「3年日記」
くろゆり
第1話 日記はじめました。
今年で24歳の私は日記をはじめました。
実家を出て一人暮らしを初めた、
どうせなら思い出に残したいと本屋でおしゃれな黒色の日記を買った。
Three Years Diary税込3300円、引っ越しとか出費がかさんでいたけれど、3年使えるし毎日書くんだからと思い奮発した。
この日記が紡いでいく時間は私にとってかけがえのないものだった。
毎朝5時に起きて前の日を振り返って日記を書く、
大抵の人は寝る前に書くのだと言う、でも私は朝に書いた。
早起きして浴びる窓から差し込む陽の光が好きだったから、
朝陽を浴びながら日記を書くと心がリラックスした。
1日目、今日は引っ越し初日だった。
まだ部屋は片付いていないので、週末の休みまでには綺麗にしたいな。
引っ越した場所は都心から離れた田舎のアパートだ。
1LDK、一人暮らしをするには十分な広さで朝陽が綺麗に見える場所だったので即決した。
実家から仕事に行くよりは少し不便になったが、満足していた。
そんな穏やかな日常は1年を過ぎた頃に変化した。
家の裏に見える井戸、
普段は蓋で塞がれているはずだったのが台風が過ぎた時に飛んだのだろう、開いていたのだ。
ちょっと怖かったけど、人間はどうしても気になったことが頭から離れなくなる。
中を見たい。
そう思ってからは井戸のことばかりを考えてしまう様になってしまった。
朝日記を書いた後、いつものように朝陽を浴びながら窓の外を見ていた。
外に見える井戸に、とうとう我慢出来なくなった私はとうとう中を覗きに家を出た。
井戸の底は真っ暗だった、よく目を凝らすと、壁にはお札が貼ってあり鳥居のようなものが真ん中に見えた。
もっと見えないかと、じーっと覗いていると底からとても冷たい風が吹き上げてきた。
私は思わず仰け反って、怖くなったので家に急いで戻った。
それから3日後、井戸の蓋は塞がれた。
その日から少しずつ私の家の中に異変を感じるようになった。
夜中に物音がしたり、物の位置が少しずつ変わっていたり。
霊的なものは苦手な方ではなかったが、少しずつ大きくなる変化に恐怖を感じていた。
それから半年が経ち、怪奇現象のようなものは減っていった。
このまま無くなれば、もとの日常に戻れるはずなのに不思議と寂しさを感じていた。
死者に会うためにはいくつか条件がある。
出会いやすい環境である事、
死者がその場所もしくは人に対しての想いがあること、
見るものがそこに何かいると意識すること、
その条件を全て覆す方法が一つだけあった、、、
怪奇現象が完全に無くなってから3日目の夜
仕事終わりにふと気になって外を見ると、、
「開いてる、どうして、、?」
井戸の蓋が開いていた。
不自然に思い井戸を見に外へ出た。
「塞がってる」
近くに行くと井戸はしっかりと蓋がしてあった。
「疲れてたのかな」
部屋に戻り、私は休んだ。
翌朝
「変な夢見たな」
私は見た夢を日記に書いた。
500日目、夢を見た。
ある男に人が夢に出てきた。
苦しそうにしていた、悲しそうにしていた、私は彼に手を伸ばした、
手が届きそうなタイミングで目が覚めた。
なんだったのかな。
それから同じ夢が12日間続いた。
届きそうで届かない、ずっとその繰り返し。
512日目 とうとう手が届いた。
助けられた彼は嬉しそうに笑いながら私に向かって笑顔でお礼を言った。
513日目 AM5:00目覚めた私は彼に出会った、、、
「えっ?」
「手を取ってくれてありがとう」
そこには紛れもなく夢で見た彼が居た。
「夢?じゃないよね」
「違うよ、ここはちゃんと現実」
「ねぇ、俺と付き合って」
彼は唐突に言った。
彼がどうしてここに居るのかも、何を言っているのかも全部理解するのに5分はかかっただろうか。
「いいよ」
無意識に私はOKを出していた。
「あれ、今私なんて」
「ありがとう!これからよろしくね!!」
彼は満面の笑みを浮かべながら歩み寄り私を抱きしめた。
それからの月日は早かった。
毎日のように彼が家事をこなし、私が仕事から帰るとおかえりと笑顔で言ってくれる。
