第258話 佐助の上洛

 今から四カ月ほど前のこと。

 佐助は佐江姫の仇を打つべく、服部半蔵の姿を求め、駿府に潜入していた。そのときに、城下で霧隠才蔵と再会を果たし、才蔵から家康が近く上洛するという話を聞いていた。無論、服部半蔵も家康の警護のため、行列に加わるはずであった。しかも、駕籠まわりの警護役として――。


 甲斐の隠し湯で刀傷を癒した佐助は、再び駿府へと南下し、東海道の鞠子まりこ宿をめざした。


 駿府城を探索していた才蔵は、再会した佐助に伝えていた。

「半蔵をるなら、家康上洛の駕籠かごを狙うがよい。わしも、あるじ殿のために家康を殺らねばならぬ。ならば、徳川は共通の敵。わしとともに上洛し、ともに行動するなら、こののち、鞠子宿で落ち合おうぞ」


 才蔵が鞠子宿を指定したのは、東海道でもっとも小さい宿場という利点からである。小さい宿場は、旅籠の数が少なく、才蔵の居場所が見つけやすい。

 佐助は鞠子宿に着いて、視線を上に泳がせた。しばらくして、佐助の金壺眼に、白いものが飛び込んできた。 

「あった、あった。あれじゃ」

 二階の窓の欄干に、白い布がくくりつけられ、風にひらひらとそよいでいる。それが、才蔵がいる旅籠の目印であった。


 鞠子宿で落ち合った二人は、翌朝、京の都へと急いだ。

 家康の行列を京で迎え撃ち、確実に冥府へと送るためには、事前に周到な手はずを整えねばならない。

 才蔵は忍びの練達だけに、佐助に劣らず駿足である。家康の浜松城、岡崎城などを尻目に、ひたすら西へ進み、数日後には洛中の今出川通りを歩いていた。


「これが京の都か。ひなとは異なり、にぎにぎしいことよ」

 初めて京に足を踏み入れた佐助は、思わず目をきょろきょろさせた。

 気づくと、なかとしたことか、才蔵の姿がない。

 佐助は焦った。まさか京の都に着いた早々、迷子になるとは、思いもよらぬことであった。

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