第318話 家康の謀略―3

「悪だくみの天才じゃ」

 と、家康から言われて本多正純はいささか鼻白んだが、それで意気阻喪するような正純ではない。

 昂然と頭をもたげて言い放った。

「兵は詭道きどうなりと申しまする。和議など古来から所詮方便。まして、このような子供だましの詭弁にひっかかるほうが悪いのでございます」


 和議という餌に、大坂方が食らいつけばしめたもの。この密議を境に、家康の戦略は大坂城の総堀を埋め、その防御機能を完全に破却するという一点に絞られた。冬の陣は、次には決戦となる「夏の陣」のための前哨戦と化したのである。

 しかし、問題はいかにすれば和議に持ち込めるかという点であった。

 この時点では、幸村の真田丸での奮戦により、大坂方有利に推移し、城方の意気は大いにあがっていた。こんな状況では、相手が和議など結ぶはずがない。


 家康は大坂方を和議に追い込むべく、姑息な神経戦に打って出た。

以前から甲斐や佐渡の金掘り人夫を使って、大坂城の下へと坑道を掘削していたが、それを本丸や城内の火薬庫に通じる隧道ずいどう(トンネル)を掘っていると喧伝させ、城方に動揺を与えた。

 次に、深夜、軍勢に鯨波げいはの声をあげさせ、火縄銃の空砲をやかましく放った。


 こうして城方の不眠と士気の阻喪を誘う一方、城の南北に大砲300門を据え、12月16日以降、4日間に亙って昼夜の別なく砲弾の雨を降らせた。

 すさまじい集中砲撃が展開され、そのうちの一弾が大坂城本丸を直撃した。

 本丸には淀殿の居間があった。

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