第308話 大坂城へ―3
九度山を無事に脱出した幸村は、堂々たる赤備えの隊列を組んで大坂城へと入った。
城の中は防備を固める普請の音がかまびすしい。至るところに足場が組まれ、石垣用の岩石を運ぶ者、壁土をこねる者、鉄砲よけの竹束をくくり付ける者らが、せわしなく立ち働いている。徳川との決戦に備えて大わらわなのだ。
幸村は本丸へと進んだ。
すると、一人の若武者が驚いたような大声をかけてきた。
「おおっ、
その声には聞き覚えがある。岳父大谷吉継の一子、
「吉治どの、ご無事であられたか。関ヶ原の合戦以来、各地を流浪されておった由。再びお会いでき、うれしいかぎりにござる」
「関ヶ原では負け申したが、此度は何としても凱歌をあげましょうぞ。義兄上さまのご入城で、皆々さまも喜びになりましょう」
この義弟である吉治の先導で、さらに本丸へと近づくと、先に入城していた後藤又兵衛、
「信繁どの、おぬしが来るのを待っておったぞ。家康に吠え面をかかせてやろうではないか」
「真田どのが来れば、ますます士気が高まろうというもの。徳川に小便チビらしてやろうぞ」
こうした声に幸村が珍しく大声を張り上げて応えた。
「今後、それがしは真田幸村と名乗ることにした。幸の字は、真田家代々の通字。祖父は幸隆、父は昌幸、それがしは
「おおっ、左様か。真田幸村。いい名じゃ。われら一同心得た。皆で手柄を立てようぞ!」
「おおっ!」
本丸内で幸村を迎えたのは、大野治長と木村重成であった。
治長は淀殿の乳母、
幸村はこの二人の案内で、本丸奥御殿へと入り、淀殿と秀頼に拝謁した。
はるか向こうの上段の間から、淀殿が幸村に声をかける。
「此度の入城、大儀である。太閤さまのご厚恩を忘れず、以後も豊臣家に忠勤なされよ。秀頼さまもそれをのぞんでおられる」
次に、秀頼が言葉を発した。
「真田、大儀。此度の合戦で、われのためにも名をあげよ。励むべし」
そう言う秀頼の眸のなんと澄んでいることか。卑しさのひとかけらもない貴公子であった。
「ははっ」
幸村は畳に額をこすりつけるほど平伏した。
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