ダーラムの様子
第20話 ドネットさんと街へ出る
目的地は北門前から続く大きな通りに面した一角だった。
馬車から荷物を下ろして背負いかけたところ、ドネットさんに「お持ちします」と横からひょいと荷物を持ち上げられた。
「あ、ドネットさん。僕の荷物ですよ?」
「フィーロ様、お荷物を持つのも私の役目。
私からお仕事を奪うおつもりですか?」
「い、いえ、でも重いのではないでしょうか」
「お屋敷のお使いに比べると、それほど重い荷物ではございませんから、ご安心ください。
私も少しは鍛えておりますからね。
良いウェイトトレーニングでございますよ」
「そうなんですね。
うぇいととれーにんぐ?
体を鍛えているのですね。細身の長身に見えるのに、力持ちなんてかっこいいです」
「お褒めに預かり光栄でございます」
ニコリと人好きのする笑顔で汗ひとつかかない姿を見ると、ドネットさんにとっては本当に全く重くないのかもしれない。
僕が背負うならギリギリ半日歩き続けられる程度の重さなのだから、軽く見積もっても15kg以上あるはずだ。
無駄のない洗練された立ち
露天場所に来ると、見取り図を元に露天範囲を確認した。
それから、ドネットさんに連れられて、周りの露天商たちにご挨拶に回った。
挨拶回りで他の露天を少し見て回れたので、価格的な相場感や客寄せの声掛けなど、ここでの商いの基本を学べた。
何人かの露天商からは試供品的な物を貰ったので、お返しに僕からも回復薬の少量サンプルをいくつかお渡しした。
「こんな貴重なもの、本当に貰っていいのかい?」
「ええ、僕が調合したものです。
お知り合いに譲っても構いませんし、ご自身でお使い頂いてももちろん結構ですが、販売や自分で作ったという広め方はご遠慮いただけると助かります」
「なるほど!
「すみません・・・僕は一応男なんです」
「あ、ごめん、ごめん。
てっきり女の子かと、これは失礼!」
「やはり、髪が長いからでしょうか?」
肩より少し長めの長髪の男性は、この街では珍しいようだし、なおかつ昨日整えたばかり髪型と朝の身支度でブラシをかけられたサラサラストレートは、背後から見れば女性と思われても差し支えないほど整っている。
「そうだねぇ。
たぶん髪の長さと声かねぇ。
それはそうと、坊ちゃんはいつからダーラムに?」
「そうですか。
率直に答えてくださり、ありがとうございます。
僕は昨日ダーラムに来ました。
今日から1カ月ほどはダーラムに滞在する予定です」
「そうか、1カ月だね、覚えとくよ。
うちの客で坊ちゃんの薬に興味がある奴がいたら紹介してもいいかい?」
「はい、ぜひともお願いします。
とても助かります!
僕はあそこのスペースで露天を出しますから、商い、お互いに繁盛すると良いですね!」
「おうよ!
うちはいっつも繁盛さ!
坊ちゃんも頑張りな!」
威勢のいい声音に後押しされてモチベーションが高まるのを感じた。
きっとあの人の所には人が集まる。
客寄せの苦手な僕なりに、旅の中で
周りに客寄せの上手い人がいれば、自然とその人のところに人が来て、その中で僕の商品を試して本当に買いたい人が僕の露天に立ち寄ってくれる。
そうした露天商同士の繋がりにはとても助けられたし、これからも大事にしていきたい。
ドネットさんの先導で、見渡す範囲の5分の4ほどの露天商を挨拶巡りしたが、どうやら持ち場の露天に戻るようだ。
ドネットさんに小声で尋ねてみた。
「ドネットさん、残りの露天商にはご挨拶に行かないのですか?」
「フィーロ様。先にお店の準備をしてしまいましょう」
不自然に会話を打ち切られてしまうことからも、少し訳アリの様子だ。
ここは大人しく従っておこう。
何かしらの理由があるのであれば、トラブルにならないように従っておくのが得策だ。
露天準備のため、敷物を広げ、陳列用の小さな台を用意した。
僕の露天の陳列は基本的にこれだけだ。
一人旅なので、行商隊のような大量の商品で人目を引いたり、豪華な装飾品も無い。
至ってシンプルで、
商いをすること自体は目的ではない事が
だけど、一つだけ目を引くものがある。
このタペストリーが僕の客寄せの最終兵器だ。
「フィーロ様、これは?」
ドネットさんが不思議そうに僕の露天の客寄せ道具をしげしげと見つめている。
「これは師匠に教えてもらった術を施した道具です」
物に定着させる種類の魔術で、視覚的にタペストリーに様々な情報を投影する。
ころころと情報を映し変えることができ、僕の場合は今並べている薬の効能などを次々と投影している。
師匠はこの魔術を
「フィーロ様のお師匠様からですか?
ということは、フィーロ様のお師匠様は魔法を使えるのでしょうか?」
「はい、一応、僕も少しなら・・・魔法が使えます。
この道具も、師匠に教わって自分で作ったものです」
僕は声をできるだけドネットさん以外に聞こえないように小声で打ち明けました。
「え!?
フィーロ様が!?魔法を使え厶・・・!」
大慌てで背伸びしながらドネットさんの口を塞ぐ。
「ドネットさん!
すみません・・・これはお屋敷の方以外にはできるだけ秘密にしたいので、あまり大きな声では・・・」
ドネットさんはうんうんと
手を離すと。
「申し訳ございません。
私の
この
ドネットさんは姿勢を正して
「いえ、ドネットさんは悪くありませんから、処遇もなにも、僕からは昨日も今日もこんなど一般人の僕なんかに丁寧に接してくださるだけで、十分ありがたいです」
「ご
フィーロ様のような方はただの一般人だなんて扱いは、私が許しませんので、何かご不快な思いをされた場合は、私やブルーベル近衛長、メイド長などに直ぐにお申し付けください。
私どもがきっちりとシメて差し上げます」
心なしか目が怖い。
「ドネットさんたちのお手を煩わせるようなことは、できるだけしないようにいたしますね」
「いえ、フィーロ様のお手を煩わせることもありませんね。
監視に見張らせておりますので、逐一報告は上がっているはずです」
今、サラッととんでもないことをおっしゃいました。
監視は街中でも継続なんですね。
それもそうか、一朝一夕で僕のような怪しい人物を監視も付けずに野放しにするはずもない。
行動には慎重にならないといけない。
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