第3話押入れの奥に…
「なに…これ…」
押入れの奥にあったものは、家具や布団等ではなく、ボロボロの部屋だった。
…部屋というよりは、森の中のログハウスという感じの部屋。
床には穴が空き、壁は少し歪んでいる。
天井は蜘蛛の巣だらけで、その蜘蛛の巣も埃にまみれている。
長い間、人の手が入らなかった証拠だ。
「昔の小屋?でも、外から見たとき、こんなの無かったはず…」
こんな部屋があるなんて聞いたことないし…
それに、前に来たときはこんなのなかった気が…ん?
ボロボロの部屋の真ん中に、白くて細長い物が落ちているのが見えた。
よく見てみると、ソレは白い封筒だった。
『神条 琴音様』
琴音は封筒を拾うと表に自分の名前が書かれていた。
封筒を裏返してみると、
『榊 和子』
裏には祖母の名前が書かれていた。
「これは…お婆ちゃんの字だ…」
琴音は封筒を開き、中身を取り出す。
中には予想通り手紙が入っており、筆で書いたような字体をしていた。
『 琴音へ
この手紙を貴女が読んでいるということは、ここを見つけたのでしょう。
ここは、まだ私と…貴女しか知らない、未登録ダンジョンです。
この小屋にあるものは、全て貴女のもの。
私には不要なものばかりです。
…主に、私では使えないという意味で。
かわいい孫をダンジョンに送るのはどうかと思ったけれど、琴音は強いからきっと大丈夫。
この事は、誰にも話さず秘密にしておいて下さい。
お婆ちゃんより』
どうやら、ここはダンジョンで、お婆ちゃんが私のために隠し続けてきてくれたらしい。
いつからあったのかは知らないけど、こんな危険なことをしてまで隠し通してきたダンジョン。
「ありがとう、お婆ちゃん。私はこのダンジョンを攻略して、お婆ちゃんの駄菓子屋を立て直すよ。そして、人生の勝ち組になる!!」
琴音が握りこぶしを突き上げた時、バキッ!という音と共に床が抜けた。
幸い、床下はそこまで深くなかったので、すぐに足を引き抜く事が出来た。
「…とりあえず、家の掃除が先だね」
琴音はダンジョンを出て、ふすまを閉めた。
◆
掃除を始めてから三時間後
「よし、こんな感じかな?」
ようやく、駄菓子屋含めて家の掃除が終わった。
元々そんなに広くない家とはいえ、全体を掃除するとなると時間がかかる。
「お父さんはもう帰ったし、行こうかな?」
琴音は、一切手を付けていない押入れへと目を向ける。
念の為、深呼吸をしてからふすまを開ける。
そして、ダンジョンへと一歩踏み出した。
「この小屋の物は好きに使っていいんだよね?」
琴音は、祖母の手紙を再確認すると、さっそく小屋を漁り始めた。
「ナイフ…と言うよりは短剣とか、短刀かな?ずいぶん切れ味良さそうだね〜」
にしても、黒と赤の短刀なんて、厨二心くすぐられるね。
さてと、お次はあのクローゼット!
絶対かっこいい服が入ってるに違いない!!
琴音は、足元に注意しながらクローゼットのそばまで来ると、遠慮なく開き、中身を調べる。
「黒装束…なんか忍者みたい」
いや、私は女だからクノイチか…
まあ、そこはどうでもいいとして、一回着替えてみよっ!?
琴音が、見つけた黒装束に着替えようと思ったその時、ちょっとした頭痛と共に、黒装束が消える。
そして、急に動きやすくなったように感じた。
「うん?…え?…あ、あれ?おかしいな、どうして黒装束と私の服が入れ替わって…入れ替わって?」
琴音は下を向いて、今の自分の衣装を確認する。
目をパチクリさせたあと、手に持っている自分の服を見て、もう一度下を向く。
「いや…は?」
なにこれ…夢?
掃除で疲れて、うちにダンジョンがあるなんて夢でも見てるのかな?
