第48話 意外な一面

 僕とジュリーは店内を何往復も周り、注文をとりまくった。


ビーラ、ソーセージ盛り合わせ、スパイシーチキン、ソーセージ盛り合わせ、厚切り肉の塩焼き、ヴァイン、チーズ盛り合わせ、ダルムサラダ、スパイシーチキン、ビーラ、ビーラ、厚切り肉の塩焼き、ビーラ、厚切り肉の塩焼き、燻製卵、ビーラ、ヴァイン、シシケバブ、ヴァイン、ヴァイン、人参酒、ダルムサラダ、ビーラ、シシケバブ、ヴァイン、ケバブ、スパイシーチキン、ビーラ、ヴァイン、ダルムサラダ、ヴァイン、チーズ盛り合わせ、ビーラ、ケバブ、厚切り肉の塩焼き、スパイシーチキン、ビーラ、ビーラ、乳酒、ビーラ、ビーラ、ソーセージ盛り合わせ、厚切り肉の塩焼き、ダルムサラダ、チーズ盛り合わせ、ヴァイン、燻製卵、スパイシーチキン、ビーラ、人参酒、ヴァイン、ヴァイン、ヴァイン、ヴァイン、ビーラ、厚切り肉の塩焼き、スパイシーチキン、チーズ盛り合わせ、チーズ盛り合わせ、ヴァイン、ビーラ、ビーラ、ヴァイン、ヴァイン、ヴァイン、ヴァイン、ヴァイン、ビーラ、ビーラ、ビーラ、ヴァイン、ヴァイン、ヴァイン



 店内には人が溢れ、酒と料理、空いた硝子器グラスや食器たちが舞い踊る大盛況だ。

酔いつぶれる人も出てきたが、大抵の人は飲み慣れていて、酔った勢いで話しに花を咲かせたり、僕たちを眺めながらお酒を煽る。

ジュリーと一緒に店内を回ったが、意外にもジュリーは周りをよく見ており、ある程度セクハラの手をいなしたり、はたき落としていた。

てっきり不慣れでそういう対応は難しいと思っていたのだが。


 ペシッ!


 僕の背後で何かがはたき落とされた音がする。


「あなた!

うちのフィーリスのお尻を触ろうとしないでください!」


 どうやら、僕の方が守られているらしい。

ジュリーへ気を割いて、自分のことがお座なりになってしまっている。

ジュリーは自分と僕の両方を視野に入れているのに、なんだか情けなくなってくる。


 こういう時、女性の多才さに感服させられる。

ジュリーは街にお使いに出ることもあるタイプの従者だ。

おそらく、僕が気を揉む必要は最初からなかったのかもしれない。

あのプロポーションだ。

きっと普段から変な輩が手を伸ばしてきたりするのだろう。

無意識に察知して対処できるほどに、条件反射で動けるようになっていったのだろう。

そういえば、僕の旅装束と合わせた時、抱きとめたジュリーの背中に、キツめに巻かれた布の感触があった。

あれは、ジュリーのプロポーションの良さを抑えるためのものだったのかもしれない。


 ふと、耳に店の一角で話すお客の声が入ってきた。


「この街って知っての通り交易都市だろ?

交易するなら盗賊への対策は必須だ。

だから盗賊の活動が目立ってきたら、遠征討伐隊ってのが組まれるそうだ。

盗賊たちを討伐するために遠征に行き、捕らえたり、盗賊の活動を牽制するんだ。

一時的にはその遠征をしている間、盗賊騒ぎはおさまる。


だけど、このところ妙らしい」


「妙って何がだ?」


「討伐隊の遠征にはけっこうな資金が必要だから、有力貴族家に編成権が委ねられているらしい。

このところも盗賊の被害が活発に報告されていて、ある名高い貴族家のA卿の招集で数回、2、3回は遠征討伐隊を出してるらしい」


「A卿と言えば、名門中の名門だし、王族の血も引いているから、資金力は並の貴族とも違うんだ。


さぞ大規模な遠征だろう。

それなら盗賊の活動も減ってきたんじゃないか?」


「そこが妙なんだ。

盗賊を壊滅させたって噂はここのところ全く聞かないし、盗賊被害も減っていないらしい。

遠征討伐隊が空振りをするのはよくある事なんだけど、さすがに規模が規模だ。

奴らも死にたくはないだろうから、普通ならしばらく鳴りを潜めるだろうに」


「活動がおさまらない、か。

たしかに妙だな・・・」


「だろ?

