第42話帰宅
翌日
「ようやく神奈川県を抜けるよ」
「長かった…徒歩で帰るとこんなに時間がかかるのか」
「琴音、まだ家に着いてないよ?」
まだ家に着いてないのに、帰ってきたみたいなことを言っていたせいで、お母さんに優しくツッコまれた。
でも、感覚的には数日かけて帰ってきてる気がする。
実際は合計半日くらいしか歩いてないんだけど、半日も歩けばかなり疲れる。
それに、たまに走ってるから余計に疲労がたまる。
「東京に入ったんですし、もうすぐで帰れますよね?」
「そうね。ここまでくればもう家はすぐそこよ。強ち琴音の言い方も間違ってはないわね…」
「何よ…まるで、私が珍しくまともな事言ったみたいな目をして。言っておくけど、普段はお母さんのほうが断然ヤバいからね?」
お母さんだって適当だし、まともじゃない事だってある。
それなのに、私だけヤバい奴みたいな目を向けるのは止めてほしい。
まったく、千夜に変な目で見られちゃうよ。
…元から一般人が向ける目では無かったけど。
「そう言えば、千夜ちゃんはあの後ぐっすり眠れた?」
「はい。琴歌おばさんには感謝してます。相談相手になってくれてありがとうございました」
え?何?相談相手?
昨日の夜私が寝たあと何か話してたのかな?
「ねぇ…相談って何?」
「まあ、今後についてちょっと話し合ってたのよ」
「今後?千夜がお母さんに相談するような事があるの?」
いくら千夜とはいえ、青春真っ盛りの女子高生。
やっぱり相談の一つや二つはあるのかな?
…それか、恋愛相談か。
「琴音は知らなくてもいいわよ。別に知ってても知らなくても変わらないようなものだから」
「それなら教えてほしいんだけど…はぁ、教える気がないなら深くは聞かないけど」
私は知らなくてもいい事って何?
ああは言ったけど、実はかなり気になってる。
無理に聞くのはあれだから、仕方なく諦めてるけど凄く気になる。
やっぱり恋愛相談なのかなぁ?
「ん?こんな時でも盗みをはたらく輩は居るのか…」
人の気配が感じられない東京で、お母さんがあたりを見回していると、宝石店に侵入する人影が見えた。
そして、それを袋につめていたその時。
「ヘイ!そこの君。とりあえず、おねんねしようか」
そう言って、突然背後に現れたお母さんが宝石泥棒の意識を刈り取った。
手刀で首をトンってするのかと思ったら、後頭部を思いっきりぶん殴ってた。
もうちょっと他にやり方無かったかな?
「よし、琴音と千夜ちゃんでこいつの服を切り刻んでくれない?」
「服だけ?それ凄く難しいよ?」
「私は多分出来るけど、琴音は体も切っちゃいそうだね」
むっ、これはバカにされてると捉えていいのかな?
それとも、普通に私には危険だ、って警告してくれてるのか…まあ、多分前者だろうね。
「というか、器物破損で訴えられるかもしれないし、普通に警察署に突き出すだけでいいと思うけど…」
「分かってないわね。こんな時に犯罪者を連れて行くなんて、仕事が増えて警察官も困るでしょ?だから、代わりに私達が服を剥ぐとかして制裁を加えるのよ」
うん、普通に犯罪。
お母さんはかなり美化して言ってるけど、要は犯罪者に対して私刑を行ってるわけだからね。
こっちが犯罪者になるっての。
「とりあえず、普通に拘束しとくだけでいい?」
「仕方ないわね。じゃあ、そうしておいて」
これのどこが仕方ないんだか。
別に私は間違ったこと言ってないでしょうに。
さて、さっさとこいつを拘束して…しまった、拘束用の縄が無い。
「どうしようお母さん、今拘束出来るものを持ってないんだけど」
「え?この前糸使ってなかったけ?」
アレは今も持ってるけど、こんな所で使えない。
千夜に見せれば根掘り葉堀り聞かれるだろうし、見つかれば大ニュースになる。
それを避ける為に、この糸は使わないようにしないといけない。
「糸で拘束出来るわけないでしょ?千夜は何か持ってない?」
「拘束用じゃないけど、ロープを持ってるよ」
「じゃあそれ貸して」
私は千夜からロープ受け取ると、宝石泥棒に巻き付けた。
でも、確かに何か足りないね。
何かイタズラでもしたいけど…何しようかな?
「琴音、コレ」
「ん?…ああ、なるほどね」
私は、千夜からペンを受け取ると宝石泥棒の顔に落書きする。
『宝石泥棒 私がやりました マヌケ 』
うん、我ながら上出来だね。
これでコイツが何をしでかしたか一発で分かるし、晒し者に出来る。
「よくやったわ、琴音。どうせなら服を剥ぎたかったけど、イタズラは出来たし別にいいわ」
「どうせならウ○コを描いて欲しかったけど、これでも十分ね」
お母さんも千夜も、まだ足りないみたいだけど、一応喜んでくれた。
これでも足りないとか…鬼か?
