第304話 蛟竜雲雨を得る
徳川方は豊臣家に重箱の隅をほじくるような難癖をつけた上、以下のような無理難題を突き付けた。
一、秀頼が江戸と駿府へ参勤すること。
一、淀君を江戸詰め(人質)とすること。
一、秀頼の大坂からの国替え。
この三つの条件をのみ、どれか一つを速やかに実行せよというのだ。
淀殿は激昂し、ついに堪忍袋の緒を引きちぎった。徳川との決戦を覚悟し、合戦の準備を進めたのである。
慶長19年10月1日、家康は息子であり、将軍の秀忠に大坂討伐を告げ、諸大名に出陣を命じた。
その翌日、濃い
丹生川の下流で一筋の狼煙が空に上がった。
それは、真田屋敷に大坂からの客人が向かっているという草の者からの合図であった。
四人の男は、九度山の真田屋敷の門前で立ち止まった。
才蔵が「頼もう」と声を張り上げた。
その声に、望月六郎が現れ、「いざ、こちらへ」と屋敷の内へと先導する。
屋敷の広間には、すでに霧隠才蔵ら一行を待つ幸村の姿があった。
上座に腰を据える幸村の左右には、すでに筧十蔵、根津甚八、穴山小介、由利鎌之助、海野六郎らが居並ぶ。
才蔵は上座の幸村に
「これなるは、
掃部頭とは明石
関ヶ原の合戦に敗れた後、この高名な切支丹大名の消息は不明となり、その名を聞かぬこと久しかった。
「おおっ、掃部頭どの、お会いできましたこと、うれしく思います。ご無事で何よりでござった」
全登は、幸村のその声に微笑み、
「こちらこそ、初めて御意を得ましたこと、光栄に存じます」
と、深々と頭を下げた。
その首に銀の十字架が架けられている。
全登と幸村は、しばらく黙って目を見交わした。大坂から来たのであれば、用件は聞かずとも分かっている。見交わす二人の双眸に、不退転の意思が炎となって燃え上がった。ついに立つ
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