第43話押入れダンジョンの秘密

店に帰ってきた私は、千夜に賞味期限切れの駄菓子が無いか確認してもらった。

私は、千夜が点検をしている間にダンジョンの様子を確認してみたけど、特に異常は見られなかった。

それと、今気付いた事だけど、このダンジョンは魔力の気配を一切感じない。

普通、ダンジョンは近付くと魔力を感じるんだけど、この押入れのダンジョンは魔力どころか、中の生命の気配すら感知出来なかった。

そういうダンジョンもあるのかな?

ちょっと、千夜に聞いてみるか。


「ねえ千夜、ちょっといい?」

「ん〜?」

「魔力を感じないダンジョンってあるの?」


私が質問すると、千夜がこっちを向いて無表情になる。


「どうしてそんな事聞きたくなったの?」

「え?」


千夜の私を見る目は、知りすぎた人間を粛清する裏切り者のようだった。

もしかして、魔力を感じないダンジョンは機密事項なのかな?


「いや、箱根で私が最初にモンスターと遭遇したのが山奥だったんだよね。でも、近くにダンジョンの気配を感じなかったから、もしかしたら、魔力を感じないダンジョンがあるのかな?って…」


すると、千夜が神妙な顔つきで額に手を当てた後、


「なるほどね…琴音、これは口外禁止だから」


珍しく真剣な表情で、誰にも言わないよう言ってきた。

千夜がこんなに真剣になるなんて…そんなにヤバい情報なのかな?


「う、うん…分かった、誰にも言わない」

「そう…魔力を感じないダンジョンって言うのはね、とんでもない強さを持った、規格外のモンスターが『封印』されてるか、『宝剣』レベルのとんでもない魔導具があるダンジョンなのよ」

「えっ!?そんなにヤバいの!?」


千夜が、『とんでもない』に『規格外』を重ねる程の力を持つ、『封印』されたモンスター…それってまさか!?


「その規格外のモンスターって、十年前の…」

「そうだよ。中東を壊滅させ、不可侵領域へと変貌させた史上最悪のモンスター『ヒュドラ』と同格の化け物よ」


『ヒュドラ』

ギリシャ神話に出てくる、数多の首を持つ不死身の怪物だ。

実際に中東に現れたヒュドラは、首が三つあるドラゴンだっけど、高い再生能力と空気を汚染するほどの猛毒を持っていた為に、神話の怪物から名前を取って、『ヒュドラ』と呼ばれている。

ヒュドラ討伐には、世界中から最強格の探索者が集まり、多くの戦死者と『中東壊滅』の二つの犠牲の元、討伐された。

しかし、討伐されたから十年前たった今でも、中東の空気を吸えば即死すると言われる程の毒が残っており、イランを中心とした中東地域には国連から接近禁止命令が出されている。

そんなヒュドラと同格の化け物が『封印』されているの?


「今分かってるだけで、世界に三箇所『封印』型ダンジョンがあるの。アフリカ北部、アンデス山脈のどこか、シベリア中央部、私が知っているのは断片的な情報だけどこの三地域のどこかに『封印』型ダンジョンがある」

「かなりざっくりしてるね。でも、元々探知出来ないダンジョンなのに、隠す必要があるの?」

「放置すれば、人類を滅ぼしかねないモンスターが封印されてるのよ?隠しておく方が賢明でしょ」


それもそうか…確かにヒュドラと同格のモンスターが少なくとも三体は居るなんて、一般人が知ったら気が気じゃないくらい混乱するだろうね。

それに、ヒュドラも探索者の一人が誤って封印を解いてしまった事が原因と言われてるし、悪用されないためにも隠してるのか。


「じゃあ、『宝剣』と同じレベルの魔導具って言うのは?『宝剣』って言うと、『勇者』が持ってるアレだよね?」


『宝剣』

どんな魔力測定器を使っても、『測定不能』としか出てこない程の魔力を秘めた剣のことだ。

また、剣に限らず、『測定不能』と出る魔導具は『宝具』或いは『神器』と呼ばれ、日本では『勇者』が持っている最強の魔導具の事だ。


「そうだよ。『宝剣』が出てくるのは、大抵魔力を感知出来ないダンジョンだからね。もし、箱根に魔力感知不可のダンジョンがあるなら、すぐに組合に連絡して、厳戒態勢で警備しないと不味いよ」

「ソ、ソウナンダー」


ヤバい…つまり、あの押入れのダンジョンは人類を滅ぼしかねないモンスターが封印された、超危険ダンジョンか、世界最強格の魔導具が隠された超重要ダンジョンって事になる。

バレたら、即通報案件だよ…

これは、いくら千夜でも可能性の観点から通報される。

そうなったら…


『駄菓子屋?そんなもん知らん。ここは即封鎖だ!!』


なんてことになるよね〜

これは、今まで以上に隠し通さないといけなくなったね…

千夜には、今すぐ帰って欲しいけど、この話をした後に追い出したら怪しすぎる。

なんとしてでも押入れには近付けさせない!


