第30話拷も…尋問

倉庫地下


「で?どうしてお前は銃を持ってたんだ?」


小村さんが、ストーカー野郎…もとい、鉄砲玉を椅子に括り付けて尋問する。

小村さんは、まず銃のことを聞き出そうとしているが、私とお母さんはもっと別のことが気になっていた。


「お母さん、あれって本当に鉄砲玉なのかな?」

「そうね…鉄砲玉と一言に言っても、ヒットマン、殺し屋という意味もあるからね。その点、アイツは捨て駒にしては強すぎる。つまりは…」

「お母さんを殺すために派遣された、殺し屋ってこと?」


アイツが纏っている覇気、アレは一般人や末端のチンピラが出せるものではない。

戦い方や、人の殺し方を知っている人間の覇気だ。


「奴らが殺し方を雇ったのか、組織の中に殺しができるやつが居たのか。どちらにせよ、ただの喧嘩集団であるここベヒモスとは、決定的に力を持ってるわね」

「やっぱり、私達が前に出る必要がありそうだね」

「ええ。銃持ちに対応出来るのは、私と琴音。後は、ギリギリ小村がいけるくらいだろうね」


暴走族と半グレは、武装が決定的に違う。

暴走族は、名前の通り暴走して回ってるような連中だ。

しかし、半グレは暴力団と戦えるほど力がある。

特に、ダンジョンが出現してからは、組織的にダンジョンに向かい、強くなってから暴れ回る悪質な者が多い。

となると、素の戦闘能力もあっちの方が上か…


「これは…私達が居ないと勝てないね」

「そうね。暴走族と半グレじゃあ、全力に差があり過ぎるからね。よくもまあ、こんな無謀なことをしようと思ったわね」

「違いないね。『米緋燃守ベヒモス』ってのは、そんなに喧嘩に強い集団なのかな?」


喧嘩が強いだけで、探索者に勝てるとは思えない。

何かしら策があるのか、私達以外の切り札があるのか。


「チッ!なんにも喋らねぇ」


小村さんは、様々な方法で情報を引き出そうとするが、コイツは一向に口を割ろうとしない。


「落ち着け小村。そんなに取り乱しても、良いことはないぞ?」

「そうですね…」


お母さんに叱られて、小村さんが少し落ち着く。

けど、落ち着いたところで、コイツが口を割るとは思えない。

…私がやるか?


「小村さん、私が拷も、ゴホン!尋問してもいいですか?」

「一瞬、ヤバい言葉が聞こえた気がしたが…まあ、いいぞ」


よし、許可は貰った。

後は、私の好きなように遊ぶだけ。


「やあ、こんにちは。君のお名前は?」

「はっ!言うわけねぇだろ、このチビが!!」

「あん?」


チビだって?

このクソ野郎は、今私のことをチビと言ったか?

そうかそうか、これで気兼ねなく拷問ができる。


「さて、私は小村さんやお母さんほど優しくはしないぞ。手始めに、その貧弱な棒に針金を通して、ピンと立たせるか?」

「え?…お前!?何を!!」

「なに?そうだな、ズボンを下ろさないと、お前の一物がわからないだろ?だから、私が下ろしてあげるんだ。優しいだろ?」


私は、クソ野郎のズボンを脱がすと、袖から針を取り出す。

正確には、袖の中で針を生成して、あたかも袖の中から出したように見せてるだけだ。


「お前…まさか…」

「そのまさかだよ。この、グニャリと曲った棒を、ピシッと立たせてやる。まあ、穴に針を通すのは初めてだから、軽く尿道を傷付けるかも知れないけど、そこは我慢してくれ」


私は、このクソ野郎の尿道に針を差し込む。

すると、


「ギャアアアアアアアアアアア!!!」


この世のものとは思えないような奇声を上げて、クソ野郎が発狂する。

どうやら、尿道を軽く掠ったらしく、クソ野郎が狂ったように悲鳴をあげる。


「どうした?そんなに痛いのか?まあ、そうだろうね。この針には、弾丸アリの毒と類似の毒が塗られてるからね。そりゃ痛いだろうよ」


そんな事を話していると、後ろからヒソヒソと話す声が聞こえてきた。


「あの、姐さん。弾丸アリってなんですか?」

「弾丸アリか?『パラポネラ』と呼ばれるアリの一種で、刺されると弾丸で撃たれたような痛みが、二十四時間続く事から、『二十四時間アリ』とも呼ばれるとんでもないアリだ。そのアリが持つ毒と類似の毒が塗られた針を、琴音は尿道に差し込んだんだよ」

「…」


多分、小村さんは顔を真っ青にしてるだろうね。

私がしたことの恐ろしさを知れば、普通は顔を真っ青にするはず。

…お母さんは、ケロッとしてるけど。


「さて、もう一回聞くね?君のお名前は?」

「さ、笹島晴人です!!痛い!抜いて!針抜いて!!」

「別にいいよ。まあ、抜いたところで痛みは一切変わらないけどね」


優しい優しい私は、わざと尿道を傷付けるように針を抜く。

すると、またもやクソ野郎が発狂し始めた。

いい加減うるさいな…そうだ!!


