会話劇 社会学さんにインタビューしてみた!その1


ご覧くださりありがとうございます。

本編に連なるお話ではないのですが、社会学の起源について、本編ではカバーしきれない内容を書いておりますので、よろしければお楽しみいただけますと幸いです。


――――――――


インタビュアー:紫月

インタビュイー:社会学


イニシャル表記しようとしたら、何の因果(?)か双方「S」でややこしいので(社会学は英語で“Sociology”)、以下より漢字頭文字を使用することにします。


手探り感いっぱいのインタビュー、どうぞお楽しみください!


*****


紫「あっ、遠路はるばるご足労いただいちゃってすみません。今日はよろしくお願いします」


社「いえいえ、なんか僕のことをみなさんに紹介したいって話でしたっけ?」


紫「そうなんですよ、ご本人に喋ってもらったほうが信憑性あるかなって」


社「いやー、ちゃんと答えられるか心配ですけど(笑)。っていうか僕、これ擬人化しちゃってるテイですかね」


紫「そうですね。コミュニケーションとるならやっぱりヒトになってもらった方が色々都合が良さそうですし」


社「ご都合主義もここまでくると清々しいですねぇ。せっかくなら美形にしてもらって、さらに刀とか持つなんてどうでしょう? キャラソンとか出しちゃったり……人気出そうじゃないですか?! キャラクターボイスはどうします?」


紫「そういうのは求めてないんで間に合ってます」


社「(えええ、せっかく話を合わせたのに……)ところで今日はギャラって出るんです?」


紫「『出世払い』って人情っていうか、すごく温かみを感じるシステムですよねぇ……」


社「……(支払う気ないなコイツ)」


紫「そろそろ本題なんですけど、社会学さんのご出身はどちらなんですか?」


社「えーと、まぁ『社会学』っていう言葉を初めて用いた人を『生みの親』とするなら、その人はフランス生まれなんで、フランスになりますかね」


紫「あらやだっ! フランスなの? 早く言ってよ!! 薔薇ヴェ〜ルサ〜イユ〜♫ オースカール♪ 私、ベルばら好きなんですよぅ」


社「マジメにする気がないんなら帰りたいんですけど……」


紫「待って! だってさぁ、学問の起源とか正直あんまり興味もたれないでしょ? 実際私もそんなに興味ないし!!!」


社「いや、僕のことめっちゃ推してるって言ってませんでした?! 魅力がどうとか!!!」


紫「推してるのはホントですよ。面白いと思ってるし、みんなに知ってもらいたいのもホント。でも、私はそもそも社会学に興味があるからいいとして、大抵の人は『社会学? なにそれ、あ、ちょっと変わった風の人がコメンテーターしてたりするやつね』くらいの認識しかないと思うよ。そんな状況で大真面目に『社会学の起源は…』って言っても試験やるわけじゃないんだし読まないでしょ」


社「まぁ、そういうもんですかね」


紫「そうそう。そういうもんです。そんなことより、私、あなたの“生みの親”、知ってますよ。フランス生まれで、社会学という言葉を作ったその人は……ズバリ! オーギュスト・コントでしょ?(ドヤァ)」


社「はい。通説では、そうですね」


紫「……通説では?」


社「ええ。通説では、です。おそらく多くのテキストでは社会学という言葉を生み出したのはオーギュスト・コントである、と紹介されていると思うんですけど、実はコントより前に『社会学(sociologie)』を用いた人がいるんですよ」


紫「そうなの?! 推しに関する新情報……! 誰なんですか、それ?!」


社「近い近い近い! ちょっと落ち着いてください。

 えっとですね、エマニュエル=ジョゼフ・シエイエスといいます」


紫「???」


社「そのミスターポポみたいな顔やめてください。ご存じないんですね」


紫「えへへ」


社「ごまかさなくても知らないことは知らないで大丈夫ですよ。ちゃんと説明しますから。えっとですね、シエイエスは聖職者でかつフランスの革命指導者でもあった人でして、『第三身分とは何か』を記しました。第三身分っていうのは……」


紫「はい!(元気いっぱいの挙手) フランスの平民ですよね!」


社「知ってるときだけ元気になるのやめてくださいね。とにかく落ち着きましょう」


紫「はい!(元気いっぱいのお返事)」


社「(やりづらいな〜)まぁいいでしょう。はい、第三身分とは平民のことです。シエイエス自身も平民出身でした。『第三身分とは何か』では特権階級を痛烈に批判しているのですが、これがベストセラーになりまして、フランス革命の端緒になったと言われています。歴史を動かした著作といっても過言ではありませんね」