じゃなきゃ、急に着てる服が変わるなんてありえ…るのか。
ダンジョンで手に入る物の中には、所有者が使いたいと思ったら、何処からともなく現れて、手に収まるという物が沢山ある。
特に、高性能な防具は瞬時に着脱が可能で、アニメのような早着替えが出来たりする。
「着替えの手間が省けて嬉しいけど、瞬間着脱が出来る防具って事は、かなりのお宝なんじゃ…」
高価な装備を持っている人を狙った殺人事件が昔あったらしい。
もし、これがバレたら私も同じ目に遭うんじゃ…
か、隠さないと…
恐ろしい未来を想像して、震える琴音。
しかし、すぐに立ち直ってまた、クローゼットを漁り始める。
「バレなきゃ怖くないし?このダンジョンの事は、死んだお婆ちゃんと私しか知らないんだし?別に怖くないし」
…最後のは無理があったかな。
でも、誰かが聞いてるわけじゃないんだし?
ちょっとくらいカッコつけてもいいよね?
暴走族の総長の血を引いているだけあって、人一倍強がる性格の琴音。
強がりの性格は色々と役に立つが、災いを呼ぶことも多い。
この駄菓子屋を継ぐ時も、母親から反対され、お互い手を出す程の喧嘩になった程だ。
よく、喧嘩っ早いと言われる琴音だが、小動物好きという一面もあったりする。
…これも、母親譲りの個性だ。
「なにこれ?透明の仮面?」
黒装束の上に置かれていた透明の仮面を手に取る琴音。
試しに顔に近付けてみると、またまたちょっとした頭痛が走った。
「…もしかして、この頭痛って、コレとかの使い方が頭の中に入ってきた痛み?」
この仮面の使い方が分かるのも、それのおかげなのかな?
確かに、アニメとかでも頭の中に情報が入ってきた、痛がってるシーンとかあるけど…やっぱり、それか?
琴音は、瞬間着脱の方法や、仮面の使い方をいつの間にか覚えていた事に、少し困惑していたが、『情報が頭の中に入ってきた時の痛み』という仮説を立てて納得する。
「この仮面は後で使うとして、この説が正しいかどうか確かめないと」
琴音は、クローゼットの一番上の引き出しを引いて、中身を確認する。
そこには、糸巻きと銀色の糸があった。
その糸巻きを手にとって、糸をいじってみる。
すると、これまでにない痛みが、琴音を襲った。
「―ッ!?ああああああああああああああ!!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
琴音は頭を抱え込み、その場でのたうち回る。
しかし、頭が割れるような痛みは数秒で引き、まるで夢だったかのように、一切の痛みを感じなかった。
「ハァ…ハァ…やっぱり…私の説は…正しかったんだ…」
あの激痛の中で私の中に入ってきたのは、あの糸の情報と使い方。
これは、『
ミスリルは、ダンジョン大国日本でも産出量の少ない希少鉱石で、魔力伝導効率が桁違いに高い事で有名だ。
ミスリルの使い道としては、魔術師や魔剣士等の魔法を扱う人の武器によく使われていたり、これみたいに鋼糸にして、ドレスアーマーの材料として使われたりしてる。
「魔力を流して使う…さっきので魔力の使い方はわかるけど、私じゃ魔力が少なすぎる」
試しに魔力を流して鋼糸を振り回す。
すると、糸とは思えないような動きをして、壁を削り取る。
「なるほどね。魔力を使えばこんな事が出来るのか…もっと魔力を流せば、変幻自在に操れたりするのかな?」
流す魔力の量を増やしてみると、まるで、アニメの糸使いのような動きをし始めた。
これは使えるね。
この忍者…に近いけど、ちょっと違う黒装束と、仮面の力を使えば、厨二っぽさ満載の、暗殺者になれるかも。
「よし、試しにこの小屋の外でモンスターとたた…かっ…て…」
琴音が小屋のドアの方を向いたとき、強烈な目眩に襲われ、その場に倒れてしまった。
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