「えっと〜?確かこうして、こうすれば良かったはずなんだけど…おっ?出来た!」


私は、掌の上にゴルフボールほどの大きさの、液体の球を生成する。

そして、その液体の球をクソ野郎の口に入れて、ガムテープで蓋をする。


「うん、これで少しはうるさくなくなったね。いくら、地下で防音加工がされているとはいえ、ここまでうるさいと、周りの人にバレるかもだから、このままでいようね?」

「ッー!!ッーッー!!」

「なに?むーむー言ってるだけじゃわからないよ?あっ、そうだった。これじゃあ尋問が出来ないね。まあ、首を振って答えてもらえばいっか」


私がそんな事を言うと、クソ野郎はついに泣き出してしまった。

さっき入れた液体は、簡単に言うと漆みたいなもの。

触れると凄く痒くなる毒で、今頃口と喉が痒くて痒くて仕方ないだろうね。

まあ、ミスリル鋼糸で拘束されてるから、掻きたくても掻けない。

それは、単純な痛みよりも、遥かに苦痛が大きい。


「私の質問に答えてくれたら、この解毒薬をあげるよ。ダンジョン製だから、弾丸アリの毒も、飲ませた毒も解毒出来るよ」


すると、クソ野郎は壊れた首振り人形のように、高速で首を振る。

よほど、この苦しみから開放されたいらしい。

さて、このクソ野郎はどれだけ耐えられるかな?


「じゃあ、質問その1。君は、雇われの殺し屋?それとも、技術を培った半グレの構成員?前者なら縦に、後者なら横に首を振ってね」


私がそう言うと、クソ野郎は首を横に振った。

なるほどね、やっぱり後者だったか。


「ふ〜ん?じゃあ、質問その2。どうしてお母さんを狙ったの?お母さんが邪魔だった。個人的な理由。前者なら縦に、後者なら横に振って」


答えは縦。

つまり、お母さんの存在を危険視した、野島とか言う奴が殺してこいって言ったのか?