紫「へぇ〜、これまたすごい人なんですねぇ。で、社会学はどこで出てくるの?」


社「はい。シエイエスの未発表の草稿のなかに、“sociologie”が用いられていたんです。彼は社会の統合を考察するために、さまざまな検討を重ねていたらしいのですが、そのなかで“sociologie”という語が造り出されたようですね。ただ、他にも色々な造語を生み出していたとのことで、シエイエス自身が“sociologie”に特別な意味を込めていたわけではなかった、とも指摘されています」


紫「なるほど……未発表の草稿から発見された、ということは、コントがシエイエスに影響された可能性は低そうですね」


社「そうですね。おそらく独自で社会学という言葉をつくり出したと思われます。まぁ、そういう話も踏まえながら、ここでは一般的な通説――コントが社会学の生みの親であるという説を採用して話を進めていきます」


紫「わっかりマシタ⭐︎ ちなみに、この言い方はシャンプーハットの小出水……あ、今は恋さんですね。恋さんの……」


社「はいはい、すぐ脱線するのやめてくださいね。(っていうか、そんなマニアックなネタ分かる人いるのか……?)」


紫「はーい! じゃあ、コントってどんな人だったんですか?」


社「とても優秀な人だったんですよ。理工系のエリートを養成するパリのエコール・ポリテクニックに上位の成績で入学しています」


紫「えええ! すごい!!」


社「(素行不良で退学になったけど……)

 ええ、すごいんですよ(にっこり)」


紫「……ん? ってかコント、理数系だったんですか?」


社「はい。学校ではすこぶる優秀な成績を修めていたんですよ。数学の家庭教師もやっていたようですね。コント――僕の父は数学者であり、哲学者でもありました」


紫「(コント「父」扱いなんだ……。「母」は誰になるんだろ)あれ? コントってもともと理数系の出身で、しかも哲学者なんですよね? なんでそこから『社会学』って言い始めたんですか?」


社「一言で説明するのは難しいんですけど……そうですね、時代の要請、とでもいいましょうか」


紫「と、いいますと?」


社「父が生まれたのは1798年1月です。さて、ベルばら好きのあなたなら、この時期の前後に何があったか、ピンときませんか?」


紫「へっ? 1798年といえば江戸時代――寛政十年で、歌川国芳が生まれた年ですよね? たしか国芳も1月生まれだったような」


社「え、そうなんですか?……って、どうしてここで浮世絵師が出てくるんですか! ほら、大ヒントあげますから真面目に考えてください。1789年、フランスで起こった歴史的大事件といえば……?」


紫「……(三分経過)ああ! フランス革命ですね!」


社「正解です。いや、どうしてそんなに時間がかかるんですか! あんたホントにベルばら愛読してたんですか?」


紫「いやぁ、ストーリーは入ってきても、年号とかは……ねぇ?」


社「……はぁ。まぁいいでしょう。

 オーギュスト・コントがなぜ『社会学』を提唱するに至ったのか、との問いに対して重要なヒントとなりうるのは、父の生年と、その周辺がどういう時代であったのか、という点です。先に答えを言ってしまうと、父が生まれたのは、ちょうどフランス革命後の激動の時代でした。

 というのも、父が生まれた1798年とは、革命家のロベスピエールが処刑された約3年半後にあたります。ロベスピエールは、“恐怖政治期の独裁者”というイメージが強いかもしれませんね。で、その翌年――1799年にナポレオンが皇帝に即位しましたけれど、1814年、彼はエルバ島に流され没落し、王政復古が実現します。ところが1815年3月、ナポレオンがエルバ島から脱出しパリに戻って帝政を復活させ…………って、紫月さん? 聞いてます?」


紫「………はっ! 寝てません、寝てませんよ!」


社「思いっきり寝てた人のセリフですね、それは」


紫「いやぁ、ははは。そうだ、少し休憩挟みましょうよ! リフレッシュに顔でも洗ってきまーす」


社「(……マジでこのまま帰ってやろうかな)」 




*****


インタビュアー:紫月

インタビュイー:社会学



【前回のあらすじ】

 社会学の面白さや魅力を広めるべく布教活動に目覚めた紫月。色々語りたい内容はあったものの、「いちおう」社会学の起源についてちゃんと話しておいた方が良いのでは? と思い至った紫月。しかし、「激つまらん。っていうか自分でちゃんと説明できるのか?」と急に及び腰になった紫月は「それなら本家本元さんに直接語ってもらおう!」と「社会学」を召喚したのであった。この手探り感満載の企画、無事に終了まで漕ぎ着けることができるのか?!



