第295話 関ヶ原の才蔵―2
才蔵率いるクルス隊は、関ヶ原の合戦でもっともよく戦った部隊である。
それは、才蔵自身も驚く鬼神のごとき戦いぶりであった。
「死して
「いまこそデウスさまの
「われに力を与え給え、アメン!」
と、口々に叫び、悦びに頬をかがやかせながら敵に突進していくのである。
弓矢が目に突き刺さっても、片腕を失くして血を噴きながらも、敵兵に抱きつき、刺し違えるのだ。
中には腹部を負傷し、内臓がはみ出したまま戦うものさえいた。
それらことごとくが
「アメン!」
「アメン!」
と、法悦に満ちた声をあげながら、天国へと駆けのぼっていった。
才蔵はおのが切支丹に連なる身でありながら、血刀を下げたまま、思わず、つぶやいた。
「なぜだ。なにゆえ、この者たちは、悦びながら死ぬるのだ」
一陣の突風が吹き、才蔵の紅羅紗羽織をひるがえした。
そのとき、この伊賀者は、自分にないものに気がついた。
「笑って死ぬるほどのものを、われはいまだ手にしておらぬ。笑って死ぬるほどのものを……」
おのれの欲望のままに、修羅の道を歩んできた男の胸に、つと自嘲の念がよぎった。
その直後、信じられぬことが起きた。
それは、才蔵自身にとっても思いもよらぬことであった。なんと、その碧眼から光るものが
「ふん。目に埃りが入ったわ」
才蔵は唇を歪めて薄く笑った。
褐色の髪を風になびかせる才蔵の横顔に、虚無の
クルス隊は全員、天上の神に召された。
「本当に神はおるのか。天国はあるのか。わからぬ。信心の足りぬ、このわしにはわからぬ。なれど、笑って死ぬるほどのものを、この手に、多くの血で穢れたこの手にも、果たしてつかめるであろうか」
独り戦場に残った才蔵は、黙然と空を仰いだ。
次の瞬間、敵の怒号が飛んできた。
「そやつは敵ぞ。討ち取れ!」
才蔵はわれに返った。
目の前に血に飢えた敵が槍先を揃えて迫ってきた。ざっと20人もいようか。
たちまち四囲に殺気が満ちみちた。
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