第257話 大坂城出仕―2
幸村が大坂城に入った当時――。
秀吉は戦わずして、家康を臣従させることに手を尽くしていた。が、家康もそう簡単には秀吉に服さない。
今から二年前、家康は小牧・長久手の戦いで秀吉軍に苦杯をなめさせていた。
「そのわしが、なんであの猿面冠者に膝を屈せねばならぬ」
家康は家臣を前に、秀吉をののしった。
「ふむ。さすが三河の狸。こうなれば猿が狸を化かすしかあるまい」
秀吉の野望は、織田信長が成し遂げられなかった天下統一である。この信長の遺業を達成するためには、何がなんでも家康を服属させねばならない。
秀吉は策を弄した。
最初に打った一手は、自分の妹の旭姫を家康に嫁がせるという奇策である。
このとき旭姫44歳。しかも人妻であった妹を無理やり離縁させ、嫁がせたのだ。焦慮の末とはいえ、無惨なことといわざるを得ない。
それでもなお家康は服さない。
ついに、しびれを切らした秀吉は、最後の手に出た。
自分の生母である
家康は呆れ果てたが、こうなると折れざるを得ない。
もし、ここで自分が動かなかったら、豊臣対徳川の一大決戦になるであろう。その場合、家康には勝ち切る自信がなかった。
家康はついに腰を上げた。
一万余の兵を率いて、東海道を西上し、上洛の途に就いたのである。
秀吉はこれを聞き、手を
やっと家康を屈服させられるのだ。天下統一に王手をかけたのだ。
あとは四国・九州を平らげ、小田原の北条を成敗すれば、奥州はおのずと掌中に落ちる。
秀吉は朝廷に莫大な金銀を献上し、関白就任を奏上した。
それから5日後の深夜。
京の都の公家屋敷から、二人の男が姿を現した。
一人は背に長剣を負うている。紅羅紗の袖なし羽織に銀糸で刺繍された十字架が月明かりに浮かび上がった。
もう一人はみすぼらしい小男であった。顔が疱瘡痕におおわれている。
霧隠才蔵と猿飛ノ佐助であった。
この二人は、こんな夜に果たしてどこへ行こうとしているのか。
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