*****



紫「今日のゲストは『社会学』さんということで。何かとっても面白い芸をなさる方なんですってね。私見てみたいわ、早速やっていただけるかしら?」


社「どうして休憩から戻ってきたら『◯◯の部屋』っぽいテンションになってんですか。僕芸人じゃないでしょ。無茶振りにも程がありますって」


紫「私もどうすればいいか色々試行錯誤してるんですよ……。面白くするって、難しいですよね」


社「無理に面白くしようとするとかえってスベりますよ。さっさと本題入りましょう」


紫「はーい。えーと、なんでしたっけ?」


社「社会学の生みの親といわれるオーギュスト・コントがなぜ『社会学』を提唱したか、ですよ。あなたが訊いてきたんでしょ」


紫「そうそう! コントさん哲学者……しかも数学者もやってて、なんでわざわざ『社会学』なんて言い出したのかってハナシ! 御乱心? 行き詰まったの?」


社「違いますよ!!! 前回も言いましたけど、父が生きた時代背景が深く関わってるんです。あ、もう突然ミュージカル始めないでくださいね」


紫「(うわ、先手打ってきた)そんなことしませんよ。フランス革命後の激動の時代、ですよね?」


社「そうです。僕の父は、フランス革命を否定的にとらえていたんです」


紫「へー、なんでなんで? フランス革命といえば、平民が特権階級を打ち倒して平等を勝ち取るんでしょ? あのオスカル様も市民側に味方して奮闘したんだよ? オスカル様がバスティーユで戦死するシーンはもう涙腺が崩壊して……だってさぁ、アンドレが天からオスカル様を迎えにくるんだよぉぉぉ?! こんなん泣くしかないやん!!!」


社「落ち着いて! お願いだからベルばらから離れて! 話全然進まないから!」


紫「あ、失礼しました。無駄に長くなってもみんな疲れちゃうもんね」


社「そうですよ。肝心なところをみなさんに読んでいただくためにも、ふざけないで頑張ってくださいよ」


紫「御意」


社「はい、じゃあ切り替えていきましょう。父は、フランス革命が引き起こした『混乱』に対して否定的な立場にあったんですよ。

 たしかに革命は当時フランス市民を苦しめていた重税や絶対王政といった旧体制に終止符を打ちました。ですけど、よし、これで平等がやってきた!……なんて簡単な話でもありません。それまで封建制とか身分制度といったいわゆる中世的な制度のなかで人びとは動いてきましたが、革命によってそれらは廃止された。つまり、それまで通用していたルールや規則が崩壊したってことです。でも、これからどうするか、ってところまではちゃんと決まらなかった。いわば、無政府状態ともいうべき混乱した状態が広がっていたわけです」


紫「あー、言われてみれば革命が始まってから王政復古までの間のフランス国内って、テロに内乱、処刑だとかで大変なことばっかりだし、国外は国外で戦争が続いてる不安定なイメージが……。フランスで初めて皇帝に即位したナポレオンも、第一帝政が始まって10年ほどで追放されちゃうんですよね。とてもじゃないけど、革命後に平和で平等な社会がもたらされた、とは言い難いですよねぇ」


社「お、けっこう知ってるんですね! ちょっと見直しましたよ」


紫「ハハハ! 私だって今日のためにそれなりに勉強してきたんですよ……っと」


【紫月の手元からカンペが落ちる】


紫・社「…………………」


社「えーと、話を戻すとですね。当時の状況を歴史的な区分を用いて表現するなら、『中世』の次にあたる――のちに『近代』と呼ばれる新しい時代の新しいルール、制度、きまりはどうするんだって問題が出てきたわけです。

 混乱のない、安定した社会を実現させるために、実際どんなことが問題として起こっているのかをしっかり把握して、崩壊した体制諸々をどうやって再組織化していくのかを考える必要が生じたんですね」


