第104話宝剣のダンジョン2

駄菓子屋ダンジョン


「はぁ~、温かいなぁ〜。かまくらを作って正解だったよぉ〜」


あまりの寒さに体の調子が悪くなってきたので、急造だけど、かまくらを作ってみた。

正直、かまくらなんて作った事なかったけど、探索者パワーで雪を積み重ねては圧縮してを繰り返し、何とか一人分のスペースを確保した。

力技もいいところだけど、意外と良く出来ていて、火を焚いても中々溶けたりしない。


「毛布を空間収納に入れていおいて正解だったね。服が乾くまで裸で居ても寒くないし」


濡れた服は体温を恐ろしい程奪っていく。

今回の休憩は、体を温めると言うよりは、服を乾かす為にしてる。

体温は動けば上がっていくからね。

でも、服は外の気温も相まって中々乾いてくれない。

凍らせて乾かすって事も、体温で溶かされるから出来ないし。


「とりあえず、服が乾くまで待って―――なに?この気配?」


妙な気配が私から百メートル程離れた場所に、突然現れた。

さっきまでは、そんな気配無かったのに。


「私の探知を掻い潜って現れるなんて……何者だ?」


私は、警戒心をMAXにして、何時でも服を回収出来ようにしておく。

触ってさえいれば、瞬間着脱が機能するから、服の裾を掴んでもう片方の手で刀を構える。


「……」


妙な気配がこちらへ近付いてきた。

逆探知されたかも知れない。

探知は魔力を超音波のように放って物や生物の位置を把握する技。

魔力の発生源を感じ取る――すなわち、逆探知をすることで、こちらの存在を探っている者を探し出せる。

この妙な気配を放つ存在が、意図して逆探知をしたのか、反射的に行っているのか…

どちらにしても、探知を止めたほうが良さそう。


「ある程度近付かれれば、探知を使わなくても気配を感じ取れる。それまでの辛抱」


まあ、近付いてこない事に越したことはないんだけど…

…こっちへ来たとしても、私なら気配を感じ取れるし、最悪の状況になる前に直感が働くはず。

そうだ、火の光で場所がバレたら不味い。

『漆』で闇の壁を作るか。


「起きろ『漆』。仕事の時間だぞ」


空間収納から『漆』を取り出し、小さな声でそう語りかける。

短刀にそんな事して意味あるのか?と思われるかもだけど、『漆』と『紅蓮』には意志に似たモノを感じる。

だから、効果があるかは分かんないけど、一応声をかけてる。


「『黒壁』」


闇属性の黒い壁を魔法で作り出し、穴を塞いでしまう。

……今更だけど、空気穴が無いのはかなり不味い気がしてきた。

このかまくら、普通に狭いからあっという間に二酸化炭素とかが充満しそう。

…いや、二酸化炭素ならまだマシ。

一酸化炭素が発生したら、一酸化炭素中毒で普通に死んじゃうからね。

糸を使えば、多分バレずに穴を開けられるはず。

乾かしている最中の服の中から糸を取り出し、魔力を通して手足のように動かす。

一旦横に曲がるとかして、光が漏れないように穴を開ければいい。

上と下両方に穴を開ければ、空気の流れが出来上がる……はず。


「……こんな感じかな?」


糸を器用に動かして、上下共に二十個程穴を開けてみる。

そもそも穴が小さいから、どれくらい空気が入れ替わるか分かんないけど、無いよりはマシ……なはず。

……一応、最悪を想定して、息継ぎ用の穴も作っておくか。

私は、空気穴も比べて大きめの穴を開けると、そこから冷たい空気が入り込んできた。


「よし!ちょっと寒いけど、これで一酸化炭素中毒になることは――」


そう独り言を呟いた瞬間、さっきの妙な気配を感じ取った。

それも、私のかまくらの真横に。


(服は……ほぼ乾いてる)


『影のくノ一』は既に乾いている事を確認し、すぐに瞬間着脱を使って着替える。

一応、気配は消していたはずだけど……まあ、森のド真ん中に変な雪の山があったら気になるよね。


(確実に私のかまくらに興味を示してる。となると次にする事はっ!!)


直感が危険を察知した。

何が起こるか予想出来ていた私は、直感に従ってすぐに動き出す。

糸でかまくらに穴を開け、そこから外へ飛び出すのだ。

案の定、かまくらはまるで爆破されたかのように破壊され、残骸の一部がこっちにも飛んできた。


「やっぱりそうなるか…」


どうしてこうも、嫌な事ばかり想像しやすいんだか…

これがフラグ回収ってものなら、そのフラグを先にぶっ壊しておけばよかった。

――っと!冗談を言ってる場合じゃ無さそう。


「なんて魔力量…一体、どんな化け物が現れたらんだか…」


煙の向こうから感じる魔力は、私や千夜のそれを遥かに上回り、並外れた魔力を有していた。

これだけの魔力を持っているとなると、ボスクラスに相当する。

徘徊ボスに目を付けられたか?

一体あの煙の向こうにはどんなのが居るんだか……

私が警戒心MAXで構えていると、徐々に煙が消え、その魔力を放つものの正体が明らかになった。


「嘘…でしょ…?………」


私や千夜の魔力を遥かに上回る魔力を持った存在。

それの正体は、


「ネコ…?」


可愛らしいネコだった。












富士・宝剣ダンジョン


「ふぅ…ようやく半分まで来たか」

「まだ半分あるんですね……あの『暴君』はどうやって一人で奥まで行ったのやら…」

「モンスターをすべて無視して、ひたすら走り続けたんですよ。モンスターの対応は私達に押し付けて」


厄介事は人に押し付けて、自分だけ楽をしようとするあのゴミカスに殺意を覚える。

…まあ、いくら強いからと言って、あいつが宝剣を手に入れられるとは思えない。

ゆっくりのんびり行こう。

一人で宝剣の守護者の相手をして、せいぜい苦しめばいい。


「さて、一度休憩しませんか?あのゴミカスに追い付こうとかなり強行軍で移動したので、消耗してるはずです」


私がそう言うと、全員首を縦に振り、賛成してくれた。

やっぱり疲れてたみたい。

……私は大丈夫だけどね?

