第322話 決戦!大坂夏の陣―1

 大坂方は堀の掘り返しを行うと同時に、新規に大勢の牢人を召し抱え、兵糧を盛んに買い入れた。

 家康の謀臣、本多正純が注進に及ぶ。

「大坂方、再戦近しと見て、合戦準備している由にございまする」

「ふむ。では、また無理難題を押しつけてみるがいい。こちらから和議を破って、一方的に攻めたのでは、後世のそしりを受けよう」

「大坂方を怒らせて、向こうから宣戦布告をするように仕向ける。そうでございますな」

「ふふっ」


 慶長20年3月末、うららかな桜の季節とは裏腹な剣呑な内容の書状が秀頼のもとへ届いた。

 それは、「大坂城内の牢人を全員城外へ追放するか、秀頼が大坂城を出て大和か、伊勢の地へ移るか。そのいずれかを選べ」というものであった。

 無論、はなからできぬことを見越した要求を突きつけてきたのである。

 大坂城に籠る牢人衆らは、家康の邪心を剥き出しにした悪辣さに義憤の炎を燃やした。

「やってやる!」


 大坂城を退去しても、牢人衆に行くところなどない。城外に出ても、待つのは飢え死にあるのみであった。

 一方、落城した結果、落ち延びたとしても、残党狩りの憂き目をみるのは必定であった。

 つまり、どちらに転んでも地獄であった。ならば、戦って武士らしく華々しい討ち死にを遂げたい。この一戦を最後に死に花を咲かせたい。覚悟を決めた城方の将兵の士気は、いやがうえにも高まっていた。


 同年5月5日、家康に率いられた東軍が大坂に押し寄せた。その数、15万5000余という途方もない大軍である。対する西軍は5万5000余。

 多勢に無勢であるが、かといって丸裸の大坂城に籠城して戦うわけにはいかない。畢竟、打って出て血みどろの野戦となる。

 死を悟った幸村の前に、亡き佐江姫と瓜二つの女が現れた。

 信濃に帰ったはずの女忍、火草であった。

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