」

「良く言えばね?悪く言っても、普通に言っても、それってつまり、『器用貧乏』だから!!」


『器用貧乏』

私は、何にでも手を出す事ができるけど、どれもお母さんや千夜と比べると中途半端で終わってしまう。

『比較対象が悪い』って言う人がいるかも知れないから補足しておくけど、千夜やお母さんと比較できるくらいの才能はどんな事にもあるの。

剣にも格闘にも家事にも何にでも。

でも、一つだけ抜き出して考えると、どれも才能の格で負けてる。

当然だよね?

才能にパラメーターがあるなら、私はバランス型。

お母さんや千夜は何かに特化してる。

ただ、パラメーターの数字がおかしいだけで、平均レベルまで下げると、私は凡人と何ら変わらない。

だから、私はお母さんの劣化版なんて言葉を考えちゃう。

…でも、


「私だって…ちゃんと強いもん」


それを理由に努力してない訳じゃない。

お母さんや千夜と対等な存在でいるために、私は必死に努力してる。

お母さんや千夜以上に努力して、置いていかれないように走り続けてる。

だから!


「私だって…千夜と同じぐらい凄いもん」


そのおかげなのか、元々資格があったのか、私も宝剣の所有者になれた。

それは、純粋に褒めてほしい。

…まあ、千夜にはまだ話せないけど。

私がそうやって拗ねていると、千夜は優しい顔で私の隣に座る。

そして、母親が子供を励ますように、私の事を抱きしめながら背中を撫でてくれた。


「琴音は凄いよ。確かに器用貧乏かも知れないけど、剣では『剣聖』と呼ばれたこの私と、ほぼ互角に戦えるし、格闘でもあの無意識天才の琴歌おばさんくらい強いじゃん」

「いや、それはない」

「…え?」


千夜は私の事を励まそうとしてくれてるみたいだけど、コレばっかりはハッキリ言わせてもらう。


「格闘がお母さんと同じぐらい強い?それはないね。あり得ない」

「いや…でも……」

「千夜は知らないんだよ。本気のお母さんがどれだけヤバイか」


いやね?お母さんはマジで規格外。

なんか、宝剣持ってるし、剣で『剣聖』とほぼ互角に戦える。

私TUEEEEEってイメージあるかもだけど、全然そんな事ないよ?

お母さんっていう、マジチートなバグ存在がいるから。


「……そんなに?」

「そんなに。考えてみてよ?ほぼ未来予知レベルの直感を常時発動してて、一般人時代からまるで本気を出さず探索者をボコれて、無意識に私達と同等の魔力制御ができて、動画を見るだけで達人の技をコピーできて、しかも一度も使ってないのに実戦で使えるレベルに仕上がって――」

「ちょっと待って!……まだあるの?」

「格闘関係以外も含めるなら?」


私がそう言うと、千夜はこの世のものとは思えないようなものを見るような目でお母さんを見る。

すると、お母さんは不愉快そうにこっちへ歩いてきて、千夜の顔を覗き込む。


「ワタシ、コワイ?」


お母さんは、わざと変な声で満面の笑みを浮かべながらそう問いかけた。

千夜は、冷や汗ダラダラで首を横に振りまくる。

それを見たお母さんはニコニコしながら千夜から少し離れる。

すると、


「っ!?」


信じられないような速度で蹴りを放ち、千夜の耳ギリギリのところで止める。

……軽く衝撃波が発生して、店内がグチャグチャなんだけど?


「ワタシ、コワイ?」


お母さんは、もう一度千夜にそう問いかけるが、千夜は固まってしまっていて、指一本動いていなかった。

そうだよね……私もほぼ見えなかったもん。

普段、何気なく嫌ってた相手が、こんな力持ってたら脳がフリーズするよね…


「え……あ……えっ?」


フリーズが治ってもしばらくは困惑したままだろうね。

何が起こったのか理解するまでどれくらいかかるんだろう?


「…おーい、大丈夫?」

「え?あっ、はい!」


お母さんは、千夜の肩をトントン叩いて正気に戻させた。

まあ、正気に戻ってすぐは理解が追いつかず困惑してたけどね?

…で、ようやく何があったのか理解した千夜は、何も言わずスッとお母さんから離れ、私の後ろに隠れてきた。


「そんなに怖がらなくてもいいのよ?私は何もしないんだから」

「いえ、大丈夫です。琴音に守ってもらうので」


う〜ん……やめて?

まさかと思うけど、お母さんがマジギレした時もこうやって私の後ろに隠れるつもり?

だとしたら、私全力で千夜をお母さんに突き出すよ?

飛び火したら嫌だし。


「はぁ…まあ良いわ。今後気をつけてね?――ん?」


踵を返し、お客様の所へ戻ろうとするお母さんは、何かを踏んで下を向く。

それは、ここで売っている駄菓子だった。


「あっ――」


お母さんは何かを察したらしく、店をぐるりと見回す。

入口でぽか~んとしているお客様三人とコーン。

蹴りの衝撃波でめちゃくちゃになった店内。

真っ黒なオーラを放ち、ニコニコしている私。


「片付けてね?」


私が笑顔を絶やさずそう言うと、お母さんは首をを縦にブンブン振ったあと、すぐに散らかった駄菓子を片付け始めた。

私は立ち上がって千夜の方を向き、


「手伝ってね?」


半分脅しのような声で千夜にも協力を要請した。

私は、有無を言わせず千夜を引っ張って散らかった駄菓子を片付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る