まあ、お母さんは時折鬼みたいに怒るし、刀を持った千夜とか下手な鬼より怖いけどさ。
「じゃあこのまま吊るしておきましょう」
そう言って、お母さんは宝石泥棒を天井に吊るした。
首には巻き付けてないから大丈夫だろうけど、殺されてるみたいでちょっと怖い。
「じゃあね、哀れな宝石泥棒さん」
お母さんは気絶した宝石泥棒を小突いてから歩き始めた。
正直、あそこで小突いた理由はよく分からないけど。
まあ、お母さんはスキンシップが激しい方だし、仕方ないか。
「さてと、早く店に帰りましょう。帰ったらモンスターに壊されてたなんてのは嫌だからね」
お母さん、怖いことは言わないでよ…
「そうなってたら、私卒倒すると思うよ」
「それか、発狂してそうだね」
おい!
確かに自分でも
「あら、千夜ちゃんも琴音が発狂する様子が想像出来るの?」
「はい。琴音の、あの駄菓子屋への執着心は凄いので…」
ん〜?
千夜に駄菓子屋の事はあんまり喋ってないと思うんだけどなぁ…
やっぱり私って分かりやすいのかな?
まあ、私は単純だしバカだから千夜くらいの観察力があればそれくらい分かるか。
それよりも、駄菓子屋の話をしたせいで心配になってきた。
早く帰りたい。
「ん?…ここからは走って行きましょうか。千夜ちゃんは大丈夫だろうけど、琴音は体力持つ?」
「多分、大丈夫。店までそんなに遠くないし、それくらいなら普通に走れるよ」
流石に全力疾走すれば疲れるけど、ランニング感覚で走れば全然大丈夫。
軽く走り始めたお母さんに続いて、私も走る。
自分でも気付いていないだけで焦っているのか、徐々に走る速度が上がってる気がする。
そして、お母さんと千夜もそれに合わせて速度を上げてくれてる。
ここは、お母さんと千夜の好意に甘えて、このまま走ろう。
私は、徐々に速度を上げながら店に向かった。
数十分後
「ハァ…ハァ…良かった、お婆ちゃんの駄菓子屋は無事だった」
帰ってくると、いつも通りの店がそこにあった。
周りを見てもモンスターが居た跡が見当たらないし、ここまでモンスターは来なかったんだろうね。
それと、最終的にほぼ全力で走ったせいで、私は息が上がっていた。
そんな私の様子を見て、千夜が優しく声をかけてくれた。
「良かったね、琴音。疲れてるみたいだし、私が色々とお手伝いしてあげようか?」
なんか…言い方が変?
この感じの千夜は店に上げたくないなぁ…店に変なことしそう。
「手伝うって、何を?」
「ほら、商品を棚に並べたり、店を掃除したり、ご飯を作ったり、洗濯したり、琴音を後ろから眺めたり…」
「うん、一人で出来るから帰っていいよ」
これは黒。
確実に私が目当てで店に上がろうとしてるね。
まったく、千夜は年相応に発情してるね。
私は胸も尻も小さいからそういう目で見られた事ないけど、他の女子が嫌そうな顔してるのも納得だわ。
だって、普通に気持ち悪いもん。
「ねえ、どうしてそんな、やたらと胸を見てくる男子に対して、嫌そうな顔する女子みたいな目を向けてくるのよ」
「いや、答え分かって言ってるよね?成人したら、いつかセクハラで訴えるよ?」
「え〜?私は大好きな琴音を、すみからすみまで観察してるだけだよ?」
「それをセクハラって言うんだよ」
千夜って、こんなに変態だっけ?
もっと、クールビューティーって感じだった気がするんだけどなぁ…もしかして…
私がお母さんに疑いの視線を向けると、髄反射並の速度で顔をそらされた。
やってくれたな…
「ねえ琴音。今日琴音の部屋に泊まりたいなぁ」
「駄目。絶っ対駄目だから。もし勝手に上がってきたら出禁にするからね?」
「ひどい!琴音のためにわざわざ箱根に行ったのに」
「うっ…それは、その…」
チラッとお母さんを見たら、『よく言った!』的な表情を浮かべて何度も頷いていた。
これもあんたの入れ知恵か、お母さん。
何?お母さんは、そんなに私と千夜にくっついて欲しいの?
「だから、今日泊めて?」
「…勝手に部屋漁った瞬間追い出すから」
「やった〜!!」
仕方ない、押入れの事は最悪バレてもいいとして、出来る限り隠す方向でいこう。
もちろん、バレないのが一番いいけど、万が一バレても千夜なら組合に話したりしないでしょ?
駄目なら最悪体を使って約束させればいいし。
私は店の鍵を取り出して、扉を開ける。
「へぇ〜、凄い昔ながらの鍵だね」
「百年近く続く店だからね。鍵も古いんだよ」
どうせなら、一度鍵くらい新しくしたほうが良いかもね。
まあ、それはお金に余裕が出来たらにしよう。
それより今は、
「ただいま〜」
久しぶりの帰宅。
やっぱり、ここが一番落ち着くね。
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