第17話赤字
駄菓子屋と探索者の両立を目標にしてから一ヶ月。なんとか両立出来ているものの、駄菓子屋はある問題を抱えていた。
「で?探索者をやっても、借金込の駄菓子屋の赤字をカバー出来ないと」
「はぁ…なんとか今月分は用意出来たんだよ?それはいいの。でも、駄菓子屋に中々客が来ないんだよ〜」
「立地がなんとも言えねえからな。駄菓子を買ってくれそうな小学生があんまり通らねえしな。」
そう、駄菓子屋にお客さんが来ないのだ。
ここは多くのビルが並んでおり、人が来ない訳ではない。
しかし、駄菓子を買ってくれそうな小学生が中々通らないという、問題がある。
琴音は、たまたま来ていた借金取りに、愚痴をこぼしていた。
「立地もあるが、何より…」
「なに!?もしかして、改善出来る問題!?」
「いや…そうだな…改善は出来るが、そのなんだ」
借金取りは、ゴニョゴニョとはぐらかして、言うのを躊躇っている。
しかし、琴音が無言の圧力を掛けたことで、溜息をつきながら話し始めた。
「駄菓子屋に客が来ない理由。それはお前にあるんじゃないか?」
「私?」
「そうだ。お前、一回鏡見てこい」
琴音は首を傾げながら、鏡を探しに行く。
そして、トイレ前の洗面所の鏡で自分の顔を見る。
私に問題があって、鏡を見てこい…?
「鏡見て来たけど、どういう事?」
「はぁ〜〜。お前、いつまでそのヤンキーみたいな格好する気だ?」
「え?…あ〜あ、そういう事か」
琴音はようやく理解したようだ。
そう、今の琴音の姿は、完全にヤンキーそのものであり、近寄りがたい雰囲気を放っている。
「優しそうなお婆さんから一転、髪染めて、ピアス開けて、服装もヤンキーみたいな少女がカウンターにいるんだぞ?そりゃあ、客も寄り付かねえよ」
「そっか…確かに私が店主だと、店のイメージがめっちゃ下がるよね…」
「そうだな。せめて、ピアスくらいは外したらどうだ?」
琴音のピアスに目を向ける借金取り。
しかし、琴音にもピアスを外さない理由がある。
「これは、特別なピアスなの。付けてると色々と効果があるの」
「効果ってなんだよ?魔導具なのか?」
「古臭い中古屋で200円で買った、パワーストーンが入ったピアス」
「うん、今すぐ外せ」
実際は、押入れのダンジョンで見つけたピアスだが、魔導具というと怪しまそうなので、如何にも偽物っぽい理由を述べる。
その後、「だったら髪染め直せ」と言われた琴音だが、なんだがんだ嫌がって、結局何も変わらなかった。
そして、借金取りは呆れて帰っていった。
◆
午後八時
「はぁ、今日もお客さんは来なかった…ここからは、狩りの時間だ」
店を閉めた琴音は、髪を整えながら二階へ向かう。
押入れのダンジョンで、少しでも多く魔石を集めないと、店の経営に響いてくる。
借金も返せていないし、駄菓子も食べ物なので賞味期限がある。
つまり、駄菓子を更新する必要があるのだ。
そうなると、新しく駄菓子を購入しないといけないし、古い駄菓子を処分する必要もある。
「さてと、さっさと着替えてダンジョンに行こう。今日はちょっと奥まで行ってみようかな?」
琴音は、ダンジョンを四方に200メートルずつ探索している。
まずは方角を確認して、200メートル先まで木を伐り倒す。
そして、その間を探索することで、入口の小屋のような建造物が無いか確認しているのだ。
瞬間着脱で着替えた琴音は、短刀を両手に持ち、ダンジョンに潜る。
「今日は…西に行ってみるか」
半径200メートルの範囲内は既に探索済みで、東西南北の内、西以外は50メートルほど拡張している。
今日は、まだ進んでいない西を探索するつもりのようだ。
「毒消しの準備は出来てるし、マスクも三枚ある。出来れば、途中で毒霧ゾーンは終わって欲しいところだけど…」
西に100メートルほど進んだ辺りから、深い霧が発生している。
そして、更に50メートルほど進むと、霧が毒を帯び始める。
結局、200メートル先まで毒霧のエリアは続いており、西側は一番探索に時間のかかるエリアとなっている。
琴音は走って30秒もかからずに、切られた木の道が終わっている所まで来た。
「マスクの効力が切れる前に、早く奥まで進まないと」
琴音の持ってきたマスクは、ただのマスクではない。
『浄化マスク』と呼ばれ、毒霧が漂うダンジョンで重宝される特別なマスクだ。
しかし、消耗品なので時間制限が存在する。
ここの毒霧は、このマスクで30分ほど持つ。
マスクは三枚あるので、合計90分探索が可能だ。
だが、実際は帰る時間も含めるので、最大で60分が限界だろう。
魔力を使って身体能力を施せば、行きの半分の時間で帰れるはずだ。
「高性能な物ならもっと長持ちするんだけど、結構高いんだよね〜」
琴音が使っているマスクも、十枚セットで五千円する。
かなり高価な買い物ではあるが、命には変えられないので、最低限は揃えておく。
もちろん、十枚使い切るまでに、毒霧の中で五千円分の魔石を集めないと、普通に赤字になる。
「…あれ?」
マスク付けてるはずなのに…
おかしい、この感覚は毒を吸ったときのもの。マスク越しに毒を吸ったってこと?
琴音は体に異変を感じ、その場から離れて、すぐに原因を特定しようとする。
マスクの状態を確認するが、これといった異常は見当たらない。
となると、毒に問題があるのだろう。
琴音は空間収納の中から空き瓶を取り出し、異常を感じたあたりの霧を回収する。
そして、近くの霧と見比べてみると、若干だが色が濃い事がわかった。
「これは…もしかして、このマスクじゃ防ぎきれない毒?」
これは、一番安いマスクだから、弱い毒しか完全に防ぐことが出来ない。
強い毒は、毒性を中和しきれず、マスクを貫通してくる。
困ったな、この毒を防ぐには、もう一つ上のマスクを買わないといけない。
でも、もう一つ上のマスクは、十枚セットで一万五千円もする。
今使ってるマスクの三倍…
「千夜に買ってもらうか?でも、怪しまれそうだし…仕方ない、自費で買うか」
まさか、こんなところで出費がかさむとは…
というか、この毒霧の中に建造物が無かったら、一万五千円分損した事になるんだけど…
霧の中にはろくなモンスターが居ないから、収入がしょっぱ過ぎるし、色々と探し回ってようやく見つかるから、効率が悪すぎて赤字でしかないんだよね。
霧の中は視界が悪く、モンスターを見つけるのも一苦労だ。
そのうえ、出現するモンスターも魔石がゴブリンと同じくらいの価値しか無いため、わざわざマスクを買って、視界の悪い中探し回らないといけない。
それなら、普通に他の場所で狩りをしたほうがよっぽど効率がいい。
「はぁ…絶対赤字だよ。霧の中のモンスターで、一万五千円も稼げるわけ無いじゃん」
琴音は、愚痴を垂れ流しながら、霧の無い方を目指す。
探索が出来ないのなら、他の場所に行くしかない。
丁度いい事に、明日は定休日だ。
西側の探索はまた明日に繰越になった。
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