愛する人。
でずな
シエ様は愛をささやく
私が仕えている主様、シエ様はこの世の誰よりも優れたお方です。
貴族の中でも人望に溢れ、幅広い知識を持ち合わせ、どんなときでも冷静かつ効率的に動く女性。
そんなシエ様に仕えるメイドは私一人。
少し前まで広いお屋敷で、多くのメイドがいましたが私一人になりました。
何をするにも私とシエ様。二人でご飯を食べたり、お風呂に入ったり、ベットで寝たり。一介のメイドの立場で、ここまで良くして頂けるのは理由があります。
……それは、シエ様が私のことを好きだということ。
この一つの理由です。
いきなり「どうやら私は貴方のことが大好きみたい」と、赤みがかった顔で言われたときはなにかのイタズラかと勘違いしていました。
主であるシエ様から「大好き」と、これほど主から言われて嬉しい言葉はありません。ですが私は、好きという言葉を別の意味で捉えていました。一人の女性として恋をしている、というのではなくメイドとして優れていて好きだと。
好と伝えられ、それが一人の女性としての好きということだったということがわかったのはそう遅くなかった。
それから色々あり、私は上手くメイドとして立ち回っていると思う。
「紅茶です」
「あら、ありがとう。流石私のメイド……いえ、私の愛する人。ちょうど飲みたいときに準備してくれて助かるわ」
「いえいえ」
ティーカップに紅茶を入れ、少し下がる。
シエ様は、私がメイドとして接しているのがわかっていて愛する人だなんてキザなセリフを言っている。
夜ご飯のときだって……。
「もしかして、これほどの料理全て一人で作ったのかしら?」
「はい。もちろんでございます」
「そうだったの……。いえ、別に二人でも食べ切れる量じゃないだとか、そんなこと思ってないわよ」
「申し訳ございません。少し作りすぎてしまいました」
「何をあなたが謝ってるのよ。愛するあなたが私が食べると思いながら、丹精込めて作ってくれた料理。もちろん全て美味しくいただきますとも!」
シエ様はどこにそんな量お腹に入っているの? と聞きたくなるほど、いつもの倍の量をペロリと食べてしまった。
いつもいつもシエ様は私のミスをフォローしてくださったり、私の好きな所を言ってくださる。
普段の扱いで本当に愛してくださってるのはすごく身にしみています。
私もシエ様のことが好きかと言われたら好き。
もっとも、その好きが愛する好きかは自分でもわからないが。
体を流し、今日も一日が終わる。
空は月に星々。
ベットの上にはパジャマ姿のシエ様。
愛する人など、そういうことは言われても動揺しません。ですがこれだけは、毎日しているのに、メイドなのに、動揺が隠しきれません。
「ほらおいで?」
シエ様は両腕を広げ、微笑みました。
これはシエ様がご自身で作った一日のご褒美。
内容はなんと、寝る前に私が抱きつくといものです。
「は、い」
ギュッと腕を広げ、抱きました。
お互いの胸があたって完全には密着できていません。ですが、シエ様のドキドキしているリアルな鼓動が体全体に伝わってきます。
最初は果たしてこんなものが一日のご褒美になるかと、疑問に思いましたが……。
「んふふ。へへ」
普段あまり笑顔を見せないシエ様の綻んだ顔と、とろけた声を聞いたらそんな不安全て吹き飛びました。
お互いの体をまさぐるように抱きしめ、シエ様は満足して体を離しました。
「それじゃあ寝ようかな……」
乱れた服を整えていると、シエ様はこちらを見ながら眠そうに目をこすって、横になられました。
ぱふぱふと一人分の空間が空いた隣を叩いていています。抱きしめ合うのも緊張しますが、これが一番慣れてません。
「はい。ではお隣、失礼します」
ササッと隣に横になりました。
緊張している私とは真逆に、シエ様はお疲れなのかすぐ眠りについてしまいました。
どうしましょう?
いつも緊張して、シエ様のことを考えていて中々寝付けません。
「むにゃむにゃ……。私の愛する……」
「ゅ!?」
突然シエ様は私の体に抱きついてきました。
抱き枕と勘違いしているのでしょうか?
シエ様の甘い好きな匂いが、鼻に直に伝わってきてくらくらしちゃいます。
この日はずっと抱きつかれながら、体を擦り付けられて全く眠れなかったです……。
「あら。あなたにこんな隈ができるなんて珍しいわね」
「シエ様のせいです……」
「え! 私?」
やはりシエ様は寝ていたので、昨晩のことは覚えていないようです。
無意識に愛をささやきながら、普段起きている時に絶対しない、あんなことやこんなことをされたのは私だけの秘密です。
「ふふ」
「ちょっと。なんで笑ってるのよ」
「さぁ。なんででしょうかね?」
「む。教えなさいよ! 私はあなたの主なのよ」
「嫌でーす」
愛する人。 でずな @Dezuna
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