第21話押入れの遺跡

西の森の遺跡

ガコン!という足元の石が凹む音が響く。

そして、すぐ横の壁の一部が開き、直径15センチほどの棘付きの鉄球が、いくつも飛び出してくる。


「うわっ!?」


私は何とか飛んできた鉄球を回避する。

数や速度的に、当たっていたら重症どころじゃ済まない気がした。

避けられて良かった。


「入ってすぐなのに、殺意高すぎでしょ。この遺跡」


私が遺跡に入ってから五分も経っていない場所で、即死級のトラップが存在した。

普通は、そこそこ潜ったあたりから出てくるようなトラップが、入ってすぐのところにある。

この事をダンジョンで例えるなら、中級上位クラスのダンジョンレベルという事になる。

中級上位クラスの難易度は、


「千夜がフル装備で本気を出すレベル…」


『英雄候補者』が本気を出すほどの難易度という事になる。

せいぜい、下級中位クラスのダンジョンにしか潜った事のない私が来ていい場所じゃない。


「引き返した方がいいよね…でも、せっかく高性能なマスク買ったのになぁ…ちょっとだけ探索して帰ろう」


私は、ここで帰らず少しだけ探索することにした。

このまま、なんの成果も無く帰るのは、マスクがもったいない。

しかし、少し歩いた先、私は引き返せば良かったと後悔することになった。








探索を再開して数分。

何度かトラップはあったけど、私の天才的な直感で全て回避している。

…毎回発動してたけどね。


「モンスターが居ない…スケルトンくらいは、出てきてもいいと思うんだけどっ!?」


モンスターを探して辺りを見回していた時、氷水の水風呂に入ったかのような寒気に襲われた。

何度も即死級トラップを回避してきた私の直感が叫んでいる。

『アレはヤバい』と…

未だに探知が苦手な私でもわかる。

とてつもない力を持った何かが、こちらに近付いて来てる。

今から逃げる?相手はもう私を見つけてるはず。


「戦うしかないか…」


空間収納から短刀を取り出して、そこの壁を曲がってこっちへ来るであろう何かに備える。

そして、何かがその姿を見せる。

朽ちたフルプレートのアンデッド。


「『死ノ騎士デス・ナイト』…」


中級クラスのダンジョンで、中ボスとして出現する強力なモンスター。

その強さは、千夜曰く『中ボスなのが不思議なほど強い。普通にボスとして出て来てもおかしくないレベル』だそうだ。


「そんなのが徘徊モンスターとして出てくるなんて…やっぱり、ここは私には早すぎたんだ」


私は、デス・ナイトから視線を外さずに後退る。

幸いなことに、マナポーションは大量にある。

これを使って、何が何でも逃げる。

そのためには…


「『影のくの一』」


私の着ている黒装束は忍者っぽい見た目何だけど、名前が『くの一の黒装束』という名前だった。

そして、今発動した『影のくの一』は、隠密能力を上げる装備の能力で、知覚阻害の効果がある。

もちろん、それだけでは中級クラスのボスの目は欺けない。

だから、もう一つ魔導具を使う。


「百面『盲点の面』」


私の言葉に合わせて、丸と星が描かれた仮面が現れる。

コレは、私が普段から付けている仮面、『百面』の一つだ。

百面というだけあって、他にも色々な効果のある仮面がある。

ちなみに、普段は『からの面』という、つけてはいるけど、触れることは出来ない状態にしている。

この状態だと、飲食が仮面越しに出来るという、不思議な事が出来る。

…話が逸れたけど、『盲点の面』は、その名の通り盲点に入る仮面で、相手は私のことを盲点でしか見る事が出来ない。

実質透明化だ。

しかし、デス・ナイトの攻撃は、確実に私を捉えている。

まるで、見えているかのように。


「グオオオオォォォォ!!!」

「っ!!わかってはいたけど、やっぱり見えてるのか。格上相手だと、一度視線を切る必要があるね」


『影のくの一』も『盲点の面』も、一種のバッドステータスだ。

格上相手には効果が薄い。

だから、一度姿を隠して、私を知覚出来ないようにする。

そうすれば、『影のくの一』と『盲点の面』が正常に機能する。


「起きろ『漆』。お前の出番だ」


私は黒い短刀に魔力を流し、込められた力を発動させる。

すると、黒い短刀は靄を纏い始める。

私はその靄を振り撒くように短刀を振るう。


「『墨霧』」


短刀から黒い霧が発生し、タコが墨を吐くように私とデス・ナイトの間に霧の壁が出来る。

これで十分だ。

後は偽装の指輪で魔力を隠して、逃げるだけ。

指輪の力を発動すると、強烈な目眩に襲われた。


「チッ!魔力を使いすぎた…千夜に感謝だね、マナポーションをこんなに簡単に使えるなんて」


私は、逃げながらマナポーションを飲む。

魔力欠乏症で死ぬのはゴメンだ。

それに、会う度にマナポーションを渡してくれる千夜のおかげで、マナポーションが2ダース以上ある。


「少なくとも、魔力欠乏症で死ぬことは無いだ――ゲホッ!?」


急に吐気に襲われて、私は吐いてしまう。真っ赤な血を。


「なにこれ…なんで、吐血なんか、ゲホッゲホッ!!」


私が困惑している間も苦しくなる一方で、何度も吐気に襲われる。

その度に、何度も吐血する。


「まさか…毒?そう言えば、『盲点の面』を付けてからマスクが…」


どうやら、『虚の面』を『盲点の面』に変えた事で、浄化マスクが外れてしまったようだ。

そのせいで、直接毒を吸ってしまった。


「浄化マスクを付けないと、ゲホッ…あれ?マスクが無い。まさか、部屋に置いてきた?」


さっきまで付けていた浄化マスクは、十二時間効果が持つ。

一枚で十分だと置いてきた気がする。


「そんな…あの化け物から逃げても、毒で死ぬ。毒消しも一時しのぎでしかない。なんとかして、毒を中和しないと」


幸い、前まで使っていた浄化マスクがある。

全て中和することは出来ないが、無いよりはマシだ。

毒消しを飲んで、すぐに浄化マスクを着ける。

しかし、


「なにこれ…ほとんど中和出来てない」


マスクを着けたにも関わらず、毒を中和しきれていないのだ。

どうやら、遺跡内の毒は、外の毒よりも強力なようだ。


「そんな…百面を変えていなければ…百面?」


毒で思考能力が低下する中、私はなんとか解決策を見出した。

それは、百面で毒を中和すること。

私は毒を中和出来る百面を探す。

そして、ギリギリのところでなんとかその仮面を特定した。


「百面『浄化の面』!!」


なんとか見つけ出した仮面を発動すると、毒を吸い込まなくなっただけでなく、徐々に体内の毒が中和されているようだ。

少しだけ気が楽になる。


「って!ゆっくりしてる暇はない!!あの化け物が来る前に、ここを離れないと!!」


吸い込む毒を最低限に抑える為に、無理矢理マナポーションを飲み干し、身体強化系の装飾品を全て発動する。

身体強化は常に魔力を消耗するので、早めにここを離れる必要がある。

けど、今の速度なら罠にさえ気を付けていれば、すぐに出られる。

私は、なんとか遺跡から抜け出し、そのまま魔力が尽きるまで走り続けた。



二度と、毒霧地帯で百面は使わない。

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