第5話 白兵戦の訓練と亜光速照射粒子結晶小銃
何故、対インベーダーのために白兵戦の訓練が必要なのだろう。
手元の小銃を磨きながらボーっと空眺める。
「あちぃ……なんだよ都市型迷彩ってただのリクルートスーツじゃねぇか」
「僕はシスター服です!」
「……は?」
そこにはシスター服を着たイグニスが居た。
修道女ならぬ修道男の娘。
俺はもっと天を仰いだ。
「アーメン……」
「あっ知ってますよそれ! ハレルヤ!」
「暗号じゃねーんだぞ」
俺は手元の小銃をイグニスに突きつける。もちろんセーフティがかかっている。
「そ、そんなに怒らなくても」
「だいたいなんだよこのオモチャみたいな銃は」
「亜光速照射粒子結晶銃です」
「なんて?」
「亜光速照射粒子結晶銃です」
あこうそくしょうしゃりょうしけっしょうじゅう。
いや意味が分からん。
何を亜光速で照射するんだ?
粒子なの? 結晶なの?
「ふざけてるの?」
「これもアードランド博士の発明で、超小型のインベーダーに対し非常に有効であると――」
「ああもういい分かった分かった。さっさと訓練始めよう」
しかし一番ふざけているのはイグニスの都市型迷彩だと気づくのは「じゃあ先に演習場に行ってますね!」と駆け出した後ろ姿を見た時だった。
「うさ耳フード……だと!?」
なにもかもふざけていた。
というか生足だし。
「小銃持った修道女さんがいるのか?」
あまり都市での暮らしの経験がないイルクには不思議で仕方なかった。
演習場に入る。
すると緑の光でスキャンされる。
「コードスキャン、イルク上等兵、承認」
上等兵……そんなに下の階級だったのか。
大佐くらいだと思ってた……というのは流石に冗談だが。
亜光速以下略小銃を構え、仮想敵を探す。
今回はクラゲ型インベーダー。
体長約二メートル。
しかし疑似都市と化した演習場の中ではその姿を捉える事が出来ない。
「どこにいやがる……おいイグニス」
『はい?』
通信をする。幸いな事にインベーダーには通信傍受なんて技能は備わっていない。
「お前、今どこにいるんだ?」
『一番高いところですね』
「は?」
疑似都市にある建造物の中でも一際高い物の上に目を向けるそこにはこちらへ手を振るイグニスの姿が。まるで後光が射して天使かのよう……。
「いやじゃなくてお前後ろ――!?」
『はい? うしろ――』
そこにはクラゲ型インベーダーが居た。
俺はとっさに亜光速小銃を構え、撃った。
それはイグニスの脇を通り過ぎて見事クラゲ型インベーダーにヒットした。
四角いホログラムに変わり消えるインベーダー。
『は、うわっ』
「バカ野郎! 周囲警戒を怠るな!」
『ごめんなさい!』
なんで俺が説教をしなきゃならんのだ。
俺は自分で言った事を守るために周囲警戒を再開する。
クラゲ型インベーダーのダミーホログラムは計三体放たれている。
残り二体。
路地に入ったその時だった。
目の前に一匹!
チャンスだと思い小銃を構えるが、しかし。
『イルク! 上です!』
「ッ!?」
上空からの強襲。おそらく路地の壁に張り付いていた。
上の一匹を迎撃する。
それには成功するが目の前のもう一匹に気づかれる。
隙を突かれる。
もうダメかと思った時。
「借りは返します!」
上空からパラシュートで降下してきたイグニスが小銃を照射、クラゲ型インベーダーを消し去る。
そのまま地に降り立ち、こちらにVサインを送りながらパラシュートの落下傘に包まれていくイグニス。
布の塊から顔をプハッ! と出すとニコりと笑って。
「僕たち良いコンビかもしれませんね!」
と言われたので俺は。
「それだけは絶対にねぇ」
とだけ返した。
素直に礼を言うのが気恥ずかしかったから。
洋上戦機アクエリアス 亜未田久志 @abky-6102
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