第32話抗争と…

あれから十五分ほど経った。

今は山道を走っており、おそらく廃村までもうすぐだろう。

そんな事を考えていると、前にいた人達が続々とバイクを降りる。

お母さんも適当にバイクを止めて、私に降りるよう言ってきた。


「着いたっぽいね」

「ええ。ここからは歩いていくみたい。もしかしたら、廃村にはこれだけのバイクを止められるスペースが無いのかもね」


それか、待ち伏せを警戒して、いつでも戦えるようにしてるとか。

ワイヤーを張られてたり、木の陰から現れて襲いかかってきたり。

まあ、私達ならまったく問題ないけど。


「そう言えば、琴音はある程度気配探知が出来るようになったのよね?」

「そうだけど…今のところ、特に気配はないよ?」

「そう。探知出来てない可能性は?」

「十分ある。一般人が本気で隠れれば、なんとか私の探知は回避出来るからね。一応、警戒したほうがいいよ」


私の探知では、見つける事の出来ないものは多い。

特に、ある程度隠密の出来る者や、魔力をほとんど持たない一般人は逆に探知しづらい。

しかし、探知出来るからと言って、驕っていてはいつか痛い目を見る。

私の存在がその筆頭だ。

装備の恩恵で、おそらく千夜でも探知出来ないほどの隠密が出来る。

まあ、千夜の場合は直感でなんとかしそうだけど。

すると、急に小村さんがやってきた。


「姐さん、少しお願いが…」

「お願い?」

「ここまで来てもらってなんですが、やはりこれは我々の問題なので、姐さんに手伝って貰うのは、ヤバいと思ってからにさせてもらえませんか?」


いや、今更すぎない?

お母さんはこの喧嘩を楽しみにしてたのに、急にこんな事言われて…あれ?怒ってない?


「別にいいよ。私も、自分達の問題で人に頼るようなら、その程度の組織だと思ってたからね。ただし、呼んだからには少しは暴れさせてね?」

「わかりました。出来るだけ自分達でケジメを付けます」


そう言って、小村さんは元の場所に戻っていった。

すると、お母さんが私の背中を押しながら、バイクの方へ戻る。


「呼び出されるまで、ここでのんびりしてましょう。煙草吸っていいい?」


お母さんは、そう言いながらバイクに腰掛けた。

…私許可してないのに煙草吸い始めてるし。


「はぁ…別にいいけど、こんな所でのんびりできるの?」

「出来るんじゃない?」


適当だなぁ

お母さんは、本当に適当なのとそうじゃないのが良くわからない。

はぁ…私も煙草吸いたくなってきた。

…いやいや!!今は禁煙してるの!!

