会話劇 社会学さんにインタビューしてみた!その2

前回(その1)https://kakuyomu.jp/works/16817139557046494092/episodes/16817330649780648996


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紫「みなさま、ごきげんよう。『笑わない社会学』の時間がやってまいりました。今日のテーマは、前回に続き『社会学の生みの親、オーギュスト・コント』です」


社「ちょっと紫月さん! 日本放送○会からクレームが来ても知りませんよ?!」


紫「え? 社会学もああいうコンテンツがあったらいいな〜って……ナビゲーターにはオズワルドの伊藤さんとかいいんじゃないかなって思うんですよね。こう、うまいことツッコんだり、まとめてくれたりしそうじゃないですか」


社「やっとまともに話ができると思ったのに……優良なコンテンツをつくりたいなら、ふざけてばかりいないで、ちゃんと真面目にやった方がいいと思いますよ。社会学、好きなんでしょ? 社会学の面白さを皆さんに伝えたいんですよね?」


紫「うぐっ! そう言われると真面目にやるしかないじゃないですか……分かりましたよぅ。やればいいんでしょ、やれば。(数秒、目を瞑る)――――では、前回の内容を踏まえての確認なんですが、コントさんの関心は、革命を経て無秩序化が進むフランス社会を再組織化することにあったんですよね?」


社「おおっ! やればできるじゃないですか! ええ、そのとおりです」


紫「コントが生きた当時のフランスといえば、フランス革命後の混乱期であり、また産業革命の初期段階にありましたよね。いわば、コントは急速な社会変動を目の当たりにしていたと言えます」


社「うんうん、そうなんですよ」


紫「急激に変わりゆく社会の新しい秩序を求めて、コントは社会についての『法則』を見出そうと試みたんですよね。そこでコントが重視したのが『観察』だったとか?」


社「はい。これまでのやり方――想像や理性によって物事を説明するのは不十分であると考えたんです。観察できる事実を伴わせて実証することで客観的に説明可能な『法則』を見つけて、新しい社会秩序のために何をするべきか『予見』することができると考えたわけです」


紫「要約すると、革命により荒廃した社会秩序を回復する方法を探っていたコントは、科学を用いて実証的に社会を考察しようとした。そして、新しい時代に求められる実証的な科学として打ち出したのが『社会学』であったと」


社「はい、そのとお――ん?」


紫「どうしました?」


社「いや、なんというか、立場が逆転しているっていうか、主導権を奪われている感じがするような……この企画、紫月さんが僕にインタビューするんですよね?」


紫「あーもう、真面目にやれって言うから頑張ったのに。めんどくさい人だなぁ。あ、この場合人じゃなくて学問かな?」


社「あなたにめんどくさいとか言われたくありませんよ! 僕がいなくても説明できるなら呼ばないでくださいよぅ。いいんですよ、どうせ僕は今ひとつ人気が出ないっていうか、結局何してるかようわからんって言われるんですよね(涙)科学としてはあんまりイメージがよくないみたいですし……僕はちゃんとしてるのに、勝手にいいように利用されて誤解されてるだけなのに……(いじいじ)」


紫「あー、はいはい。ごめんなさいね、詳細については社会学さんにお願いするつもりだったんですよ。私ではちゃんと説明できませんから。社会学さんの力が必要なんです!」


社「え? そうなんです? も〜早く言ってくださいよ! そっかぁ、僕がいないとダメかぁ……ふふっ。これはもう、哲学さんや数学さんのように、人気者になれる日もそう遠くないかもだなぁ(嬉)」


紫(立ち直り早いな……ってか情緒不安定すぎない? 大丈夫なの?)


社「では、大まかなところについては紫月さんが説明してくださったので、ここからは僕が、より詳細な内容についてお話させていただきます。

 まずですね、僕の父――コントの業績を語る上で外せない人物がいます。それは、著述家のサン=シモン(1760−1825)です」


紫「1760年生まれ……コントとは40近く歳が離れてますね。どういう関係だったんですか?」


社「秘書を募集していたサン=シモンのもとで、コントが助手を務めるようになったんです。1817年から1824年の話ですね。サン=シモンは伯爵位をもつ貴族出身だったんですが、革命後は零落しており、経済的に困窮していたのでコントは俸給を辞退して彼に仕えていたんです」


