第70話ゲームセンターとレストラン

ゲームセンター 


カコン カコン カコン


エアホッケーで私とお母さんが真剣勝負中。

お母さんの連戦連勝を止めるため、私はマジ本気でやってる。

やってるんだけど…


カコン カコン カッ!!


「ッ!?」

「はい、私の勝ち」

「あー!もう!!お母さん強すぎ!!!」


はぁ……また負けた…

もう衰えが始まっててもおかしくない歳なのに、これから現役の私や『英雄候補者』である千夜よりも強いってどういうこと?


「琴歌おばさん、エアホッケー強すぎません?私でも勝てないって、もう強いとかのレベルじゃないですよ」

「ふふっ、そうでしょう。そうでしょう。私は強いのよ」 

「どうせチート超直感で異常に強くなってるだけでしょ?はぁ…その超直感を遺伝してほしかった」


私の超直感は、お母さんと比べると大きく劣り、血の薄まった分家の千夜よりも弱い。

私、これでも本家として扱われてる人間なんだよ?

それなのに分家よりも榊特有の超直感が弱いってどういうこと?


「はぁ…千夜、魔力使っていいから仇取って」

「そんな事したら、このエアホッケー台が壊れるよ?弁償は琴音がしてね?」

「うぅ…」


エアホッケーじゃ、お母さんには勝てないか…

何かお母さんに勝てそうなものは…お?

お母さんに勝てそうなゲームを探して見回すと、某太鼓ゲームがあった。

…そうだ、あれならいけるんじゃない?

  

「お母さんあれやろうよ」

「太鼓の○人?う〜ん、まあ、いいわよ。やったことないけど」


ほ〜う?お母さん、太鼓の○人やったことないんだ?

これは勝てる!!




―――なんて、思ってた時期が私にもありました。


「そんな……未経験者に負けた……」

「これくらい余裕でしょ?」

「そんな事無い!!この曲はこのゲームで一番難しいやつなんだよ?未経験者が一発クリア出来るようなものじゃないの!普通は!!」

「…でも、これって曲に合わせて出てくるから、曲調を見極めれば簡単じゃない?」


…初めてやった人とは思えないような理由。

やっぱりお母さんって天才なんだ。


「そんなに落ち込まないでよ。お母さん、琴音と一緒に遊べて嬉しかったわよ?」

「…むぅ」


その言い方はズルい。

私が悪いみたいだし、怒れない。

…そもそも、未経験者相手にムキになってたのもあれなんだけど。


「琴歌おばさんって、何でも出来そうですね」

「そんな事ないわよ。私は超直感で大体補ってるから上手くいってるけど、それが無いと何もできないからね」

「…でも、ピアノと琴は出来るよね?」

「あれは、榊の教育よ。まあ、今でもやり方は覚えてるけど」


お母さんのピアノ、久しぶりに聞きたくなってきた。

どこかにピアノ無いかな?


「ん?……いや、そんな都合のいい事ある?」

「どうしたの?琴音」

「いや、お母さんのピアノを聞きたいなぁって思ってたら、本当にあそこにピアノが…」


ちょっと離れた所にある、ステージみたいなところにピアノがあった。


「一曲だけ使わせてもらう?私は別にいいわよ」

「……う〜ん…いや、いいかな」

「どうして?」

「お母さんのピアノを聞くなら、こんな騒がしい所よりも、静かな所がいいの」


ここはゲームセンターだからね。

すっごくうるさい。 

せっかくのお母さんのピアノが、雑音でかき消されるかも知れないって考えると、わざわざここで聞く必要はない。


「それより、夜ご飯食べに行こうよ。お腹空いたし」

「いいわね。…そうだ、千夜ちゃんは琴音の隣に座る?琴音にあ~んしてあげたくない?」

「やりたいです!!琴音、早く行くよ!」


お母さんから良からぬことを聞いた千夜が、私の腕を掴んで三階のレストランに引っ張っていく。


「えちょっ…私は良いって言ってな――」

「――私じゃ不満?」

「うっ…わ、分かったよ。ちょっとだけだからね?」


やっぱり、私は千夜が寂しそうに弱いらしい。

また、許しちゃった。

千夜も理解してるんだろうなぁ…こうすれば、私は断れないって。

 

「ねえ、別にそんなに焦らなくてもよくない?私はいいよって言ったんだから」

「そうかなぁ…もしかしたら、こうやって歩いてる間に席が埋まってたり……」

「流石にそれはないでしょ。多分、広そうだし」


私は千夜を落ち着かせて、ゆっくり歩くよう促す。

何度も腕を引っ張られて、肩が痛い。

すると、お母さんが楽しそうに千夜に話しかける。


「千夜ちゃんは琴音の事になると本当に元気ね」


…火に油を注いだのはお母さんでは?


