第7話 小さな旅人は取り締まられる
翌朝。
「おい、いいかげん起きろ!」
小さな旅人は、
「おふぁようござぃます・・・しつれれながりゃ、どちらひゃまでございまひょうか」
あくび交じりに
「まぁ、なんだ。
一応名乗っておく。
私はダーラム
「こりぇは、ごていねいに、ありあとうございまあぁうひゅ」
あくびが止まらない。
お
寝袋で寝ていたはずなのに、いつの間にか
「あれ?え?なんだこれ?縄が」
「ようやく自分の置かれている状況に気づいたようだな。
しかし、盗人のお前は縛り上げられて当然だろう。
今からお前はダーラムで
罪状は、この森での不法採集だ」
やってしまった。
ただでさえ寝起きで
「えぇと、パスパルムさん・・・?
この森はダーラム交易都市国の保護区か何かなのですね・・・ごめんなさい。
昨日、いくつかの種類の薬草を許可なく採集してしまいました・・・」
「自分の犯した罪を正直に
さあ立て」
座り込んでいた旅人は、無理やり立たされて、縄で連行される。
なすがままに後をついていくしかない。
「荷物は
もっとも、盗んだものは戻ってくる保証がないがな、はっはっは」
「あぅ・・・」
おそらく彼の
パスパルムさんと、もう一人のダーラム街兵団のブリザさんに連れられて森を後にする。
手首と足首に縄が巻かれ縄の
先ほどまでは縄の先をパスパルムさんが握っていたが、ダーラムの街が近づいてきたところでブリザさんに交代した。
二人の兵士に
門の前に
立ち並んでいる人達からはどうやっても注目を集めてしまうし、どうみても
そこかしこでヒソヒソと
ここまで
門に近づくと、門の前には十人ほどの門番らしき人たちが立っており、せわしなくキャラバンの荷物を確認したり
パスパルムさんも書簡のようなものを荷物から取り出して街の門番の人と何やら話をしている。
門番の人も同じような服装をしていて、パスパルムさんと
隣で僕を監視し続けるブリザさんに疑問を尋ねてみた。
「すみません、ブリザさん。
ここってダーラムに入る門だと思うんですけど、街に入るには、皆さん書簡のようなものを門番さんに見せているようです。
いったい何の書簡をみせているんですか?」
「なんだお前、通行証を知らないのか?」
「通行証・・・僕、通行証なんて持ってないですよ?
そんな人を街に入れて大丈夫でしょうか?」
「そんなことを心配してどうするんだ?
これから牢に入る
「そうなんですね、通行証無しで街に入れるなんて、ちょっと得をした気分です。
でも・・・
「大人しく仲間の居場所や
なるべく早く本当のことを吐いてしまった方がお前のためになるさ」
「はぁ・・・」
特に組織立った犯行とかではないので、もちろん主犯は僕自身で、知っていることもそれほど多くない。
犯してしまった罪は罪なので、解放されるにはしっかりと
暗い牢屋で過ごすことになる
ついに僕も犯罪者の仲間入りとは・・・。
しっかり情報収集せずに森に勝手に入って、貴重な薬草を
軽い刑で済まされるとは限らない。
旅の途中で見たように、
「おい、お前。大丈夫か?
見るからに足が震えてるぞ。
まさか、俺たちの知らないところでとんでもない罪を犯してるんじゃないだろうな!?」
「え!?ぼ、僕、何をしてしまったんでしょうか?
薬草や菌類や木の実を少しと、小魚を一尾捕まえて食べてしまったことは、とんでもない罪になっちゃうでしょうか!?」
「その程度なら別に大した罪とは言えないな」
「ほ、本当ですか!?
よかった、いえ、よくはないですね。
ごめんなさい」
「はっはっは、お前、面白いやつだな」
ブリザさんはおかしなものでも見つけたようにけたけたと笑っている。
そこへパスパルムさんが戻ってきた。
「ブリザ
にしてもどうした?
任務中に大笑いとは、らしくないぞ」
「はっ!パスパルム一兵、申し訳ありません!
盗人の状況に異常ありません。
こいつが少し面白いことを言うもので、思わず笑ってしまいました」
「そうか。おい盗人。
お前、何を言ったんだ?」
パスパルムさんはいぶかし
「え、あの・・・通行証を持ってない話とか、薬草や木の実や菌類の採集と小魚一尾を捕まえたこととかがとんでもない罪になるかとか、ブリザさんに聞いてて」
「うむ?そうか。
まあいい、行くぞ。こっちだ」
パスパルムさんの後に続いて街へ入る。
街の中に入ると大通りは人であふれていた。
交易都市国家というだけあって、さまざまな品々が連なっている。
きっとこの通りで買い物をするだけで生涯、何でも手に入る。
お金さえあれば一生、物に困ることはないだろう。
「あのお店。
随分と薬の値段が高いのですね」
ふと目に飛び込んできた薬売りの露店。
その価格に驚いた。
旅人にも調合できる馴染みの薬が高値で取引されている。
しかも、何本かは売れている様子だ。
ブリザさんが僕の
「ん?どこの店だ?
不正に高値で取引されているようなら、俺たちダーラム兵団が見回りで
「あそこです、ブリザさん」
ブリザさんにも見えているお店を指差した。
「あそこの店か?
一瓶700大陸ダルク・・・特に普通の価格だと思うぞ?」
「えぇ!?700ダルクで普通なんですか!?」
「おいおい、この辺じゃ薬は高級品だぜ?
700ダルクならまだまだマシな方だ。
高い時は倍以上で1500ダルクの時もあるくらいだ」
「うゑ!!?」
思わず声が裏返ってしまった。
1500ダルクといえば、二つ前の町なら高級宿に一泊して夕・朝食を食べてもお釣りがくるような高値だ。
それほどこの街の物価が高くて、それを買える人達が集まっている証拠なのだろう。
軽く
いや、例えばこれから通る都市の物価がもっと高くなるなら、ギリギリくらいかもしれない。
想像しているよりも物価の変動が大きくてこの先の道のりで食べていけるのか不安になってきた。
普通に調合できる薬でこれほど高いということは、日常的に買っていたものも、きっととてつもなく高いだろう。
そう思うと、血の気が引いて目が回ってきた。
「おい、大丈夫か?
下向いてふらついてると危ねぇから、しっかり前を向いて歩け、少年!」
ブリザさんの
「は、はい、すみません!」
案外加減をしてくれてバシッという音に反して痛みほとんどない。
むしろ、絶妙な加減だったので、背筋が伸びた時に心地よくすら感じた。
「二人とも、何をもたもたしている!」
パスパルムさんが見かねて声をかけてきた。
こんなに人混みが
パスパルムさんは、きっとできる人なのだろう。
「はーい、今行きますー」
「お前、罪人なのに何でそんな
ブリザさんより先にパスパルムさんの元にたどり着いた僕に、ブリザさんが
「だって、お二方ともとても雰囲気が良くて、悪い予感がしなくて、ちょっと安心感すらあるんですもん」
「盗人に
ブリザ
明日からの訓練、普段より引きしめて挑もうか!」
「はっ!パスパルム一兵!
了解であります!」
二人のやり取りにニコニコとついて行く。
きっとこの隊の人達は冗談も言えるような温かい人達なんだ。
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