第317話 家康の謀略―2
大坂の冬の陣の段階において、家康は73歳であった。対する豊臣秀頼は22歳で、秀頼の側近大野治長らは「あと数年、現状維持できれば、家康は死ぬ。さすれば、再び天下は豊臣のものになる」という計算を立てていた。
この時代に75歳以上の高齢まで寿命を保てる者は、ごくわずかであった。
もちろん、家康は治長らの考えていることは手に取るように分かっていた。
それだけに焦りがある。
家康は謀臣本多正純に愚痴をこぼした。
「わしが死ねば、豊臣恩顧の加藤清正、福島正則、浅野長晟などの諸大名は、たちまち徳川に叛旗をひるがえすであろう。さすれば天下はくつがえる。なんとか手だてを考えねばならぬ。どうする?どうする?」
正純が上目づかいで問うた。
「先程、どんな穢い手を使ってもよいと仰せられましたな?」
「おおっ、構わぬ。いい手があると申すか」
「では、一旦和議に持ち込み、しかるのち罠にかけまする」
「ふむ。その罠とは……?」
正純が唇を歪めてニヤリと笑った。
それから、「畏れながら」と低い声音を発して、話しはじめた。
「ご承知のとおり、大坂城の生命線は、城をぐるりと取り巻く深く長大な堀でござる。しからば、この堀さえ埋めれば、城はたやすく陥落しましょう」
「当たり前じゃ。そのようなことは分かっておる。勿体ぶらずに、いかなる罠にかけて、堀を埋めるのか、早く申せ」
「では、申し上げまする。まず和議を申し込み、その証として、惣堀(外堀)の埋め立てをと申し入れてはいかが」
「ふむ。惣堀をのう。しかし、惣堀を埋めるだけでは城の守りは、まだまだ堅固じゃぞ」
「惣堀と申すのは、あくまで和議を結ぶための建て前。すなわち実際には、惣堀を埋めると見せかけて、内掘りを含む総堀を一挙に埋め立てまする」
これに家康が膝を打った。
「それはよい。正純、そなたは悪だくみの天才じゃ。なんとも
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