第6話 小さな旅人 森で収穫物を奪われる
すっかり日が落ちて、森の野営地後で
収穫した木の実と新鮮な小魚の並んだ
これまで書き
しばし時を忘れて植物たちをこねくり回していた。
次の研究対象をザルから取り出そうと手を伸ばしたが、先ほどまでザルを置いていた場所で旅人の手は
素早く立ち上がり、集中力を高めて小声で
「
【兎の耳を貸しておくれ】
耳が縦に長く伸びウサギの耳に変化した。
ウサギの耳は水平角度を細かく調整できるのでソナーのように、どこからどのような音が聞こえてくるか
耳をすませ、あたりを
その物音に注力して聞き分けると、何らかの
方向と距離的には、野営地跡のなかほどに何かがいるらしい。
「
【フクロウの目を貸しておくれ】
瞳が黒々として丸く大きくなり小型のフクロウの目に変化した。
光が少ない場所でもほとんどのものが視認できる優れた
焚火の光がまぶしいほどで、まぶたを細めて音のする暗がりを
その瞳に、
猪は研究用に採集した植物や薬として売り出そうとしていた薬草をモリモリと
その小柄な猪の姿に、一瞬気を
だが今ならまだ食べ始めたばかりだ。
猪の姿を
猪の方もザルに鼻先を突っ込み、もさもさと口を動かしながらも、こちらの
2メートルほどの近距離に来ると、猪の
もう少しでザルに手が届く。
手を
小さな旅人は
普通、このくらいの子供の猪のそばには母猪が寄り
今の声で母猪を呼ばれたので、周囲に
ウサギの耳とフクロウの目を
何かがおかしい。
子供猪が今のような
しかし、どういうわけか母猪の姿を全く
子供猪も困ったように荒い
「もしかして君。
お母さんとはぐれてしまったの?」
4、5分が過ぎ、さすがに全く周囲に変化が現れないことから、子供猪に向かって状況を尋ねてしまった。尋ねついでに子供猪をよく観察する。
体長は5、60センチメートル程。
おなかは空いているのだろう。
ヨダレがポトポトと地面に
若干
もしかすると数日間、十分な
なんだか薬草のことはどうでも良くなってきた。森には十分な量の薬草が生えているのだし、また採集すればいいのだ。
「こわくないよ」
なるべく穏やかに刺激しないように静かにそう
できるだけ視線を下げてゆっくりと子供猪に
子供猪の鼻息がピューピュウと鳴ったが、逃げることもできないくらいおびえているのかもしれない。
できる限り、ゆったりとした動きで子供猪の鼻先の下に手をかざしてにおいを
ひとしきり手のにおいを嗅いでも逃げ出さないところをみると、どうやら敵ではないと判断されたようだ。
子供猪は安心したのか、おなかが空き過ぎて我慢ができなかったのか、またザルに盛られた薬草を食べ始めた。
「おいしいかい?」
もぐもぐと
答えは見ての通りだ。食事の
よほどおなかが空いていたのだろう。
あっという間に食べ終わってしまった。
「それにしても君。
おそらくわかっていないだろうけど、一応忠告しておく。
たぶん、この子は幼いのでまだ火を
そのうち自然と近づかなくなる。
自然で生き
「君の好物は菌類なんだね」
食べる姿を間近で観察できたのでわかったことだが、真っ先に平らげたのが菌類だった。
猪などの雑食動物は、鼻がとても発達していて他の動物よりも好物のにおいに
菌類の種類によっては
この森では猪の好物が菌類であることがわかっただけで大収穫だ。
「もう食べ物はないから
母猪とはぐれていることは気がかりだが、旅人にはどうすることもできないし、どうにかしてあげること自体がこの子のためにはならない。
あまり触れ合っていても他の人が通った際にお互いの不利益となることもある。
干渉は最小限に留めるのにこしたことはない。
子供猪が立ち去るところを見送って、研究材料も無くなってしまったので、今日のところは片付けをして眠ることにする。
川辺で研究に使った道具を洗い、顔や体を洗い、歯磨きをして焚火に戻る。
集中力を持続させないと発動し続けられない
疲れは完全に抜けることはなかったが、
あとはもっと多く採集して、最適な調合方法を
寝床を用意して
体が十分に温まったので寝袋にもぐりこむ。ほどなく旅人は深い眠りに落ちていった。
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