絶対なにかあるって勘ぐりたくもなるってもんだ」


「ちょっとフィーリス!

何ボーっとしてるのよ?

今の注文、ちゃんと聞いてた?」


 気づくと、目の前には眉根を釣りあげたジュリーが腰に手を当てて立っている。

噂話に集中していて、注文を聴き逃したようだ。


「ごめん、ちょっと聞こえなかったかも・・・」


「ビーラ3本!

あれだけ大きな声なら絶対聞こえてたわよ」


「ごめんごめん、あははは・・・。

ちょっと疲れてきちゃったのかも。

ジュリーはまだ大丈夫?

マスターに休憩させてもらう?」


「ちょっとだけ疲れはあるけど、まだ大丈夫よ。

フィーロッ リスはだ、だいじょぶ?」


 口に手を当てて危うくフィーロと言いかけて慌てるジュリーを、少しだけジト目で見やる。

ジュリーも少し疲れているようだし、手記メモも取りたい。

ここは少しだけ休憩を入れさせてもらおう。

僕はジュリーに予め決めておいたアイコンタクトで着いてくるようにウィンクして、先程話しをしていた卓へ足を向ける。


「追加のお飲み物のご注文はございますか?」


「フィーリスちゃん。ありがとう!

ビーラ1つとヴァインの1番安いのをグラスで1杯くれないか?」


「かしこまりました。

ビーラとグラスヴァインを1つずつですね?


それから、この色紙に本日限定でジュリーと私の直筆サインを書いて差し上げられますが、いかが致しますか?」


「2人とも、直筆サインを書けるのかい?

それはぜひ貰いたいな。

直筆サインはいくらで買える?」


「あなたがたにだけ特別に、無料でお作りします」


 小声でかつ、少しだけ上目遣いで媚びながら言ってみた。

すると、1人が鼻息を荒らげて。


「ぜ、ぜひ、コイツと俺の分で、2枚頼みたい!」


「かしこまりました。

お二人のお名前を色紙に載せてもいいですか?」


「あぁ、俺はユーマリウス」

「お、俺は、ダグ!よ、よろしく頼むよ!」


「ありがとうございます。

お二人は護衛か何かをされているんですか?」


 腰の両側に剣を携えている。

十中八九、荒事に慣れた冒険者たちの風貌だ。


「そうだよ。

よくわかったね。

と言っても、よく聞く英雄譚のような格好のいいものじゃなく、商人の荷馬車を集団で守るだけだから、それほど腕利きって訳じゃないんだ。

実入りはそれなりだし、危険な仕事さ」


 このユーマリウスという人は、けっこうな話好きらしい。

お酒のせいもあると思うが、聞いてもいないことを語るほどに饒舌なのだから。


「そうなんですね。

では、ご注文と色紙をお作りいたしますので、お待ちください」


 ジュリーにアイコンタクトを送り、2人で合わせたお辞儀をして厨房へと下がる。


「ちょっと、フィーロ・・・フィーリス。


私、文字なんて書けないよ?

どうしてあんな事・・・」


 やはり疲れているのだろう。

厨房に戻るなり、ジュリーが頬を少し膨らませて僕に責めるような視線をよこす。


「大丈夫。

ジュリーの分も僕が書くから、それは問題ないよ」


 そう言いながら、むくれたジュリーの頭を撫でる。

頬の空気が抜けた。

かわいい妹のようで、少し心が和み、僕の口元も自然と緩む。


 ジュリーは何故かハッとしたように俯く。


「どうしたの、ジュリー?」


「な、なんでもない・・・です・・・なんでもない・・・なくは・・・・けど・・・・・・んん〜・・・・ゴニョニョ」


「?」


 ジュリーの様子が少し変だけど、色紙と手記メモを書かないと。

僕はジュリーの頭から手を離し、先程の噂のことを手記メモに素早く書き始める。


「あぁ・・・・・・・・でも・・・・・あぁ・・・・でもでも・・・・・・・・んんんんん〜・・・・・・・!」


 ジュリーが何か小声でぽそぽそと言っている。

少し気になるが手記メモに集中する。

アルバイトが終わったら、帰りの馬車で話を聞いてみよう。

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