第324話 決戦!大坂夏の陣―3
翌朝、朝暗いうちから幸村隊は大和路の亀の瀬渓谷へと向かった。そこで、後藤又兵衛隊と合流し、徳川軍を迎え撃つという策であった。
だが、この日は梅雨の湿気と低温で濃霧に見舞われた。
後藤隊はこの濃霧に悩まされ、行軍が遅滞した。
亀の瀬渓谷の手前に差し掛かると、斥候が又兵衛に注進に及んだ、
「幕府軍の水野隊、本多隊の旗幟がすでに亀の瀬に先着し、陣を張っておりまする」
「しまった。先を越されたか」
又兵衛はやむなく道明寺の松尾山に陣取ったが、雲霞のごとき敵の大軍に囲まれた。
又兵衛は咆えた。
「皆の者、かくなりては敵を一人でも多く斃し、華々しく討ち死にすべし。われにつづけ!」
大柄な栗毛の馬に跨り、又兵衛が先頭をきって幕府軍の中に突っ込んだ。
馬上、大身の槍を振りかざし、獅子吼する。
「われこそは、天下にその人ありと知られた後藤又兵衛基次なり。命が惜しくない者は、わが前に出よ」
あたかも無人の野を駆けるがごとく、又兵衛は敵の只中を馳駆した。
「者ども、武名をあげるは今ぞ!」
血槍をぶんと唸らせながら、兵を叱咤する。
「われとともに死ねや、死ね。ここが死処ぞ」
そのときであった。
一発の銃弾が又兵衛の眉間を貫いた。
これが豪胆無比と謳われた西軍の猛将、後藤又兵衛の最期であった。
その頃、幸村隊も濃霧に阻まれ、結果として又兵衛との約束の時間に間に合わなかった。幸村が目的地近くの誉田村に着いたのは、すでに陽が上がって霧が晴れた頃であった。
そこへ、後藤勢が散々に討ち破られて東側から敗走してきた。
幸村は逃げてきた兵に訊いた。
「又兵衛ど゜のはいかがされた?」
「お討ち死になさいました」
幸村は後藤隊の負傷兵を後方へ送り、小高い山の陰に鉄砲隊を隠し、攻め寄せる水野隊、本多隊を迎え撃った。後藤隊の敗残兵を追走してきた幕府軍の騎馬隊が間近に迫ってきた。
鉄砲隊頭の筧十蔵が銅鑼声を張りあげる。
「撃てえええーっ」
驟雨のごとき弾丸の雨に撃たれ、水野隊、本多隊が後退した。
すると、紺地に黄金の日の丸の旗幟が前方に現れた。
それは、伊達政宗の兵であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます