会話劇 社会学さんにインタビューしてみた! その3:最終回
社「第三の段階である実証的段階は、科学の段階、です」
紫「科学! 神のような想像上の存在によって説明するところから、抽象的な思考段階を経て、科学に到達する……進歩してるって感じしますね」
社「うんうん。この実証的段階では、諸現象の原因を観察や実験によって得られる事実に求めます。ところで、紫月さん。〝実証的〟って、どういうことかわかりますか?」
紫「えっ?!(慌ててスマホで検索)……えーと、頭で考えるだけじゃなく事実によって証明すること、ですよね?」
社「堂々とカンニングしないでください。コントによると、〝実証的〟には6つの特徴があるといいます」
紫「そんなにあるんですか?! それって全部覚えなきゃダメですかね?」
社「テストをするわけではありませんから、きっちり暗記しなくても大丈夫ですよ。6つの特徴を簡略化して挙げると
①空想ではなく現実的なもの
②否定、批判的ではなく建設的なもの
③曖昧ではなく明確なもの
④有益、つまり役に立つもの
⑤曖昧なものじゃなく確実なもの
⑥宗教の教義のように絶対的ではなく相対的なもの
になります。これらすべての特徴を挙げることが難しそうなら、『実証的=観察可能なものに基づくもの』くらいにおさえておけばOKでしょう」
紫「なるほど、観察可能なものに基づく、ですか。6つの特徴の内容や観察可能であるってところから、実証的段階がなんとなく『科学』のことを言っているんだなぁって感じがします」
社「それはよかった。実証的段階=科学の段階、と手早く暗記してしまうのもいいですが、細かい部分を見ていくことでより理解が深まりますし、結果、印象に残りやすくなりますからね」
紫「ですね……!(日本○送協会提供のコンテンツっぽくなってきたんじゃな〜い?!)」
社「ひどく調子に乗った心の声が聞こえてきたような気がするんですが……まぁそれはさておき、『三段階の法則』は人間の精神・知識の発達だけでなく、社会のあり方にも対応してるんですよ」
紫「(とうとう心の声までキャッチするようになっちゃったか)と、言いますと?」
社「コントは、人間の精神・知識が神学的段階から形而上学の段階を経て、実証的段階に進歩するのに伴って、社会も三段階に発展すると考えたんです。
紫「へぇ〜! 三段階の法則を社会にも適用したんですね。具体的にどう発展していくんですか?」
社「はい。まず、『神学的段階』に対応するのが『軍事的段階』です。軍人や聖職者が力をもっている時代で、封建的な社会になります。もう少し踏み込んで言いますと、軍人、貴族、王や聖職者が中心となって征服を目的とするような時代であり、奴隷制が軸となっている社会ですね」
紫「ほぉ〜。じゃあ、形而上学的段階はどんな社会なんでしょう?」
社「軍事的段階の次は『法律的段階』の時代です。この段階では法律や思想の概念が生まれて、軍人や聖職者だけでなく、法律家や思想家のような知識人が台頭します。フランス革命を思い起こしてもらえるといいかなと」
紫「なるほど。それで、三段階目はどんな時代が来るんです?」
社「最後の――実証的段階に対応するのが『産業的段階』になります。つまり、科学と産業が主役の時代が到来するんですね」
紫「科学と産業が主役って……あ、少し前に話してた科学者と産業者が新しい秩序の担い手になるっていう?」
社「お! 気づきましたか? そうですそうです、産業的段階にある社会では、科学者――つまり学者階級と産業の指導者が手を組んで新しい社会の秩序を担っていく、コントはそのように考えました。そして重要な点は、この産業的段階では実証的な科学が社会を指導する、とコントが主張したことです」
紫「実証的な科学が社会を指導する?」
社「はい。神や本質存在などの抽象的な思考を排除して、観察から得られる事実を認識の拠り所に客観的な法則を確立しようとする考え方――これを実証主義と言うんですが、コントはこの実証主義に基づいた精神によって新しい社会の秩序が形成されていくと考えたわけです」
紫「あ! 実証主義って、コントの師匠だったサン=シモンから受け継いだっていう思想ですよね」
社「おお、ちゃんと覚えていてくださったんですね。そうですそうです。せっかくサン=シモンの名前が出てきたので付け加えておきますと、実はですね、彼も三段階の進化の法則を提示していたんですよ」
紫「え?! サンもですか? コントより先に?」
社「(サン=シモンを〝サン〟って略す人は初めてだな……)そうなんです。そもそもサン=シモンも、旧制度の思想や啓蒙思想とは違う、実証的な科学の構築を目指していました。しかし彼は産業革命――産業の方を重要視していたんです。彼の中心的な思想は産業主義にあったんですね」
紫「産業主義?」
社「ええ。フランス革命以降のヨーロッパ――いわゆる近代社会を解明する糸口を産業化に求め、新しい社会は王や貴族といった非生産的な階級ではなく、産業者階級の指導によりなされるべきだと唱えたわけです」
紫「コントも実証的段階では産業者だって新しい秩序の担い手になるって考えてましたよね? 師匠と同じように考えていたんじゃないんですか?」
