家族になるらしい人たちと会う話
母親に連れられ、最寄り駅前まで行く。母親が駆け寄った先にいたのは、優しそうな眼鏡をかけた父親になるであろう男性と、僕より少し背の高い兄になるであろう男性。
正直、顔合わせとは言ったものの、どう接していいかもわからないまま今日を迎えてしまった。たどたどしく挨拶をした僕をずっと二人は見ていた。
「君が光くんか。初めまして、俺、眞一郎って言います。よろしくね」
「あっ……よろしくお願いします」
眞一郎と名乗った僕の兄さんになる人。今、大学二年生で、教育学部で教員になるために勉強しているらしい。高校の数学の教員になりたいんだとか。
「急に兄だと思わなくていいから、少しずつ家族だと思ってくれると嬉しいな」
「……よろしくお願いします」
「よろしくね。あぁ、そうそう。野球、好きなんだっけ? 俺もなんだ!」
事前に母を経由して好きなものを聞いていたらしい兄は、僕が野球好きだということふと、思い出したらしい。こちらも母を経由して、兄が元々野球部であったことを聞いていた。少しでも共通の話題があるのなら、よかったなんて思っていた。
「兄ちゃんは、野球部だったんだっけ?」
慣れないながらも、勇気を振り絞りだして口にした『兄ちゃん』呼び。高校三年生になって、こんなことで恥じている自分が少し馬鹿馬鹿しいけれど、まだ家族になるという実感が湧いていない僕には、あまりにも大きすぎる壁だった。
チラリ、と兄の方を見れば、まるで咲いた向日葵のように眩しい笑顔を浮かべていた。よっぽど兄呼びが嬉しかったのだろうか……なんて思った。
「俺は、中高野球部で、ピッチャーやってた。大学の野球サークルでも、一応」
「そうなの? 僕、引退まではキャッチャーだったよ!」
母は野球に詳しくないし、僕の親友には野球部はいなかったから、野球の話ができることに嬉しさを覚えた。急に話に食いついた僕の姿を見て、兄はまたあの向日葵みたいな眩しい笑顔で笑った。
「あら、もう意気投合した感じかしら?」
「……光くん、これからよろしく頼むね」
そんな僕たちの様子を見て、母も笑っていた。母の笑顔を見たのは、何年ぶりだろう。いつも、仕事で忙しかった母と、出かけることすら、久しぶりだというのに。
僕たちが仲良くなった様子を見て、安心した母さんたちは、今日、手続きをすることを決めたらしい。時間を持て余すことになった僕たちは、近くのファミレスで時間を潰すことにした。
初恋は、義理の兄でした @Saya_210
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