第36話ジャイアントオーガ
討伐隊本隊
箱根に居た探索者の多くがここに集まっており、大量のモンスターの屍で山を築いていた。
しかし、今は劣勢のようだった。
「チッ!あの嬢ちゃんの情報は本当だったのか」
「ジャイアントオーガが出てくるなんて…」
「負傷者は下がれ!!アレは頭数を揃えれば勝てる相手じゃないぞ!!」
初級ダンジョンの中でもトップレベルに難しいダンジョンのボスを担っており、中級ダンジョンでも頻繁に出現し、多くの探索者を亡き者にしてきた凶悪なモンスター。
『ジャイアントオーガ』
全身が非常に筋肉質で、生半可な攻撃は一切通じない防御力と、その筋肉質な身体から繰り出される強烈な一撃は、厚さ1メートルのコンクリートの壁すら容易に破壊する。
また、とある国ではスタンピードで大量のジャイアントオーガが放出され、探索者と軍隊が対応に当たった。
結果は悲惨なもので、なんとか全滅させる事には成功したものの、途方も無い大損害を被るほどの被害を出した。
「回避が得意な奴!!前に出てオーガの注意を引け!!コイツはタンクの天敵だ!!」
支部長が後方から指示を飛ばす。
この支部長は、昔探索者パーティのリーダーを務めていた。
その経験から、対モンスターに関しては的確な指揮を執る事が出来る。
「回避盾だな?俺に任せろ!!」
「英雄になれるなら、俺も参加するぜ!!」
「私も参加するよ。回避は得意だからね」
すると、動きやすさを重視した軽装の三人が、ジャイアントオーガの前に出る。
飛び出してきた三人を前に、ジャイアントオーガは持っていた棍棒を薙ぎ払うように振る。
「おっと」
「危ないですね〜」
「まあ、当たればだがな」
三人は、ぶつからないように別々の方向に避ける。
結局、棍棒は誰にも当たることなく空を切る。
そして、振った事で出来た隙きを逃す事なく、三人が別々の方向から攻撃を仕掛ける。
しかし、
「なっ!?」
「硬すぎだろ…」
ナイフや短剣が振り下ろされたが、少し先が刺さる程度で、致命傷どころかまともにダメージを与える事すら出来なかった。
そして、体勢を立て直したジャイアントオーガが反撃を仕掛けてくる。
「あっぶな!!」
一人を狙っての振り下ろし攻撃。
狙われた男性は間一髪のところで躱すが、無理に避けたせいで大きく体勢を崩してしまった。
次の攻撃は避けられない。
そう誰もが思った時、横からいくつもの炎の玉が飛んできた。
「回避盾の彼等には当てるなよ!!当たったら死ぬのはお前らだからなぁ!!」
支部長の指示で、近くに居た魔法師達が一斉に魔法攻撃をしたのだ。
その威力は絶大で、かなりのダメージを与えた事がよく分かるほどの火傷を負っていた。
しかし、その攻撃は文字通り火付けとなった。
「グゥ、グォォォォォオオオオオオ!!」
ジャイアントオーガの雄叫びが、箱根中に響き渡り、何が起こったのかさっぱり分からない一般人達を恐怖のドン底に突き落とした。
また、腕や顔から血管が浮き上がり、目を血走らせたジャイアントオーガを見た、最前線の探索者達はあの一撃で殺せなかった事を後悔した。
火事場の馬鹿力というものは、当然知っているだろう。
あの現象が一番起こりやすい状態は、命の危険が迫っている時だろう。
さっきの攻撃でジャイアントオーガは全身に大火傷を負った。
十分命の危険を感じる状態だろう。
「まずいな…俺等を無視して魔法師の方に行かれると、止められないぞ」
「だったら、目を潰せばいい。コイツが動き出す前に、事を済ませる」
回避盾の二人が飛び上がり、ジャイアントオーガの目を狙って短剣を振る。
しかし、大人しくそれを食らうほど、ジャイアントオーガも馬鹿ではない。
「なっ!?」
「しまった!!」
棍棒を手放したジャイアントオーガが、二人の体を掴んだ。
この怪物に捕まったら最後、どうなるかは想像に難くない。
予想通り、ジャイアントオーガは腕を振り上げ、渾身の力を込めて振り下ろす。