「はい!琴音は私の運命の人なので」

「ふふっ、早く琴音を落とせるといいわね」

「…もう落ちかけてるけどね」


私がボソッと言うと、千夜がすごい速度で振り向いてきた。

目をキラキラさせながら、さっきの言葉が嘘じゃないか、私の目を覗いてくる千夜。


「さっきは聞いてないフリされちゃったから、もう一回言うよ?千夜、私も好きだよ」 


私がそう言うと、千夜はフリーズしてしまった。

…流石にこの言い方は告白みたいで不味かったかなかな?


「琴音…いつの間にそんなに積極的になったの?」

「いや、千夜に喜んでほしてくて、恥ずかしいのを我慢して言ったんだよ?それに、プロポーズみたいだったけど、まだ早いって思ってるからそういう意図は無いし」

「……琴音、横見てみ?」


お母さんが困ったような顔をしながら私の横……千夜の事を指差す。

…あっ。

私は千夜の顔を見て察してしまった。

……まあ、ね?

千夜が嬉しすぎたのか、大変な事になってる。

このまま抱きしめたら、溶けちゃいそうな顔してる。

というか、これはちょっと不味いのでは?


「お母さん、今日駄菓子屋に来てくれない?」

「いいわよ。流石に今夜くらいは娘の貞操を守らないと不味いわね」


今夜私が一人で寝ていると夜這いされそうな気がする。

暴走した千夜ならやりかねない。


「琴音〜」

「なに?」

「指輪はどんなのがいい〜?ドレスとか式場も考えないとね〜」

「ちょっ、それは流石に気が早いよ」


そもそも法律的に結婚できる年齢じゃない。

……榊の根回しがあれば、出来なくはない気もするけど。


「えへへ~、じゃあ、今夜セッ「あー!あーあー!!」どうしたの〜?」

「レストランの席が埋まるかも知れないし、早く行こう。ね?ね?」


千夜が不味い事を言いそうだったから、無理矢理話を切って別の話題に変える。

チラッとお母さんの方を見ると、頷いてくれた。


「千夜ちゃん。ここで話すのもあれだし、夜景でも見ながら食事の席で話さない?」

「そうですね~。私ま琴音がお酒を飲めれば良かったんだけどなぁ」


お酒か…絶対碌な事に使わないでしょ。

私を酔わせて襲うとか、自分が酔って私を襲って、お酒のせいにするとか。

…でも、今私がお酒を飲むと不味いんだよね。


「私は最近になって、ようやくアル中が治ってきたから、絶対飲まないよ?」

「十六歳日本人が言うことではないわね……私が悪いとはいえ、十六歳の娘がこれじゃあ、将来が心配ね」


私がアル中ニコ中になったのは、100%お母さんのせいだね。

また今度、お詫びとして何処かに連れて行ってもらおう。


「じゃあ、惚れ薬でも混ぜて…」

「普通にご飯食べようね?」


ちょっと威圧を込めて千夜を黙らせる。

私は、レストランで千夜が変な事を言わないか心配しながら階段を登った。










レストラン


私は今、愛しの琴音の隣で公開処刑を受けています。

理由は、私のテーブルマナーにある。

愛しの琴音も、要注意人物であるあの琴歌おばさんも、テーブルマナーが完璧だということ。

“あの”琴歌おばさんですら、テーブルマナーが完璧。

周りのお客さんや、店員さん達もその完璧なテーブルマナーに興味津々。

…私?テーブルマナー?なにそれ美味しいの?状態。


「どうしたの?まださっきの余韻が残ってる?」

「……いいよね、本家の人間はそういうマナーとかを一通り知ってて」

「はあ?」


琴音は訳がわからないという表情を見せる。

…流石、本家の人間は違うね。

この完璧なテーブルマナーが“普通”なんだもんね。

羨ましい……こんな質のいい教育を平気で受けられる琴音が羨ましい。


「なになに?どうしたの千夜?」

「うるさい。そのまま私を苦しめればいいのよ」


琴音は頭の上にハテナマークが沢山浮かんでそうな表情で首を傾げる。

まあ、今の私の怒ってる理由は理不尽極まりないものだから、そういう反応をするのも仕方ない。

でも、許す気はない!!

