第332話 最終決戦、天王寺口―3
赤備えの軍団は、幸村を先頭に敵を馬蹄で蹴散らし、雑兵などには目もくれず、真一文字にひた走った。死にもの狂いの凄まじい突撃であった。全員が死を覚悟した「死兵」と化していた。
たまらず松平忠直の前衛が左右に割れた。
銃声が轟き、矢が唸り、白刃がひらめく。敵味方いずれともしれぬ血煙が飛び散った。
凄まじい乱戦の中、望月六郎の声が響く。
「真田幸村、ここにあり!討ち取って、手柄にせよ」
根津甚八が叫ぶ。
「われこそが真田幸村。家康、いずこにありや」
穴山小介がつづく。
「真田幸村、見参!かかってまいれッ」
幸村は松平忠直隊の兵卒を馬蹄にかけて、ひたすら突進した。家康の本陣は、この松平隊の後方にある。そのことを幸村は草の者から聞き及んでいた。ここは、なんとしても突破するしかない。しかしながら、松平隊は真田隊の四倍近い大軍である、怯みながらも多勢を恃み、なんとか態勢を立て直そうとしていた。
折しも、このとき――。
東軍の後方にいた浅野
すると、期せずして戦場のあちこちで、幾つもの叫び声があがった。
「浅野どの、裏切り!」
「紀州どのが寝返ったぞ!」
「裏切りじゃ。うしろをつかれるぞ。逃げろ」
火草配下の草の者が、敵を
浅野長晟は、関ヶ原の合戦以来、徳川方に与しているが、もとをただせば豊臣家臣である。しかも、長晟は秀吉の正妻
土壇場で大坂方に寝返ったとしても不思議はない。
徳川のまぬけな使い番が、このまことしやかな流言を真に受けて、
「紀州どの、裏切り。裏切りでごさる」
と、馬上、言い触らし、駆けまわった。
これを聞いた徳川軍は狼狽し、浮き足だった。真田軍の火を噴くような攻撃に必死で耐えていた越前松平兵も動揺し、力がにぶった。
もはや徳川軍は混乱のきわみに達し、疑心暗鬼の末、同士討ちする随所で起きていた。
こうした乱戦の中、幸村は無言で家康の本陣めがけて、無言で馬を走らせた。
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