「とりあえず、一応組合に通報しておくね?貴重な情報提供ありがとう」

「ド、ドウイタシマシテー」


こ、言葉が…言葉のナイフが心臓に…

千夜にバレたら確実に通報される。

そうなってたら、黒装束と仮面と指輪とその他諸々を使って、千夜の首にナイフを…


「琴音?」

「えっ!?な、何かな?」

「…さっきから挙動不審だけど、どうしたの?」


不味い…千夜に警戒された。

なんとか誤魔化さないと…


「ちょ、ちょっと、とんでもない事を知っちゃったなぁー、って混乱してて…そのせいだと思う」

「そっか…まあ、私も初めて知った時は現実を受け入れられなかったからね。ちょっと二階で休んでたら?」

「そ、そうするよ」


私は、千夜の好意に甘えて、早足で二階に上る。

そして、寝室に入るとすぐに布団を敷いて、押入れの前に机を置く。

更に、机の上をぐちゃぐちゃに物を置いて動かし辛くする。

これで、多少は押入れに入りにくくなったでしょ?

どうせなら、この本棚で隠したいけど、それをすると逆に怪しい。

千夜にバレる訳にはいかないんだ、不安要素は出来る限り排除しないと。


「ふぅ…何か食べよう」


こういう時は、何か食べて落ち着くべきだ。

確か、冷凍庫にアイスが残ったはず。

例え残ってなくても、賞味期限切れが近い駄菓子が大量にある。

それを食べれば……これだ!!

私は階段を駆け下りて、賞味期限切れが近い駄菓子コーナーに向かう。


「ど、どうしたの!?」


突然ドタバタと下りてきた私を見て、千夜が目を丸くしてる。


「この駄菓子を配るんだよ!!もちろん、余ってる駄菓子も!!そうすれば、多少宣伝になるんじゃ無いかな!?」

「あ〜あ、なるほどね。いい宣伝になるだろうね」

「もちろん、千夜にも来てもらうよ?」


千夜は有名人だから、一緒に配ってくれたらそれなりにお客さんが来てくれるはず。

それに、この店に千夜が居れば居るほど、押入れのダンジョンが見つかる可能性が高くなっていく。

少しでも、千夜を遠ざけるために、駄菓子配りに連れて行く。

宣伝にもなるし、千夜を遠ざける事も出来る、一石二鳥だね。


「そうと決まれば、さっそく準備するよ!!千夜は、空間収納にそこの駄菓子を全部入れておいて。私は余ってる駄菓子を取ってくるから!」


私は千夜の返事を聞かずに倉庫に向かう。

どうせすぐに戻って来れるし、ちょっとくらい目を離しても大丈夫なはず。

さて、何を持って行こうかな?

チョコはどこに持って行っても喜ばれるだろうから確定でしょ?

スナック菓子系は、喉が渇くから微妙かも。

ガムとかサラミも喜んで貰えそうだね。

まあ、全部持ってくか!!


「千夜〜、そっちの駄菓子は全部入れた〜?」

「入れたよ〜」


よし、次はこっちに呼んで…いや、ここは慎重に、一緒に連れて来るか。

万が一千夜が二階に上がって、ダンジョンを見つけたら大変だ。

一緒に居れば大丈夫。

カウンターに戻って、千夜を呼びに行く。


「琴音、この棚に並べられたのも持っていくの?」

「これは別にいいよ。それよりも、こっちに来て」


千夜の手を引いて、倉庫に向かう。

店番をしなくて大丈夫か?ってなるけど、こんな時に店に来る人は居ないでしょ?

いつも誰ものこないのに、こんな非常時に来られても嬉しくないよ。


「ここにある駄菓子を、全体的に持っていきたいんだけど…」

「全体的に…全種類を、数箱ずつって事?」

「そうそう!じゃあよろしくね?」


私が笑顔でお願いすると、千夜が軽く困った顔をして駄菓子を箱ごと空間収納に入れ始めた。

ふふっ、これで少しはお客さんが来てくれるはず。

持つべきものは友ね〜

駄菓子の準備が出来た私達は、店に鍵をかけて近くの避難所に向かった。

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