けたたましい音と共にアスファルトで舗装された道路が砕かれ、道路にヒビ割れと血でできた花が咲く。
地面に叩きつけ、押し潰す。
回避盾をしていた二人の防御力では、アレを耐えることは出来ないだろう。
きっと、叩きつけられた部分だけがグチャグチャになり、体の一部は残っているという状況になっているはずだ。
「ひっ…」
最後の回避盾の女性が、腰を抜かしてその場にへたり込む。
女性の足元には蒸気が立ち昇る黄色い液体が水溜りを作っていた。
ジャイアントオーガは棍棒を拾うと、女性の方を向いて棍棒を振り上げる。
このままでは、女性に棍棒が振り降ろされ、あの二人よりも悲惨な死体が生まれるだろう。
その状況を想像したものが息を呑み、一歩下がる。
何人かは女性を助けるべく動いていたが、一番近くに居たものでも間に合わない。
誰もが彼女が押し潰される光景を想像したその瞬間、
「せぇぇいッ!!」
「ハッ!!」
突然中学生程の身長の少女が、強烈な蹴りをジャイアントオーガの首に突き刺し、背の高い女性が、脇腹に助走付きの右ストレートをぶつける。
「ゴハァァ!?」
ほぼ同時の横からの攻撃に、ジャイアントオーガが面白いほど吹き飛ぶ。
そして、近くの家の塀を破壊し、民家の中へ突っ込んでいく。
「うわぁ…これ、弁償しろとか言われないよね?」
「組合か市が出してくれる…はず」
民家の壁に巨大な風穴を開けた攻撃。
住民から弁償しろと言われないかと心配する少女。
背の高い女性も気にしているようだ。
「君たちは…救助活動をしていたんじゃなかったのか?」
「あー…こっの方に逃げ遅れた人が居ないか探しに来たら、救助が必要そうな戦闘が見えたんですよ」
「そうですそうです。援護が必要かなと思いまして…とりあえず殴ってみよう、ということになりました」
支部長が頭を抱えて呆れている。
突然横から攻撃してきたかと思えば、ジャイアントオーガを民家へ吹き飛ばしてしまったのだ。
そして、ここへ来た理由を聞けば、明らかに救助を建前に戦闘に参加しに来ていることが分かる。
面倒な事になったと呆れるのも納得だろう。
「ん?オーガが出てきたか」
「そうみたいね。どう?琴音の刀は通りそう?」
「まあ、切れなくはないかな」
戦闘に備えて、少女が空間収納から刀を取り出す。
そして、いつでも切れるように抜刀の構えを取る。
「オオオオオオ!!」
民家を破壊しながら出てきたジャイアントオーガは、いきなり背の高い女性へと殴りかかった。
◆
オーガの大雑把な攻撃を、お母さんはヒラリと躱す。
そして、私に視線で語りかけてきた。
『殺れ』と。
「シィッ!!」
私は、全身をゴムのようにしならせ、刀を鞘から抜く。
私が本気で振り抜いた刀。
全体を切り裂く事は出来なくても、一部を切る事は出来るはずだ。
そして、私の予想通り、かなりの抵抗を感じながら刀は首の一部を切り裂く。
一部とは言ったが、人間と体の構造が似ているオーガの事だ。
確実に動脈が切れている。
放っておけば失血死で殺すことも出来るが、このままでは暴れられる可能性もある。
「確実にトドメを…ん?」
ジャイアントオーガにトドメを刺そうと近付いた私は、何か嫌な気配を感じて数歩下がる。
すると、理性の欠片も見られない目で私の事を睨みつけてきた。
…刺し違える気か。
コイツの狙いは私。ても、正々堂々正面から戦うつもりはない。
お母さんに助けてもらいつつ、毒を盛って弱らせる。
それが、暗殺者として使えるものは何でも使うのが、私のやり方だ。
「お母さん」
「分かったわ。こっそり針をちょうだい(ボソッ)」
針か…毒殺がバレると嫌だから、精々軽く弱い毒でも入れておくか。
にしても、コイツ急に強くなったな。
まさか、進化したわけじゃないよね?
…進化してないといいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます