第251話 穴山小介との邂逅―2
穴山小介の母は、矢沢三十郎頼康の母・諏訪御前の妹である。したがって、三十郎と穴山小介は従兄弟同士の間柄となる。
小介は幼い頃から、三十郎のことを「兄さま」と呼ぶほど慕っていた。無論、小介と佐江も従姉弟同士であり、両名が幼馴染であったことはいうまでもない。
二階の窓から身を乗りだして、三十郎が声を張り上げる。
「小介どのが、そこで子供のごとく騒ぐゆえ、おちおち眠っておれぬわ。悪ざけはやめて、早うこちらに参られよ」
「かたじけのうございまする」
喜色を満面にあらわした小介が、幸村に向き直って一揖し、
「源次郎さま。お先にお越しくだされ。われら一同は、源次郎さまの後につづきまする」
そして、配下の者に大声で伝えた。
「皆々、断じて無礼はならぬ。口の利き方にも気をつけるのじゃ」
先程の猛々しさとは、打って変わった神妙さである。
穴山小介――。
この若者は、武田家一門衆の筆頭であった穴山信君こと梅雪の甥にあたる。
梅雪は、前にも述べたように、天正10年、武田家凋落の兆しを見るや、翻然として勝頼を裏切り、武田家滅亡のきっかけをつくった人物である。
その年の6月、堺で本能寺の変の報せを聞いた梅雪は、帰国の途上、落ち武者狩りの土民に襲われ殺害されたという(これには諸説あるが、いずれも非業の死)。
小介の父である玄蕃信光は、武田家が滅んだあと、姻戚関係にあった矢沢頼綱を頼り、上州沼田城に一族郎党を引き連れ、身を寄せた。
無論、その一行に嫡男の小介も加わっていた。
三十郎頼康や佐江とも、それ以来の仲であり、小介は美しい姫御前たる佐江のことを「佐江姉さま」と呼んで、憧れの念をもって接していた。
すなわち小介にとって亡き佐江姫は、初恋の人であった。
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