店を継いだんだから、少しは健全に生きないと。


「どうしたの?顔が吸いたそうにしてるわよ?」

「止めて。今は店に影響が出ないように、禁煙してるんだから」

「そうだったね。中学生の頃はほぼ毎日吸ってたのに、よく止められたわね」


そう、中学生の頃はもっと不良少女をしていた。

あの時は、酒も煙草も普通にやってた。

ただし、薬だけはやらなかった。

お母さんが本気で殴ってくるからね、『薬だけはやめろ』って。

…今思えば、酒も煙草もとめてほしかったけど。


「お婆ちゃんの為に我慢してるの。それに、最近は多少まともになってきたから、進んでしたいとは思わなくなったよ」

「でも、ストレスを感じるとやりたくなるんでしょ?」

「それは…そうだけど…」


今でも強いストレスを感じると、手を出したくなる。

そういう時は、お婆ちゃんの遺影を見て我慢してる。

そして、夜の街で暴れてるバカ共に八つ当たりして、ストレスを発散してる。


「早くハタチになれるといいわね」

「その、見せつけるかのように煙草を吸いながら言われるの、凄い腹立つんだけど」

「琴音もすっかりスモーカーね」


誰のせいだと思ってるんだか。

私はその誰かさんのせいで、今こんなに苦しんでる。

しかも、その誰かさんは今私に見せつけるかのように煙草を吸っている。

殴りたい。

本気でぶん殴ってやりたい。


「ん?始まったみたいね」


話そらしやがった…確かに、喧嘩してる声が聞こえてくるけど、銃声は聞こえない。

流石に、いきなり乱射するなんて事は無いはず。


「どうする?近くまで見守りに行く?」

「琴音がしたいならいいよ。私の意見を反映するなら行かない」

「じゃあ、行かないでいいかっ!?」


私が行かないと言ったその時、銃声が二回鳴った。

私とお母さんはすぐに走り出し、抗争の現場に向かう。

走り出してから、三十秒程度で廃村に着くと、一箇所に集まった人だかりの中に入る。

すると、そこには


「小村!?しっかりしろ!小村!!」


胸と肩を撃たれた小村さんがいた。

米緋燃守ベヒモス』の構成員は、小村さんを囲んで混乱しており、半グレ共も本当に撃ったことに驚いている。


「琴音!ポーションを寄こせ!!」

「これでしょ。手遅れになる前に使って!!」


私はお母さんにポーションを手渡すと、撃たれた痕を確認する。

どうやら、銃の威力が高かったらしく、身体を貫通しているようだ。

お母さんはすぐにポーションの蓋を開けると小村さんに無理矢理飲ませる。


「うぅ…姐さん…?」

「良かった、間に合ったみたいだな」

「これは…俺、撃たれたはずじゃ…」


小村さんは、撃たれたにも関わらず、傷が消えていることに困惑していた。

困惑出来るってことは、それだけ回復したって事だろう。

しかし、驚いたね。


「まさか、大将が最初に撃たれるとは…最初から狙っていたか、前に出すぎたか」


私は、一応鞘と鍔を結んでおいた刀を取り出して前に出る。

すると、お母さんも小村さんを離して、私の横までやってきた。


「やあ、半グレ諸君。流石に銃を出されると、彼らでは対応出来ない。だから、私達が相手してあげよう」


殺意のこもった、歓迎するような笑みを浮かべながら、一歩一歩近付く。

すると、半グレ共はお母さんが近付いた分、後退りする。


「小村さんを撃ったやつ。いきなり大将を撃つとはやるねぇ。ご褒美に、私とお母さん、どっちに半殺しにされるか選ばせてあげる。せいぜい悔いのない方を選びなさい」


私がそう言うと、一番前に居た者の一人がぶるりと身震いした。

アイツが小村さんを撃ったのか…殺す。

私が殺意を込めて睨みつけると、そいつは冷や汗ダラダラで銃を構える。


「くっ、来るなぁ!!それ以上近付いたら、うっ、撃つぞぉ!!」


そんなに膝を震わせながら言われても、まったく怖くない。

そもそも、普通の状態でも怖くない。


「撃つだと?その程度で私達を殺せると思ってるのか?ふざけんなよクソ野郎が!!」

「ひぃ!?」


お母さんの怒りのこもった覇気は、半グレ達を恐れ慄かせるには十分だった。

そして、完全に腰が抜けたアイツは、がむしゃらに銃を乱射するが、お母さんは容易く回避する。


「な、なんで…なんで当たらないんだ!?」


ソイツは更に乱射するが、それもお母さんには当たらない。


「お前みたいなカスの弾が当たるか。さあ、そろそろ撃ち尽くす頃だろ?じゃあ、こっちの番だな。行くぞ琴音!!」

「もちろん!!打ち込み台にされる覚悟は出来たか!?このチンピラ共がぁ!!」


私とお母さんは、地を蹴るとトップアスリート並の速度で半グレ共との距離を詰める。

そして、お母さんは拳の連撃で。

私は鞘付きの刀の連撃で半グレ共をなぎ倒す。


「どうしたチンピラ共ぉ!!たった二人に押されてるぞ!!このまま全員潰してやろうか!!?」

「遅い、弱い、隙だらけ。お前らマジで弱いな!!これなら人生やり直して鍛えた方がいいぞ!!?」


私達は半グレ共を煽ってみるが、一瞬で仲間がやられていく姿を見て、恐ろしくて動けていない。

しかし、そんな事では私達にとっては的でしかない。

一人一人確実に潰していくと、正気に戻った奴らが逃げ始めた。

私が追いかけようとした時、殺気を感じて横に飛ぶ。

すると、発砲音が聞こえてきた。


「チッ!やっぱり他にも銃持ちがいやがったか!!」


銃弾は私の居た所を確実に捉えており、反応が遅れていれば当たっていた。

私が別の銃持ちを睨んだとき、お母さんがその銃持ちに殴りかかり、そいつごと銃を吹き飛ばす。


「てめぇ…私の娘に何してくれてんだ。そんなに死にたいか?このクソ野郎が」


私が狙われた事で、ブチ切れたお母さんが、殴られた勢いで倒れた銃持ちの腹を蹴りつける。

あの蹴りを喰らえば、かなりのダメージを受ける。

手は抜いているみたいだけど、モンスター相手に使うような威力の蹴りをしている。

これは、私も負けてられないね。


「さあ、邪魔者も居なくなったことだし、全員ピニャータになってもらおうか!!」


私は、半グレ共をピニャータのように、鞘付きの刀で殴りまくる。

一撃の威力が一般人相手では強すぎるので、手を抜かないと骨程度簡単に砕いてしまう。


「クソッ!!お前ら、逃げてないで戦え!!」


すると、ちょっと遠くから命令が飛ぶ。

それを聞いて、半グレ共が動き出した。

あれが野島か?

