第252話 穴山小介との邂逅―3
幸村が、穴山小介と初めて会ったのは沼田城である。
沼田城は時あたかも北条との戦いの渦中にあった。
父昌幸の命で援兵を率いて駆けつけた幸村は、三十郎に「小介どのはわが従弟でござる」と引き合わされ、以来、穴山父子と親しく言葉を交わすようになったのだ。
当時、まだ前髪の少年であった小介は、五尺三寸(約160センチ)ほどの身の丈ながらも筋骨隆々で怪力無双。背に引きずるような大太刀を負い、父
小介の甲冑は、ひときわ目立つ緋縅しの鎧。白地に赤の日の丸の旗指物をひるがえし、持ち前の膂力を生かしての奮迅ぶりは、めざましいものがあった。
敵中、大太刀を苧殻のように軽々と振り回す。
小介の行く手をはばむ者は、無惨にも具足ごと両断され、薙ぎ倒された。
そのうちに奇妙な噂が沼田城内に流れた。
緋縅しの少年武者が打って出ると、必ずお味方が有利になる――という噂であった。
無敗の戦歴を誇る猛将頼綱までが、
「小介はわが軍の守り神やもしれぬ」
と、頼もしげに言う。
確かに、童顔の小介が父の玄蕃を守るように、血なまぐさい戦場を平然と闊歩する姿は、真田方に不思議な勇気と落ち着きを与えるものであった。
小介はもしかして自分が討ち死にすることなど考えたこともなかったのではあるまいか。そう思えるほど、この少年には底抜けの胆力とともに陽気な性分が備わっており、小介の周りは常に笑い声に包まれていた。
「こうして会うのは、4年ぶりじゃの。歳月の過ぎるのは早いものよ」
と、幸村は小介の顔をまじまじと見ながら、語りかけた。
それにしても、父親の玄蕃の姿が見えないのは、どうしてなのか。
幸村がそれを問うと、小介が顔を悲しげに伏せた。
「佐江姉さまが亡くなった直後、北条4万の軍が沼田城に押し寄せ申した。あのとき……」
そうか、あのときの合戦で討ち死にされたのか、と思い至り、幸村も悲痛な面持ちで眉根を寄せた。
小介は父玄蕃の最期を語った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます