第309話 徳川ござんなれ!

 その後、城中の会議で幸村には5千人の指揮権が与えられた。長宗我部盛親、毛利勝永、後藤又兵衛、明石全登、真田幸村をもって軍団長とし、以後、彼らは五人衆と称されることになる。


 結局、秀吉の恩顧をこうむった大名は、一人も秀頼のもとへ馳せ参じることはなかった。子供の頃から秀吉に目をかけられ、大名に取り立てられた加藤清正、福島正則まさのりですら、大坂方にくみしなかった。

 後藤又兵衛が咆える。

「臆病者めらが!そんなに命が惜しいか。所領が惜しいか」

 長宗我部盛親がこれに大きくうなずく。

「太閤さまのご恩を忘れたのであろう。恥しらずどもめ!」


 大坂城に入城したのは、とどのつまりは食い詰め浪人ばかり。日ノ本六十余州の城持ち大名は、ことごとく秀頼に刃を向けてきたことになる。

 しかしながら、城中の士気は意外なほど高く、参集した浪人たちは、

「われらは命よりも名を惜しむ。天下の大軍を向こうにまわして戦えること、これぞ、武門の冥利に尽きるというもの。いざ、徳川、ござんなれ!」

 と、気負い立っていた。


 大坂城に集まった食い詰め者は総勢10万。とはいえ、甲冑を身につけた武士は、わずか1万人というのが実情であった。これに対し、家康率いる関東方は総勢20万人。冬と夏の二度にわたる大坂の陣がはじまろうとしていた。


 城中の軍議で、早速、幸村は提案した。

「われらは徳川方に比べて寡兵。まず関東勢の機先を制する策に打って出て、緒戦で勝ちをおさめ、西国大名の寝返りを図ることが肝要と心得まする」

「そうだ!幸村どのの申すとおり」

 幸村の案に、膝を叩いて同調する者が相次いだ。

 大野治長が先をつづけるよう幸村にうながす。

「それには、まず隘路の山崎を封鎖し、大津・宇治・瀬田までわれらが出っ張って、幕府軍の先鋒をここで叩きつぶしまする」

 その意見に、豪傑の後藤又兵衛が賛同した。

「おおっ、それはよい。ならば、この又兵衛は、大和口まで進出し、幕府軍の出鼻をくじいてみせましょうぞ」

 そのとき、毛利勝永が声をあげた。

「そのときは、秀頼さまに陣中を見舞っていただければ、士気はますますあがりましょう」

 これを聞いた淀殿が柳眉を逆立てた。

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