一応、休憩しておいた方が良いだろうし、数分だけ仮眠を取ろうかな?

私は、一応仮眠を取るために壁にもたれ掛かる。


「あれ?『剣聖』さんも寝るんですか?」

「はい。昨夜はあまり眠れなかったので」


昨日は琴音と“ピー”し過ぎでほとんど寝られなかった。

別に、一日あんまり寝てないくらいでは、まったく支障はないんだけど、多少眠たい。

だから、少しでも寝不足を解消するために、仮眠を取ろうと考えてる。


「そうですか…じゃあ、俺見張っておくので、ゆっくり休んでください」

「ありがとうございます。そう言えば、お名前はなんと言うのですか?」

「俺ですか?俺は、山川です。山川忍って言います」


山川さんね?

見たところ、気配を隠す事に優れた斥候っぽい。

琴音と比べれば雲泥の差があるけど、『英雄候補者』レベルの隠密は出来そう。

実力も上位に入ってきそうなくらいかな?

流石に『英雄』程ではないけど。


「では、ゆっくりお休みください」

「ええ。お言葉に甘えさせていただきます」


…まあ、守ってもらう必要はないんだけど、一応させてあげよう。

さて、じゃあお休みさない。





三十分後


「んんー!」


およそ三十分程仮眠を取った私は、体を伸ばして固まった部分をほぐす。

周りを見てみると、結構な人数が仮眠を取っていて、もう少しゆっくりしたほうがいいかも知れないと感じる。

ま、これ以上は休み過ぎになりそうだから、休憩はこれくらいで終わりにしよう。 


「おはようございます。かなりぐっすり寝ていた割には起きるのが早いですね。俺ならもっと寝てますよ」

「山川さん…もしかして、本当にずっと見張ってたんですか?」

「はい。『剣聖』さんは、俺よりずっと強いですし、俺が居なくてもまったく問題ないんでしょうけど、見かけ上誰かが居たほうが良いでしょう?」


なるほどね…

確かに、私が一人で無防備に寝るよりは、誰かに守ってもらいながら寝たほうが、見かけ上は安全かも。

まあ…


「万が一私に手を出す不届き者が居たとすれば、その人は本当に勇者ですよ」

「ハハッ!違いありません!指一本でも触れようものなら、首が物理的に飛びそうですね!」

「首で済んだらいい方じゃないですか?私なら、縦か横に真っ二つにしますよ?」

「おお、それは怖い。いや〜、見張っていて正解でしたね。主に、他の探索者を守るという意味で」


ふふっ、本当に見張りがいて良かった。

危うく死者が出てたかも知れないと考えると、山川さんが見張っててくれて良かった。


「さて、冗談はこれくらいにして、今起きている人達でこれからの事を決めましょう」


私は、全員へ聞こえるような声でそう言うと、私の周りに人が集まってきた。

ちゃんと、寝ている人への配慮は出来ているみたい。


「休憩はここまでにするか、もう少しだけ休むか……どちらにしますか?」


私の質問に対する答えは――沈黙。

……やっぱり、誰も何も言わないよね。

探索者といえど、この人達も日本人。

基本的にシャイなんだよね。


「……分かりました。では、手を挙げてください。休憩はここまでにするという人」


おう…過半数が手挙げてるじゃん。

最初からそう言ってほしかった…


「決まったようなものですが、一応こちらも聞きますか。もう少し休むという人」


……うん、知ってた。

手を挙げている人は極わずか。

何なら、さっき挙げてなかった人も手を挙げてない。

他の意見があるのか、同調圧力に押されたか…

まあ、後者だろうね。


「では、休憩はここまでにしましょう。手分けして、寝ている人を起こしますよ」


私がそう言うと、集まってきた人達はバラバラに散り、寝ている人を起こしに回った。

…私も行くか。


「起きてください。出発ですよ」

「う〜ん…もうあと5分だけ…」


一応、女性を優先して起こすつもり。

もしかしたら、女性を起こすのは気が引けるって人がいるかも知れないからね。


「待てませんよ。起きてください」

「うっさいなぁ…もうちょい寝かして下さいよ〜…」

「はぁ…駄目ですよ。起きてください」


女性は嫌そうに耳を塞いで、私の声を聞こえないようにし始めた。

仕方ない、ちょっと荒業だけど、簡単に起こせるしコレでいくか…


「……起きろ」

「ひゃい!?」


声に思いっきり殺気を込めて起こす。

琴音が起きない時は、良くこれをやってるから効果は歴然。


「け、『剣聖』さん……お、おはようございます」

「はい。おはようございます。もう出発するので、準備してくださいね?」

「は、はい!」


よしよし、後はこれを何回か繰り返すだけで……あれ?


「もう皆さん起きてますね……仕事が早いですね~」


……十中八九、私のせいだろうね。

ここに居るのは全員『英雄候補者』以上の実力者。

私が強烈な殺気を感じれば、例え深い眠りに入っている状態だったとしても飛び起きるよ。

わざわざ起こして回る必要が無くなってラッキー。


「さて、全員起きたようですし、出発しましょう」


そう言って、全員の準備が終わるまで待ったあと、あのゴミカスを追いかけるために歩き始めた。



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