紫「それ、知ってますよ。社会学で言うところの『社会秩序』の崩壊、そして新たなる『社会秩序』への関心、ってやつでしょ?」


社「……そんなドヤ顔する内容でもないですけど、そうです。『社会秩序』――社会学の根本問題と言われてきた関心の対象ですね。

 あと、フランス革命以外にも、社会学が誕生する契機となった大きな社会変動として見逃してはならないもうひとつの重大な動きが同時期にあったんですよ。18世紀後半から19世紀にかけておこった『産業革命』です。これはそもそもイギリスで始まりましたね」


紫「イギリスといえば、アフタヌーンティ発祥の地! ああ〜ロイヤルミルクティ飲みたいなぁ。そろそろ小腹も空いてきたし……社会学さん、スコーンお願いします。クロテッドクリームつきの。なければ甘さなしの生クリームでも……あ、ジャムも少しあると嬉しいです。今はブルーベリーの気分」


社「はーい、勝手に脱線しないでくださいよ。それに、ここはティールームじゃないんで。しかも何気に細かい注文するのやめてください。ああもう、産業革命に全然関係ないじゃないですか。世界史でやりませんでした?」


紫「世界史ね〜。私最終日本史選択したんですよねぇ」


社「知らんがな!」


紫「はいはい。わかってますよ、あれでしょ、機械の導入で楽々大量生産! 手作業なんかやってらんねぇよバーロー! ってやつでしょ」


社「後半のコナンっぽさが気になりますけど、まぁそんな感じです。産業革命といえば、大まかに言うと生産活動の中心が農業から工業に移った変革を指していますが、ここで注目すべきは、技術革新や働き方の変化によって社会の仕組みが大きく変動したことです。この大きな社会変動に伴って、資本家と労働者の社会関係が生み出され、いわゆる『資本主義社会』が確立したんですね。『資本主義』は社会学でよくテーマにあがりますが、ここではそんなに深追いしなくてもOKです」


紫「うんうん、少しでも簡単に分かりやすくお話くだされば私としても有難いんで!」


社「(……このやろう)頑張りますけどね。先程もお話したように、フランス革命によって『社会秩序』への関心が生じたんですが、それは産業革命においても同じことが言えるんです。機械制の工場が登場したことによって、新たに労働力が必要となり、もとは農村にいた人たちが大量に都市部へ移ってくるわけです。そうすると、やっぱりその現象に付随する特有の問題……たとえば労働問題、都市問題なんかが発生して、ここでも新たな『社会秩序』が要求されるんですね」


紫「便利なだけじゃ済まされないかぁ。物事はいつでも多面的。人が動き、集まるところ、かならず何かが起こるし、課題が出てくるってね」


社「そうですねぇ、これまで通用してきた制度や組織のあり方が変わればそれに付随して色んなことが変化していきますよね。今までよりもっと良くなることを願ってなされたことが思わぬ混乱や問題を引き起こすこともあるでしょう? それこそ想定外の問題だって起こりうるわけですよ。少し変わっただけでも新たな問題が生じる可能性は高いのに、それが激しい社会変動であればなおさらです」


紫「たしかに、“革命”っていったらレボリューション! 宇宙海賊ゴー☆ジャスかTMRのアニキくらいしか思い浮かばないけど、よくよく考えれば、革命によってもたらされる変化とか、その混乱っぷりはちょっとわかるかも」


社「あなたの偏った“革命”に対するイメージはさておき――。

 産業革命による社会構造の再編、フランス革命後の混乱……こうした状況を背景に、新しい社会秩序を求めて『社会』というものを独自に分析・考察する学問として『社会学』が登場したわけです」


紫「なるほど。社会学誕生の背景は理解できたんですけど、コントはフランス革命後の無政府状態を具体的にどのような方法で乗り越えようとしたんですか? まさか社会学って言葉をつくって終わり――じゃないですよね?」


社「おお! 急に人変わった? ちゃんと僕の話聴いてたんですね! うんうん、順を追ってしっかり説明しますからね。(ようやくまともに話ができる――!!!)」



(つづく)


――――――――――

主要参考文献

 今野晃,2014「sociologie のもう一つの起源 ――その歴史的・概念史的背景――」『東京女子大学社会学年報』(2),p.17-30.

 橋元良明,2012「社会学,社会心理学,社会情報学,君たちは何者か? ――その名称の由来」『社会情報学』1(1),p.47–53.

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