「質問その3。お母さんを狙うよう命令したのは、野島?それとも他の幹部?」


すると、私が最後まで言い切る前に、クソ野郎は首を縦に振る。

そうか…お母さんを殺すよう命令したのは、野島だったか。

流石に野島に手を出すことは出来ない。

お母さんが止めてくるはずだからね。

仕方ない、他の幹部を変わりに狙うか。


「小村さん、聞きたいことある?」


私は別に、もう聞きたいことはない。

後は、小村さんに任せよう。


「そうだな…うちの中に、裏切り者は居るか?」


なるほどね。

確かに相手はかなりの情報を得てる。

昨日来たばかりのお母さんが狙われたんだ、誰かが情報を流してるとしか思えない。

実際、クソ野郎は首を縦に振った。


「そいつは誰だ?ガムテープを外してやる、余計なことは喋るなよ?」


小野さんが、そう言いながらガムテープを外す。

すると、クソ野郎はぷるぷると震えた声で、話し始める。


「木場弥太郎という…奴です…うぅ…痛い…助けて…むぐっ!?」

「そうか、よく言ってくれた。お礼に、琴音にもう一本刺してもらえ」


へえ?ここで私に振ってくるのか。

あっ、クソ野郎がこの世の終わりみたいな顔してる。

ふふっ、これは特別な毒を作らないとね。


「頼んでいいか?」

「いいよ。ただし、一本だけだからね?」


私は、特別な毒を塗った針を、クソ野郎頬に刺す。


「さて、今刺した針は、少しでも付くとその部分が風船のように膨れ上がる毒だよ。そして、これは後遺症が残るからねぇ〜」


そんな事を話していると、クソ野郎が必死に何かを伝えようとしているのがわかった。


「なに?」

「ッー!ッーッーッーー!!」

「うん、何言ってるかわかんない」


ガムテープで口を止められているせいで、『むーむー』と言っているようにしか聞こえない。

まあ、『助けて』とか『止めて』とかだろうね。

…この針、一切毒を塗ってないけどね。


「琴音、コイツの頬、赤くなってるぞ?流石に後遺症が残る毒は不味いんじゃないか?」

「大丈夫だよ。ポーションで治せるから」


今、クソ野郎の頬は、刺された部分から赤くなっている。

毒を入れていないにも関わらず、頬が赤くなった。

これは、『ノシーボ効果』と呼ばれるものだ。

『目隠しをしてアイロンを当てると火傷する』という話は聞いたことがあるはずだ。

アレは、脳が誤認識することで、『火傷に似た皮膚の変化』が起こるというもの。

今頃私がしたことは、それと似たようなもので、二度恐ろしい毒を使った私が、またもや針を刺してきた。

そして、今度は後遺症が残るような毒を使ったなんて言い出した。本当は毒なんて無いのに。

しかし、コイツがその言葉を信じてしまい、思い込みで頬が赤くなった。

お遊びはこれくらいにするか。


「良いこと教えてあげる。今刺した針にはの一切毒を使ってないよ?」

「え?でも、頬が赤くなってるわよ?」

「ふふっ。これは、コイツが本当に毒を盛られたって思い込んだ事で、あたかも毒で炎症を起こしたみたいになってるんだよ」

「ああ、『ノシーボ効果』ね」


流石お母さん、ノシーボ効果を知ってるみたい。

…もしかして、私みたいな事をしたことがあるのかな?


「昔、『目隠しアイロン』をしたことがあってね。その時に知ったのよ」

「それは…誰にやったの?」

「他校の生意気なヤンキー」

 

ああ、可哀想に。

お母さんに喧嘩を売ったばっかりに、そんな事をされて…私はもっと酷いことしてるけどね。


「小村さん、一応普通に毒を盛りますか?」

「いや、十分だ。それよりも、さっき言っていた解毒剤を飲ませてやってくれないか?」

「解毒剤?ああ、ラムネ瓶の事ですか?」

「ラムネ瓶?」


私は、さっき見せたラムネ瓶を取り出す。


「それが解毒剤なんだろ?」

「いや?これは駄菓子のラムネ瓶ですよ?」

「ラムネ瓶って…あのお菓子のラムネが詰まった瓶?」

「そうですね。この錠剤みたいなのは、ラムネですよ」


解毒剤?

そんな高価なもの、こんな奴に使うわけないでしょ。

それに、


「私の使った毒は、どれも二〜三時間で効果が消えるんです。解毒剤なんて使わなくても、すぐに良くなる仕様なんです。良心的でしょ?」

「そ、そうだな…あー、つまり、二〜三時間放置するのか?」

「そうですね」


二〜三時間で良くなるんだよ?

これ以上無いくらい良心的な設計の毒だと思うんだけどなぁ。

すると、小村さんがクソ野郎に憐れみの目を向けて、私に話し掛けてくる。


「本当に、解毒剤はないのか?」

「私がよく使ってる毒消しなら」

「言い値で買おう。だから、コイツに使わせてくれないか?」


はぁ?

このクソ野郎に、高価な毒消しを使う?

正気か?


「探索者の消耗品の値段、舐めてませんか?」

「そんなつもりはない。ただ、これ以上すれば、本当に死んでしまうかも知れない。そうなる前に、毒消しを使うべきだと思ってな」


甘い、甘過ぎる。

そんなので、よく箱根一の暴走族になれたもんだ。

それに、相手は銃を使ってお母さんを殺しに来た殺し屋。

そんなのを助けるとは…


「8000円」

「え?」

「毒消しの正規の値段、8000円です」


小村さんは、目を見開いてこっちを見つめてきたが、さっきの話を思い出したのか、納得してくれた。


「わかった。後で必ず払う」

「そうですか」


私は、空間収納から毒消しとポーションを取り出す。

そして、毒消しだけ渡して、ポーションはクソ野郎の前でちらつかせる。


「これを使えば、傷付いた尿道が治る。ただし、最低でも十万は貰うぞ?」

「わかった。それも俺が払う」

「…はぁ、もう勝手にしてください」


ポーションも小村さんに渡し、お母さんの隣に立つ。


「お母さんの心配がよく分かったよ。アレは、子供向けアニメの主人公レベルに優しい」

「いや、見ている人を不快にさせるレベルのお人好しよ」


私は、軽く小村さんを睨みながら、クソ野郎に毒消しを使う光景を眺めていた。

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