社「たしかにコントはサン=シモンからの影響を受けていますので、産業主義の思想も受け継いでいます。ですが、先ほどお伝えしたように、コントが主張したのは〝実証的な科学が社会を指導する〟でしたよね。つまり、新しい社会の秩序……近代社会を解明するには何よりも実証的な科学が求められる、と考えていたんですよ」
紫「なるほど、どうりで訣別するわけだ」
社「新しく到来する社会にふさわしい実証的な科学を構築すべく、コントはさらに研究を進めていきます。1826年、コントは自分のアパートで〝実証哲学〟という講義を始めるのですが、これらが『実証哲学講義』として1830年から1842年にかけて6巻にわたり刊行されました。この『実証哲学講義』において、コントは科学の分類を行っているんですよ」
紫「科学を分類するって……どういうことなんです?」
社「順を追って説明しますね。コントによると、科学も三段階の法則に対応して〝神学的→形而上学的→実証的〟の段階を経て、歴史的に発展してきたといいます。より捉えやすいものを対象にした学問から実証段階に到達する、というわけです」
紫「より捉えやすいものって何ですか?」
社「無機的なもの、抽象的なもの、です。そして、コントは実証段階に達したものから順に学問を並べ、ヒエラルキーを作ったんですよ。これをコントは『諸学のイエラルシー』と主張しました」
紫「えー! コント的には、一番最初に実証段階へと到達した学問は何だったんですか?」
社「数学です。数学→天文学→物理学→化学→生物学の順に実証段階に達していて、この後に〝社会物理学〟がきます」
紫「社会物理学? どうして社会に物理学がくっついてるんです? 社会学はまだ登場しないんですか?」
社「まず最初の質問について答えましょう。コントは、社会現象を物理学のように研究し、そこに自然法則のような因果律を見出すことを理想としていたことから『社会物理学』と呼んでいたようですね。
そして二つ目の質問に対する答えですが――実はですね、この社会物理学こそが社会学の前身なんですよ。『プラン』でも社会の理論を指す言葉として『社会物理学』が用いられていました。社会学の名が登場するのは1839年です。『実証哲学講義』の第四巻で、コントは社会物理学を『社会学』という名前に変更しているんです」
紫「ああ! じゃあ社会物理学は実質社会学ってわけですね」
社「はい、ということで、ここからは社会物理学を社会学と呼ぶことにします。話を戻しますと、それまでの学問が対象としてきたものより複雑な〝社会〟を扱う社会学は、まだ実証段階には到達していないというわけです。そこでコントは、実証科学としての社会学を構想していくのですが、彼は社会学を『社会動学』と『社会静学』の二つの部門に分けました」
紫「動と静?」
社「動というのはすなわち発展や進歩、静とは秩序に相当すると考えてください。ですので、進歩の法則を明らかにするのが『社会動学』です。これは先に確認してきた『三段階の法則』がその内容になっています」
紫「じゃあ社会静学は秩序を扱うってことになると思うんですけど、具体的に何をするんですか?」
社「簡単にいうと、人類の共存と連帯の問題を扱います。社会の諸部分の相互作用を研究していくわけです。この背景には社会を一種の有機体とみなす考え方があるんですよ」
紫「有機体って……生物のことですか?」
社「ええ、たとえば生物を想定した場合、生物の有する各器官が機能を分担して、それぞれが相互に連関することによって生物の命は保たれていくでしょう? 社会をこの生物有機体になぞらえて考えると、社会の内部で人間有機体が社会有機体の協業や分業にいかにして関わっていくのか、機能しているのかといった点や構造に目を向けることができますよね」
紫「なるほど……コント、めちゃくちゃ考えて社会学を構想したんですねぇ(しみじみ)」
社「こうして、コントは実証科学たる社会学を構想し、実証主義を体系化していったわけですね」
紫「(スマホを眺めつつ)ん? 後期のコントは『人類教』を提唱し……ええ?! コントさん、宗教はじめちゃってるじゃないですか! 実証的な科学はどこに?!」
社「はい、では私のお役目は終わったと思いますので、ここで失礼させていただきますね! ではまたどこかで〜⭐︎」
紫「ちょっと、これ、人類教ってどういうことですか?! 社会学さーーーん!」
【終】
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました! お楽しみいただけましたら幸いです。
人類教について気になった方は、ぜひチェックしてみてください(^^)
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主要参考文献
赤坂真人(2013)「社会の発見(Ⅲ)―社会学の誕生―」『吉備国際大学研究紀要』第23号,pp.29-39.
奥井智之(2008)「創始者の哀しみ ―オーギュスト・コント―」『亜細亜大学学術紀要』12・13,pp.1-16.
千石好郎(2005)「オーギュスト・コントの社会再組織論」『松山大学論集』17(2),pp.403-421.
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