第285話 風雲上田城―2
筧十蔵の「糧道を断たれれば、いずれ落城の憂き目になろう」という不安を、望月六郎は一笑した。
「ふふっ。中山道を押し寄せる秀忠軍は、東海道をのぼる家康軍と、美濃辺りで合流し、三成の西軍と対峙するはず。さすれば、この上田城をいつまでも取り囲んではいられぬ。ゆえに、糧道を断たれる心配はないものと存ずる」
筧十蔵が手で膝を打って応じた。
「おおっ、なるほど。では、六郎どのは、秀忠軍と家康軍が合流するのは、どの辺りとお考えか」
「おそらく関ヶ原の手前辺りと存ずる」
「となると決戦は、あの広大な関ヶ原。大軍同士がぶつかるには、恰好の地でござるな」
ここで六郎は話題を転じた。
「いずれにせよ。われらは、4万近い秀忠軍をこの上田に足止めせねばならぬ。足止めし、秀忠の軍が東西の決戦に間に合わぬようにすること。それが、今回の戦いの大きな眼目でござる。さすれば、東軍は家康の軍だけで西軍と戦わざるを得ないハメになり、三成軍、断然有利となる。若、そうでござるな」
六郎から「若」と呼ばれた幸村は、半眼に閉じていた双眼をみひらき、うなずくとともに、はじめて口を開いた。
「われらは、先の神川の戦いで徳川軍に勝っておる。あれから、すでに15年。今回の秀忠軍には、あの折の合戦に加わった者がおらぬという。よって、またもや同じ手口を使い、徳川軍を愚弄するというのはいかがであろうか」
海野六郎が唇を歪めて笑った。
「ということは、神川を再び堰止めて、そこに秀忠軍をおびき寄せるということでござろうか」
ここで根津甚八が口をはさんだ。
「果たして、前と同じ手口にうまく引っ掛かりましょうや」
その疑問に望月六郎が応じた。
「猪武者たる三河武士の血筋であろうか。徳川の諸将は、不思議と頭に血をのぼせやすい御仁が揃っておられる。今回もまずは相手を怒らせ、分別をなくさせることが肝要。さすれば、15年前と同じ落とし穴にまたもや落ちてくれましょうぞ」
直後、陽気な性格の穴山小助が、手にした日の丸の扇をぱらりと開き、頭上にかざすや、
「あな怖ろしや、怖ろしや。またもや同じ落とし穴」
その瞬間、一座からどっと哄笑がわき起こった。
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