第92話 閑話2 ウワサの…

スタンピードから一週間後


「熱愛報道?」

「報道というよりは、ネットで話題になってるって感じですね」


模様替えも終わり、街に人が戻り始めた頃に常連さんがそんな話をしてくれた。


「なんでも、ちょっと前に街に戻って来た人が、神条さんと神科さんがキスしてるのを見たらしく。それがネットで話題になってるって訳です」


なるほど……私としたことが、まさかこんなミスをするとは…


「キス……してたっけ?」

「あれじゃない?私のかなり近くで琴音が『ありがとう』って言ってくれた時の」

「あー…」


適当に嘘の話を使って誤魔化す。

この人は信用出来るからいいけど、ふらっと現れるお客さんが変なウワサを広めないとも思えない。

それに、万が一この人が言いふらしたりしたら大問題だ。


「そうですか。つまり、その人の勘違いって事ですか?」

「はい。多分、私達って距離感が近い事が結構あるので、それで勘違いしたんじゃないですか?」


こうやって誤魔化しておけば多分問題ない。

でも、隠し事はいつかバレる。

私達みたいな人間の恋愛事情なんて、マスゴミ共が飛びつきそうないい話題だ。

これから忙しくなりそうだ。

……最悪榊に丸投げしよう。


「そうでしたか……ではまた。あっ、マスゴミには注意してくださいね?アイツ等は甘い匂いのする話題にはハエのごとく集って来ますから」

「ご忠告ありがとうございます」


常連さんは私に、一応忠告をして帰っていった。

さて…どうマスゴミを躱そうか……


「…アイツ殺していい?」

「ファッ!?」


私が顎に手を当ててどうやってマスゴミを躱すか考えていると、千夜がとんでもない事を言い出した。

どうしてそんな危ない考えに至るんだろう?


「ただの客のくせに琴音と親しくしやがって……ユルサイ。琴音は私のものなのに…私のものなのに…私のものなのに…」

「…一旦家帰る?」


千夜の情緒が不安定だ。

きっと、最近修行で忙しい上に、疲れて帰ってくるからイチャイチャ出来なくて、欲求不満なんだろうね。

ちょっとガス抜きしないと。


「帰る。琴音を押し倒して✕✕✕✕✕✕」

「よーし、それ以上は言わないようにね?」


千夜が言っちゃマズイ事を言い出した。

相当溜まってるね…

これ、私無事に帰れるかな?

そんな不安を感じながら私達は一旦千夜の家に向かった。




………ガス抜き中………




「ただいま~!」

「た、ただいま……」


数時間後、千夜はとっても元気そうに駄菓子屋へ帰ってきた。

……私は、疲れ果ててるけどね。


「あら、お帰りなさい。また随分と楽しんだのね」


店頭でお茶を飲みながら新聞を読んでいたお母さんが返事をしてくれた。


「それはもう!」

「私はただただ疲れたけどね?」


千夜が満更でもないという態度をとるので、きっちり不満を見せておく。

こうする事で、いざという時にお母さんを味方につける。

お母さんは私のそっちの事情にはうるさいから、千夜のことをしっかり怒ってくれるくれるはず。

……また千夜と喧嘩しそうだけど。


「そう…千夜ちゃん、琴音が枯れない範囲に抑えるのよ?」

「そうですね…じゃあ、琴歌おばさんもタバコ減らしますか?」


二人の間に火花が散る。

…確かに若干タバコ臭い。

お母さん、千夜が居なくなった事を良いことに、タバコ吸ったな?

怒られるって分かってるはずなのになぁ…


「いいわよね。千夜ちゃんは琴音とキス出来るから口が寂しくなくて」

「へぇ?大好きな娘の唇を独占されてるからタバコに逃げてるんですか?そんな言い訳が通じるとでも?」


はぁ…また始まった。

お母さんも千夜も懲りないなぁ…

私のことで喧嘩してくれるって事は、二人共私のことが大好きな証拠だから嬉しいけど、店頭で喧嘩はやめてほしい。


「…ここで喧嘩は止めて。二階にでやってきてよ」


私が声を低くして二人の仲裁をすると、お互い睨み合ったあと、お母さんが二階へ戻っていき、千夜が私を引っ張ってカウンターへ戻った。

そして、カウンターに座った千夜は私を無理矢理膝枕させる。


「疲れたでしょ?私の膝の上で休んでよ」

「…疲れた理由九割以上千夜のせいだけどね?」


どの口が言ってんだと文句を言うと、千夜は不満そうな表情で言い返してきた。


「別に良いじゃん。琴音も嬉しそうだったし」

「そりゃあ…私だってちょっとは溜まってたんだから……」

「まったく…琴音も私くらい欲望に素直になればいいのに」


それをすると、年がら年中恋人に発情してるヤバい奴の仲間入りだから嫌だ。

本当、隙を見せるとすぐに襲ってくるんだから。

『ゴブリンか!』って言いたいところだけど、それを言ったら確実に小一時間は説教される気がするから絶対に言わない。


「…命拾いしたわね?」


…ほらね?


「はぁ…まったく、千夜の愛が重くて苦しいよ」

「…どうして?」

「嬉しすぎるから」


そう言って千夜の膝に頭を乗せて目を瞑る。

寝てる間に何されるかは分かんないけど、どうせキスとかそれくらいだから別にいい。


「もう…琴音のバカ」

「…私のこと嫌い?」

「うん?そうだね〜、いやになるほど大好きだよ」


…なんだろう、この新婚夫婦みたいな会話。

私達も落ち着いて、静かになるのかと考えちゃいそうで嫌だ。


「寝心地悪い?」

「いや?強いて言うなら床が硬いくらい」

「そこは仕方ないね……」


無意識に顔を歪めていたのか、千夜が寝心地の相談をしてくれた。

だから、嘘の話で誤魔化す。

……膝枕って凄く柔らかいイメージがあるけど、千夜は筋肉質だから岩盤みたいに硬――痛っ!?


「次余計な事考えたら無理矢理眠らせるから覚悟しとけよ?」

「は、はひっ!」


こ、怖すぎ…

いきなりデコピンされたんだけど!?

地味に痛いし…

はぁ…普通に寝よう。

変に千夜を刺激して怒られる前に寝てしまおう。


「寝てるからって変な事しないでね?」

「分かった。じゃあ、琴音の申し訳程度に膨らんだ胸を触って遊んでるね」

「…喧嘩したくなったらいつでも言ってね?罵詈雑言浴びせまくってガチ喧嘩するから」


コンプレックスを刺激されたので、千夜の望む反応をしてあげる。

わざと胸を馬鹿にして怒られるのを楽しみにするっていう、ちょっと変態的な欲求を満たしてあげてる。

…私は普通に不快だけど。


「じゃあ、おやすみ。夜ご飯までには起こして」


そう言って、私は千夜の膝の中で夢の世界へ旅立った。








――――――――――――――――――――


今更ですが、第一章完です。

しばらく別の小説を書いて楽しんでるので、駄菓子屋はお休みですね。

気が向いたらたまーに書くかも知れません。

(そう言ってやったこと無いけど…)


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