そんな幸せな日々が続いた。
半年が経ち日課になっている日記を振り返ると、忘れかけていた彼との出会いが書いてあった。
「おかしい、、」
彼と居るのは幸せだ、不満も何もない。
出来る事ならこのままの生活を続けられたらと思う。
しかし、不可解な事が多すぎる。
出会う前に見た夢、初めて会ったのが自宅の部屋の中だった事、いきなり付き合おうって言われた時に無意識に返事をしてしまった事。
そのどれもが普通ではない。
怖くなった私は起きてきた彼に聞いた。
「貴方はどこから来たの?」
私が聞くと彼は少し寂しげな顔をした。
「君が見つけ出してくれたんだよ。」
彼は答えた。
「どう言う意味?」
「外に見える井戸、あそこに僕は居たんだ」
理解したようで理解しきれなかった。
彼が言うには、50年前にあった災害に巻き込まれて死んだという。その災害時に井戸がずれ、誰にも発見されなかったそうだ。ずれる前の井戸の位置が私の部屋の丁度真上にあったので彼は私の部屋に来ることが出来たそうだ。
そして夢で彼を知った私にも見えるようになったのだと説明してくれた。
意識していなかったが彼はこの部屋を一度も出ていない。
いや、最初から出れなかったのだ。
気付くのが遅かった。
私は死者である彼を本気で好きになっていた。
この部屋で会えるなら、私は彼と居られるなら死者でも構わない。
私は死者と恋をする、たったそれだけのことだから。
幸せな日常、彼との日常、旅行にも散歩にも行けない彼と私の家の中の世界。
過ぎゆく時間は一瞬だった。
1095日目、日記をつけるのが習慣になり付け始めてからもうすぐ3年間が経つ。
「そろそろ買いに行かなきゃ」
私は本屋で同じ日記がないかと探したが3年も経っている所為だろうか、全く同じものは見つからなかったので、1番近い物を買った。
日記を買って満足したので、家に帰ると彼が作った豪華な食事が用意されていた。
「今日って何かあった?」
私が彼に聞くと、
「特にないよ、食材が余ってたから使い切ろうと思って」
「そっか!」
少し違和感を覚えたが、気にしないことにした。
ご飯を食べいつも通り寝ようとすると彼が少しだけ話したいと言った。
「ねぇ、最初に会った時のこと覚えてる?」
「もちろん、急に貴方が現れて付き合ってって言ったんだよ」
「そうだったね。君は俺と一緒に居て幸せ?」
「当たり前だよ。変なこと聞くね。」
「急にあんなこと言ったのに俺に付き合ってくれてありがと」
「今日の貴方は変だね」
「3年前の今日から君を見てたから」
やっとわかった、怪奇現象は彼が気づいて欲しくてやった物だと。
「やっぱり貴方だったんだ。」
「そうだよ。怖がらせてごめんね」
どうしても彼は私に伝えたかったのだろう。
3年間私達が一緒に居た事を、、
この後も思い出話をして、二人で眠りについた。
1096日目、AM5:00
いつも通り起きた私は部屋を見渡し違和感に気付いた。
「彼が居ない」
狭い部屋なので探さなくてもわかる。
彼の姿が見えない。
窓が開け放たれ強い風が吹くと同時に日記が落ちた。
恐る恐る拾い上げて最後のページを開くとまだ書いていないはずの今日の分の日記が書いてあった。
〜大好きな君へ
ずっと一緒に居たかった、でも死者がこれ以上生きている君と関わり続けることは出来ない。
君が歩んでいく人生の邪魔をするのは1番嫌だから
こんな形でお別れになってごめんなさい
死んでしまった僕の分まで幸せになってください
君を誰よりも愛した俺より〜
私は泣いた。
一日中泣いた。
このまま一緒に居たかった。
泣いた涙が日記にかかり表紙が濡れた時に文字が浮き上がってきた。
『貴女の人生を変える為の日記〜Magic Diary〜』
きっとこの出来事は私のこれからの人生を、良いものにも悪いものにも変えてしまう。
貴女が買った日記は、もしかしたら紛れ込んだ魔法の本かもしれません。
そんな日記を貴女も始めませんか?
朝 井戸 家の中の世界
「3年日記」 くろゆり @kuroyuri12
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