私は、半グレ共を無視して命令をしている奴の所まで乗り込む。


「なっ、なんだよ!!こっちには銃が、ぐはっ!?」


私は、剣先を正確に鳩尾にぶつける。

速度の乗った重たい剣は、コイツの鳩尾に突き刺さり、悶絶して転がり回っている。


「おいお前。野田はどいつだ?」

「お母さん、野田じゃなくて野島だよ」

「そうだった…で?野島はどこだ?」


すると、コイツは自分を指差した。


「俺が…野島だよ…久しぶりだな…と言っても、姐さんは覚えてねぇだろうけど」

「お前が野島か…どんな理由でこんな事をしてるかは興味ねぇ。しかし、どうしてお前はベヒモスを抜けたか教えろ。私が聞きたいのはそれだけだ」


すると、野島はフッと笑って、


「あそこに居たら、いつまで経っても俺はボスにはなれねぇ。ボスになる頃には、俺はもう軽く四十は超えてるだろうよ。四十になって衰えた俺よりも、若くて力のある奴のほうがボスになりやすい」

「だから、あそこを抜けて半グレに入ったのか…」

「入ったんじゃねえ、作ったんだよ。俺もここまでうまくいくとは思ってなかったさ。せいぜい四、五人程度の集まりで終わるだろうと思ってた。俺は、運が良かったんだよ。…まあ、俺の悪運もここまでみたいだがな」


伝説の女総長に目をつけられたわけだしね。

それも、娘を狙うなんて自殺行為をしてたし。


「そうか。選べ、ここで私か琴音に拷問されるか、出頭するか」

「そうだな…俺も年貢の納時か。出頭する」

「いい選択をしたなっ!!?」


野島の決断をお母さんが褒めたその時、地震大国日本に住む私達でさえ滅多に感じないような揺れを感じ、その場に居た全員が伏せる。


「なっ、なんだこの地震!?」

「デカすぎだろ!?」

「下手したら津波が起きるレベルだぞ!!それか、この揺れのせいで富士山が噴火しそうだ」


突然の大地震に、有り得そうだけどそれはないだろというような事まで話す奴が現れた。

混乱する連中を置いて、私とお母さんは最大級の警戒をしていた。


「琴音、良く聞きなさい。貴女はここに居る全員を連れて、安全な所に避難しなさい。その後、組合に行って山奥にダンジョンがあることを伝えなさい」

「わかった。お母さんも、不味くなったらすぐに逃げてね?」


私とお母さんの会話を聞いて、更に混乱する一同。


「姐さん、何かあったんですか?」


野島が一同を代表して質問してきた。

お母さんが質問に答えようとした時、お母さんもこっちに向かってくる気配を感じたらしく、山の方を睨む。


「姐さん?…あれは!?」


ちょうど藪の中からモンスターが出てきた。

それを見た野島が目を見開く。


「そんな!?この山にはダンジョンは無かったはずなのに!!」

「山奥になると、未発見のダンジョンが多いのよ。出てきたのがホブゴブリンで良かったわね。私や琴音が対応出来るレベルのモンスターよ」

「ああ、それで娘さんと一緒に逃げろと…」


さて、理解出来た奴も居るようだし、逃げる準備を…いや、逃げる前に私の力を見せつけておくか。


「琴音も殺る?」

「もちろん。私の強さを見せつけておけば、安心してもらえるでしょ?」


鞘と鍔を結んでいる紐を解き、魔力を流しながら刀を抜く。

すると、刀の周りを渦巻く魔力を見て、息を呑む音が聞こえた。


「さて、胴にサヨナラを言うなら今のうちだぞ?…まあ、言わせる気は無いがね!!」


私が本気で踏み込めば、お母さんの倍はある速度で動ける。

その速度を刀に乗せて、前に居た五匹のホブゴブリンの首をはねる。

もちろん、それだけでは終わらない。

さっき振ったのと逆方向に刀を振る。

その勢いで更に四匹のホブゴブリンの首をはねる。

それだけ殺って、ようやく状況を理解したゴブリン共が逃げ出す。


「どこに行くんだい?お前らの逝くところはあの世だぞ?」


逃げるホブゴブリンを殲滅すると、藪から出てきた連中は全滅した。


「さて、あれが私の娘、神条琴音の実力だよ。不満があるやつは居るか?」


全員が首を横に振る。


「そうか、じゃあ行け!!」


お母さんがそう言うと、蜘蛛の子を散らすかのように走り出した。


「頼んだよ、琴音」

「わかった」


私も皆を追い掛けて、バイクのある方へ走る。

すると、また藪からモンスターが現れる。


「さて、今度は私の相手をしてもらおうか?」


私は、この場はお母さんに任せて、街へ向かった。

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