そんな下らない事を考えていると、琴歌おばさんが呼び出しベルを鳴らした。


「はい。どうされました?」

「注文をお願いしたいの」


どうやら、また何か頼むらしい。

メニューを眺めて、お目当てのものを見つけた琴歌おばさんは、それを指差しながら注文する。


「この『和牛100%包み焼きハンバーグ』をお願いします」


あぁ、琴音が食べてるやつね。


「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいしょうか?」

「じゃあ、私も追加注文しようかな〜?」


琴音も注文するのね……私はしないよ?これ以上恥ずかしい思いしたくないし。


「う〜ん…これにしようかな〜?じゃあ、『キングサーモンのムニエル』をお願いしまーす」

「かしこまりました。以上でよろしいでしょうか?」


琴音、琴歌おばさん、店員さんの視線が私に集まる。


「私は大丈夫です」


これ以上恥ずかしい思いをしてたまるか!

私はもう頼まない!!


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


店員さんはお辞儀して厨房へ戻っていった。


「キングサーモンのムニエルって…ステーキとかじゃなくて良かったの?」

「魚の気分だったからね。別にいいでしょ?」

「まあ、何を頼もうが琴音の自由だけど……」


何故か怒られた。

私は別に、ムニエルを否定した訳じゃないんだけどなぁ…

琴音にはそう聞こえたのかな?


「まあまあ。喧嘩しないの。ご飯は楽しく食べないと」

「別に喧嘩してないもん」


琴歌おばさんに優しく怒られて、不満そうな琴音。

…不貞腐れた琴音もかわいい。

流石は私の運命の人。

どんな顔してても愛おしいなぁ〜。

私はが勝手に愛で満たされていると、琴音から衝撃的な話が飛んできた。


「ちょっと予定を変更して、今夜からお母さんが駄菓子屋に帰ってくる事になったんだけど、千夜はどうする?」


予定を……変更…?

え?ど、どうしてそんな事になってるの?

というか、いつ変更になったの?


「もし、このまま普通に帰ったら、千夜が夜這いしてきそうだから、お母さんに守ってもらうことにしたの。一応、お母さんが見張っててくれるから、千夜も来ていいんだよ?」

「…夜中に勝手に侵入されるくらいなら、最初から居てもらおうってこと?」

「まあ、そういう事。どうするの?来るの?来ないの?」


琴音だって答えは分かってるはずなのに…

一応、私に確認取っておこうってことかな?

私は、当然の返事をする。


「もちろん泊まるよ。それと、絶対そういう事しないから、隣で寝ていい?」

「隣で寝るくらい別にいいよ。…何もしないならね」

「抱きしめるのは?」

「別にいいよ」


よし、これで琴音を抱きまくらに出来るね。

琴音のニオイを感じながら、ぐっすり眠れそう。

…そうだ、これも聞いておこう。


「…胸は触ってもいい?」


しれっとセクハラ発言、さて琴音は許してくれるかな?

私の予想は許してくれないと思う。

しかし、琴音は不機嫌そうに予想外の返事を返してきた。


「なに?この絶壁を触りたいの?」

「だ、大丈夫!ピン球が転がるくらいの傾斜はあるから」


私だって、絶壁を触っても面白くない。

それに、触った事があるから分かるけど、ちょっとした傾斜はちゃんとある。

でも、やっぱり琴音は怒ってる。


「…悪意がない事は知ってるよ?私を馬鹿にしたい訳じゃない事も知ってるよ?でもね?その言い方は私の事を馬鹿にしてるようにしか聞こえないんだけど?」

「その……ごめんなさい」


琴音は呆れた様子で溜息をついてるけど、それ以上怒ってる気配はない。

何故か許された。

まあ、許されたのならそれでいいんだけどね?

すると、店員さんが料理を運んできた。


「お待たせしました。『和牛100%包み焼きハンバーグ』と『キングサーモンのムニエル』です」


琴音と琴歌おばさんは料理を受け取ると、またあの完璧なテーブルマナーでゆっくり料理を頬張り始めた。




……私もジェラートか何か頼めば良かった。

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