紫「無給で働いてたの?! それはすごい……。そうだ、どうしてサン=シモンがコントを語る上で外せない人物なんですか? 無給で仕えたいくらい、コントにとってサン=シモンが魅力的だったから?」


社「まぁそうとも言えるかもしれませんね。コントはサン=シモンから多大な影響を受けていますから。コントが提唱した実証哲学……つまり実証主義は、すでにサン=シモンが唱えていたんですよ。コントの主要な思想のほとんどは、サン=シモンの著述の中にあるとの指摘もあるくらいなんです。ただ、実証哲学をひとつの学問として体系化したのはコントでした。その過程や言葉の意味については、のちほど詳しくお話ししますのでご安心ください。そうそう、ちなみに父――コントは、考え方の違いから喧嘩別れのようなかたちでサン=シモンから独立しているんですよ」


紫「ああ〜いわゆる“方向性の違い”ってやつですね。どこにでもあるんですねぇ」


社「僕が言うのもなんですが、両者とも個性が強かったんでしょう。まぁ何かを提唱したり新しい学問を立ち上げようとするような人は強烈な個性があるくらいでちょうどいいのかもしれませんね。

 さて、コントの理論的立場にサン=シモンという人物の影響があったという点を念頭に起きつつ、いよいよコントが考えたことについて確認していきましょうか」


紫「お願いします!」


社「では、1822年……コントが24歳のときに記した『社会組織に必要な科学的作業のプラン』――通称『プラン』について見てみましょう。

 コントは『プラン』の序論で、次のように述べています。

〝現代〟の基本的な性格として、〝組織破壊の動き〟と〝組織再建の動き〟がある。この〝性質の違った二つの動きが今日の社会を動揺させている〟と」


紫「ほうほう(24歳かぁ……難しいこと考えてたんだな〜コント。そんなこと考えようだなんて発想自体私にはないわぁ〜)」


社「コントは『プラン』で社会の解体と再組織について論じているのですが、解体していく旧い組織――すなわち旧秩序をコントは『封建的・神学的組織』と呼びました。この、旧秩序がフランス革命によって破壊されたといいます。ところが、フランス革命は、社会を解体する原理であったけれど、再組織の原理ではなかった。フランス革命によりもたらされた無政府状態を解消すべく、社会を再組織をしなければならない――というのがコントの主張です」


紫「なるほど。じゃあ、社会を再組織するためにはどうすべきだとコントは考えたんですか?」


社「よくぞ聞いてくださいました。コントによると、社会の再組織には、理論的・精神的側面と、実践的・世俗的側面があるとのことで、彼はとりわけ前者を重視しました」


紫「なんで?」


社「コントは精神のあり方が重要だと考えていたのです。なぜなら、これまでの社会再組織がうまくいかなかったのは、人々が世俗的権力の改造にばかり注目して、その前提となる精神的な再組織が欠けていたからだと。したがって、取り組むべきは、新しい社会秩序の精神の確立と、この精神に沿った思想体系の構築を実行することであると主張したんですね」


紫「ほぉ〜、で、具体的には誰が新しい組織……いわば、新しい秩序の担い手になるんですか?」


社「精神的な側面は科学者が、そして世俗的な側面は産業者であるとコントは予想しました。つまり、新しい組織および秩序を形成するにあたって理論的な側面の指導を担うのが科学者で、現実の世俗的な活動を実践するのが産業者であると考えたわけです」


紫「精神のあり方を重視したコントが、精神的側面の担い手として科学者を選んだのは興味深いですね。科学者にめちゃめちゃ期待してる感が出てるというか」


社「はい。コントは理論……すなわち、理論的知識を重視していたんですよ。社会の組織も理論的な知識が求められる、ということですね。コントが理論的知識を重視している点は『プラン』で示された『三段階の法則』にもよく現れています」


紫「出た! 三段階の法則! 高校の倫理にも出てきますよね。あんまりちゃんと聞いてなかったんでほとんど覚えてないですけど(っていうかほぼすべての科目をあんまりちゃんと聞いてなかったなぁ)」


社「もう……(呆れ)。今回はしっかり聞いてくださいよ。

 『三段階の法則』は、人間の精神・知識が『神学的→形而上学的→実証的』の三段階を経て発展するというものです。『三段階の法則』というように、父はこの三段階を経ることが人間の精神発達の歴史的な法則だと考えたようですね」


