第261話 復讐に向けて

 佐助は才蔵と話し合い、服部半蔵の息の根を止めるためには、家康の駕籠ごと爆薬で吹っ飛ばす作戦を立てた。

 決行の場所は瀬田の唐橋。上洛の折は、誰もがこの橋を通る。家康の行列をここで待ち伏せていれば、必ず半蔵を殺せるのだ。


 才蔵は佐助に地雷火の作り方を教えた。

 この強烈な爆薬で、家康の駕籠廻りの警護をつとめる服部半蔵を、瀬田の唐橋もろとも吹っ飛ばすという目論見である。

 佐助と才蔵は、菊亭屋敷の土蔵の中で地雷火づくりに没頭した。

 それが秘密裡のことであることは言うまでもない。


 当然ながら、このことは雲上人である大納言晴季はるすえとしては、一切あずかり知らぬことであった。いかに晴季が大坂びいきで、ひそかに徳川家の滅亡を望んでいたとしても、御所に仕える身である。

 武家の争いなどにはごうもかかわらないし、歯牙にもかけない――という超然たる態度をとることが公家伝統の保身であった。


 地雷火を完成させた佐助と才蔵は、瀬田の唐橋に向かった。

 月光に照らされて二つの影が、東大路を南下し、山科の地にさしかかる頃、月が雲間に隠れた。

 忍びは闇夜でも目が利く。夜の街道をヒタヒタと足音のみが流れてゆく。


 佐助が隣りを走る才蔵に語りかけた。

「才蔵殿、敵兵は伊賀者を含め1万余。もし仕損じれば……」

「ならば、いかがした」

「オラとおぬしが一度に死ぬことになろう。さすれば、才蔵殿にとって迷惑なことよ」

「ふん。くだらぬことを申すでない。人はいずれ死ぬ」

「さ、左様か……」

「死ぬこと自体は問題ではない。いかに死ぬかが問題なのだ」

「では、才蔵殿は、いかように死にたいとお考えか」

「それよ。そのことよ。わしは日ノ本一の忍びとして、男冥利に尽きる死に場所をずっと探しておる。じゃが、見つからぬのよ」

「何故じゃ?」

「聞かぬでもわかるであろう。わしより強い奴がどこにおる」

「ふふっ。畏れ入ると申しておこう」

「それに、わがあるじ殿は何も申さぬが、胸のうちでは真田家の敵である家康を亡き者にしたいはず。雇い主の意を汲むのも、貰うた銭のうちよ」

「オラも佐江姫さまの仇を必ず……」

 二人は暗闇の中をひた走りに走った。めざすは瀬田の唐橋。

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