第298話 高野山へ―2
上田城から高野山へと出立の際、昌幸は輿に乗り、幸村は馬に跨って城門を出た。従う家臣は16名。池田長門、原出羽、高梨内記、小山田治左衛門ら、いずれの者も昌幸の近習であった。
矢沢三十郎も随行を願ったが、許されなかった。
「考えてもみよ。矢沢の家は真田家の筆頭家老職をつとめ、われら真田一族の柱石。柱石たるもの、どっしり構えて動かぬものぞ。三十郎どのは親族筆頭として上田に残り、引き続き真田家を支え、盛り立てるべく励まれよ。また、そうあってもらわなければ、われらが困る」
と、昌幸に諭されたのである。
三十郎は昌幸の命に従い、以後、真田家を継いだ源三郎信之に仕えた。
一行が上田城の大手門を離れ、しばらくしたとき、小雪が舞いはじめた。
幸村が塗り笠に雪をしのぎ、一行の先頭に立って、馬を静かに進めてゆく。幸村の黒い塗り笠に白いものが降りそそぎ、やがて行列は白い帷の中に消えた。
中山道を西上するこの行列の一丁ほどへうしろを、弓や槍、鉄砲などで武装した男たちがつづいた。
望月六郎、筧十蔵、根津甚八、由利鎌之助、海野六郎ら幸村配下の面々であった。
――高野山に向かう道中、伊賀組の襲撃があるやもしれぬ。
と警戒し、自ら護衛を買ってでた者たちであった。
慶長元年に死んだ服部半蔵の跡目は、嫡男の
和田峠を越える頃、雪がやんだ。
馬上の幸村が塗り笠を指で押し上げ、晴れ渡った冬空をまぶしげに仰ぎ見た。すると、街道脇にそびえる巨木の頂きに、白い鷹の姿が目に映った。
幸村がつぶやいた。
「あれは飛雪丸……ということは、近くに佐助がおるな」
果たせるかな、佐助はこのとき
「大殿、若……おいたわしや」
陰守り佐助は、巨木の陰で忍び泣いていた。相変わらず、泣き虫の佐助であった。
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