紫「ああ〜、神学的とか形而上学的とか、なんかそんな言葉が出てきたような気がしてきました。でも抽象的でどういうことを言っているのかわかりにくいんですよねぇ」


社「大丈夫です。ちゃんと噛み砕いて説明しますからね。

 神学的とは、虚構の段階、と考えてください。観察された事実や諸現象を神――つまり、空想や想像によって説明するんです。宗教や神話が力を持っている段階ですね」


紫「なるほど! それならわかります。えっと……第二の、けーじじょうがくてき段階ってなんですか?」


社「(アホの子丸出しだな……)第二段階は抽象の段階、と言われています。神を持ち出して説明することはやめて、人間の抽象的な思考や理性の直感によって説明しようとする思考パターンです」


紫「へぇ〜……で、ケージジョウガクってそもそもなんのことを言っているんですか?」


社「形而上学というのは、本来アリストテレスの第一哲学を指す言葉なんですよ。存在の根本原因を探究する哲学のことを、形而上学と呼ぶようになったんですが、要は哲学の一分野です」


紫「なんとなく分かってきました。抽象的な哲学理論で説明しようとする段階だ」


社「うんうん。コントは形而上学を、頭の中だけで考えた抽象的な推論に過ぎないと否定的な意味合いで捉えていたようです。

 改めて、形而上学的段階について説明すると、神学的な秩序を批判できるようにはなったんだけれども、独自の秩序は生み出せなかった。つまり、破壊はできても、再組織はできなかった、ということです」


紫「神学的段階に比べると、論理的に説明できるようにはなったけど、観察に基づいたものではなく頭で考えてるだけで、それが本当かどうかはわからないでしょって感じですね」


社「おお! 調子出てきましたね! ではここで問題です。さっき僕は、形而上学的段階が神学的な秩序を批判できるようになったけれど、独自の秩序は生み出せなかった――破壊はできても再組織はできなかった、と言いましたけど、これらを聞いて何かピンときませんか?」


紫「ええ〜? ちょっと待ってください、今調子いいんで、答えてみせますよ!」


[十二分経過]


紫「わかりました! フランス革命だ! 旧体制を破壊することには成功したけど、無政府状態を生み出したフランス革命!!(決まった……!!!)」


社「正解……ですけど、調子良くてそんなに時間かかります?! あーもう、ドヤ顔やめてください。むしろ律儀に待ってた僕を褒めて欲しいくらいですよ」


紫(ドヤァァァ)


社「はいはい、ドヤるのはそれくらいにしてください。

 コントがフランス革命を否定的に捉えていたということはすでにお話しましたよね。コントはフランス革命を支えていた啓蒙思想も批判していたんです」


紫「けーもーしそう?」


社「(マジでこいつ全然勉強してこなかったんだな)18世紀のヨーロッパで興った革新的な思想ですよ。中世の伝統的権威や旧来の思想――つまり、教会の権威や封建的な考えを批判して、理性を重視し合理主義の考えに基づいて人間や社会のあり方を考えようとしたんです。ほら、中学の歴史や公民で、ロック・ルソー・モンテスキューってやりませんでした?」 


紫「あ〜、はいはい。モンテスキューね。やりましたやりました」


社(本当に思い出したのかな……)


紫「あ、今本当に思い出したのかって顔しましたね! モンテは三権分立を唱えた人でしょ? ロックとルソーは社会契約説」


社「なぜモンテスキューだけ略したのかはさておき、そうです。

 話を戻しますと、啓蒙思想はフランス革命の精神的支柱だったわけですが、啓蒙主義のいう理性は形而上学的なフィクションに過ぎない、というのがコントの評価です。繰り返しになりますが、フランス革命――つまり、啓蒙思想は、旧体制(アンシャン・レジーム)を破壊することには成功しても、新しい社会を組織する原理にはなりえなかった。コントは、啓蒙思想から決別して、新しい思想体系を構想する必要があると考えたわけです」


紫「なるほど……形而上学的段階が、フランス革命や啓蒙思想と対応している感じですね」


社「そして、最後の実証的段階ですが――」


紫(ごくり……)



【つづく】

――――――――――

 参考文献は次回に掲載いたします🙇‍♂️

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