作戦が開始されてから三時間と少し経った頃、クンミは煙でよどんだ暗い空を見上げていた。目蓋まぶたは依然として重かったが、しきりに鳴り響く銃弾の音に耐え切れなくなり、身体をゆっくりと起こした。

 クンミは闘技場の近くの縁石に寝転がっていたようで、身体を起こし遠くを見据えると、セツナが召喚したのであろうシヴァとイフリートが、十数機のコロッサスを相手にしているようだった。クンミはしばらく考え込むと、ある結論に至った。


「どうやら、奴との戦闘はお預けらしいな」


 クンミはコロッサスを見捨てると、ひるがえって闘技場に駆け抜けていった。

 広場を覆い尽くす敵の数から見るに、セツナは投入された大型兵器がすべて集結したものと考えていた。朱雀クリスタルは「戦うべきではない」とセツナに意思を伝えていたが、ここで逃げようものなら自らが殺されてしまう。それは当然避けなければいけなかった。

 しかし、ここでルシが戦えばパルスの望む「育んだ魂が不可視世界の扉を開ける」ことに少なからず悪影響を与えてしまう。それはクリスタルとて本意ではなかった。

 すると、魔導院の扉から二人のアギト候補生が出てくるのが目に入った。水色のマントと、赤色のマントを羽織っているのが確認できる。しかし、候補生は戦場に投入されるはずはないのだが――。


「な、なんだこの機械の山は……くっ」


「マキナ! 見てっ、あれセツナ卿じゃないかな!」


 武器を携行しているのを見るに、好奇心で魔導院から飛び出したわけではなさそうだ。それに、アカシャの書に出てくる二人組に相応しいと、セツナは予見した。二人はセツナに近付くと、「俺たちはなにをしたらいい!」と闘争心を剥き出しにした。


「汝、闘技場に住まう虎を追い払え」


 セツナは二人の候補生に手短に要件を伝えると、さらに火力を増して敵を迎撃しはじめた。そこには、二人が通るには十分な道ができあがっていた。

 二人の候補生はお互い頷き合うと、ボルトレイピアと双剣のダガーを携えて、白虎兵の血で赤く染まった道を駆け抜けるように走っていった──。


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魔導院解放作戦 序章 祐希ケイト @yuuki_cater

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